第二話「緑の日」
「各機、編隊を組め! 一番から五番は前へ行け! 六番から十番はその後ろに、十一番から十五番は最後尾につけ!」
「了解!」
八番機に乗り込んでいた部隊長の指示に従って、空を行く十五の機体が淀みない動作で縦隊を組んでいく。一番前に三機、その後ろに二機。その五機でワンセットとして、その後ろに同じ要領で五機がくっつく。そんな具合で三機と二機の組み合わせを交互に取った隊列だった。
前列の五機はドラムマガジン型のグレネードランチャーを両手で構え、予備の榴弾を腰に備え付けていた。中列の五機は円筒形のバズーカ砲を一丁ずつ肩から担ぎ、後列の五機は銃身の下部に燃料タンクを据え付けたタイプの火炎放射器を装備していた。
ジンジャー・バーリィの機体はその最後尾にいた。
「目標地点到達まで、あと四百八十秒! 各員、武装の最終チェックをしろ!」
「了解!」
隊列を組み終えた部隊員に向けて部隊長が指示を飛ばし、その言葉を受けて隊員達が一斉に目の前のメインモニターの下にあるキーボードに指を走らせる。
入力を終えると、メインモニターの右端に今の自分の乗機を正面から描いた線画と、装備している武器を側面から描いた線画が表示される。
機体や武器に問題がない場合、その線画は無色のままである。だが電池の残量や損傷の度合い、弾切れ等その他なんらかの不具合が生じた際には、その部位に色がつき、危険を搭乗者に視覚的に訴える事になっているのだ。塗られる色については緑が一番症状が軽く、そこから黄色、赤となっていくに従って重傷であるとされる。
その線画を見ていたジンジャーが顔をしかめた。すぐに無線を繋げる。
「隊長」
「十五番機、どうした?」
キーボードを指で叩き、映っている機体の線画を側面から描いた物にシフトさせる。その機体の真ん中付近――無色の機体本体とバックパックの間に、僅かに黄色がかった緑色が混じり込んでいたのだ。
「機体とバックパックの接合面に不具合を確認」
「損傷の度合いは?」
「グリーンからイエロー。ややグリーンが強めです」
「飛べるか?」
本来ならば大事をとって基地に帰すべきなのだろうが、隊長はすぐにその判断を取る事を躊躇った。
久しぶりの作戦なのだ。失敗させる事はおろか、この機会を棒に振る事もしたくなかった。
そしてその気持ちは、ジンジャーも同じだった。
「――行けます」
だから行けると言った。
帰った方が得策だとは知っているが、理屈で感情は動かせなかった。
「行かせて下さい」
「……わかった」
ジンジャーの懇願に隊長が折れる。いや、例えここでジンジャーが帰りたいとゴネた所で、隊長にはそもそも彼女を基地に帰投させる気などさらさら無かった。
せっかくの――半年ぶりの作戦なのだ。
「全機、このまま目標地点まで飛行を続ける。遅れるなよ!」
「了解!」
そう。半年ぶりの作戦。夢にまで見た決行日。
嬉しさと興奮で我を忘れ、今すぐにでも叫び出してしまいたくなる。だがそうしてはいけない。自分達がやらなければ、全てが水の泡になるからだ。
そうして感情の昂りを戒めるかのように、隊長が一際強い口調で檄を飛ばす。だが自らの逸る気持ちを押さえつけるのに手一杯だったのは、彼だけではなかった。
「ついに、ついにこの日が来たか……」
「ああ、待ちきれない。早くこいつをぶっ放したい……!」
「落ち着け。もうすぐだ。もうすぐ……」
爆発せん程に膨れ上がった自らの感情を抑えようとする焦燥と苛立ちの声が、無線を通して次々と流れてくる。
そう。ロウアー出身の十五人全員が、その瞬間を待ち望んでいたのだった。
「急げ急げ! 早くしないと間に合わんぞ!」
「前だけ見て走れ! 急げ!」
「誰か転んだぞ!」
「ほっとけ! 間に合わなくなったらどうする!」
ロウアー居住区域第十四番地区。最低限舗装された灰色の地面の上に工場と居住用家屋が碁盤目状に均等に敷き詰められたそのエリアは、一年の中で一番騒然としていた。
建物の配置の関係上縦横共に直角になるように組まれた全ての歩道の上を、何百何千もの人間の群れが力の限り激走する。転んだ人間を踏みつけ、向こう側からやってくる他人を押しのけ、必死の形相を浮かべながら全速力で駆け抜ける。
その様は、まるで死神から逃げるかのような決死の逃避行のようであった。だがこの逃避行に失敗したとしても、別に彼らが命を喪うような事は無かった。
それでも彼らは道を走る。人の流れをかき分け、目的地までひた走る。
彼らはどこへ向かっているのか? 職場を離れ、自分の家へと帰ろうとしているのだ。
なぜ死に物狂いで家にまで帰ろうとしているのか? 『祭り』のためである。
その『祭り』は、全てのロウアーが長らく待ち望んでいた物だった。そしてその『祭り』は、全ての人間が自宅に帰り、しっかりと戸締りをしなければ――ガラス窓が割られないために防弾機能を持つシャッターを降ろさなければ――始める事が出来なかったのだ。
全員が列を守って家に帰ればいいではないか、と冷静に考えられるほど、この時のロウアーに精神的余裕は無かった。住人から理性を奪い本能をむき出しにする程に、この『祭り』は全てのロウアーが熱望していた物なのだ。
それ故にこの時の全ての道はその秩序を完全に失い、順行と逆行が混ざり合いもつれ合う混沌と化していたのだ。
「ぜー、はー、ぜー……」
その中で、ライチは人の流れに逆らい、無事に職場を離れて自宅に帰る事に成功していた。そして彼は今、ヘトヘトに疲れた体を玄関に通じる通路の上に倒して、仰向けの姿勢のまま激しく呼吸を繰り返していた。
「おかえなさい、ライチ。今日はいつもよりずっと酷い格好ですね」
家の留守を任されたAIが、玄関の真上に据え付けられたカメラ越しにライチの姿を捉えて挨拶もそこそこにそう告げた。だがAIの言う通り、今のライチの状態は悲惨そのものであった。
群青のチョッキの前を留めていた青いボタンは一つ残らずねじ取られ、その下に来ていた白い半袖のシャツと青い半ズボンは乱れに乱れ、露出していた四肢と顔には擦れた跡の赤い線や打撲の跡が生々しく刻まれていた。
「傷だらけじゃないですか。大丈夫ですか?」
「五体満足で帰れただけでも万々歳だよ」
そう返せるまでに回復したライチがゆっくりと上体を起こし、途中よろめきながらも何とか二本の足で立つ事に成功する。そして天井のカメラに目を向けながら、弱り切った口調でライチが言った。
「緑の日だ。大至急シャッターを閉めて」
「かしこまりました」
AIがその指示に対して了承の返事を返すと同時に、前方にから激しい機械音が唸りを上げ始めた。
再び深呼吸をし、完全に調子を取り戻したライチが通路を通って居間に向かう。そして居間にたどり着いた彼の目の前では、窓の向こう側で黒い防護用のシャッターが今まさに降り切らんとしていた。
やがてガシャンと一際大きな音を立てて、シャッターが完全に地面と接地する。そして今度は、背後の玄関ドアの向こうから同様の機械音が鳴り響き、やがて同じくガシャンと遮断する音が響いてきた。
天井にある換気扇が音を立てて回り始める。AIがライチに話しかけた。
「全シャッター展開完了。空気の入れ替え用意も終わりました」
「外部撮影カメラ用意」
「カメラ用意。展開……完了。モニター出します」
そう電子音声が告げると共に、天井から薄型の長方形のモニターがロボットアームに吊り上げられる形で降りてきて来た。そしてそれと向かい合うようにして今度は床の一部が左右に割れ、低い稼動音を立てながらその下からソファがせり上がって来た。
「飲み物はどうしましょう?」
「とりあえずはいいや。ご苦労様」
そのソファに座り、背もたれに体を預けながら首を痛めない位置に微調整されたモニターに目を向ける。
「祭り開始まで、あと三十秒」
「三十秒? そんなに余裕なかったの?」
「はい。あなたが帰ってこなければどうしようかと思っておりました」
「そうか。心配かけたね」
そう言葉を投げかけるライチの目の前で、モニターの画面にノイズと砂嵐が走る。その画面の荒れは数秒で治まり、ブラックアウトする。そして外付けのカメラから自宅前一帯――道路と、それを挟んで自宅と同じ構造をした立方体の建築物が一定の間隔を開けて横一列に並んでいた――を見上げるように映した映像と、自宅から遠く離れた別地区内の各ポイント――十字路付近を見上げた物や横一列に並んだ建物を正面から見上げた物など――を映した映像が、直角に区切られた形で分割されて右上から順番に、カードを裏返すかのような動きを伴って表示されていった。
長方形状に区切られた映像がモニターを完全に埋め尽くす。AIが淡々とした口調で言った。
「全監視装置リンク完了。他の場所の映像が見たい時は、いつでもお申し付け下さい」
「こういう時は監視カメラに感謝しないとね」
エリア全域を包括する監視システムにリンクさせ、エリア内の全てのポイントの映像を見る事が出来る。これもまた、『祭り』を楽しむために必要な事であった。
「ライチ」
不意にAIがライチの名を呼んだ。そしてライチの反応を待つ事無く、モニター内に映しだされていた映像の一つが、同じく分割されて表示されていた他の映像群を押しのけるようにして相似拡大されていった。
その映像は居住区の中でも端の方に位置していた区域の、そのまた端っこの部分を捉えていた。両脇には人工の大地の上に立てられた立方体状の建物が等間隔で立ち並び、そして三分の二ほど奥に行った所で地面の色が人工の灰色から未開発の荒野の赤に入れ替わっていた。そしてそこから先は青い空の下、真っ赤な領域がどこまでもひろがっていたのだった。
その赤と青に挟まれた空の向こうから、幾つかの小さな影が重なり合い存在感を増した影の群れが真っ直ぐ近づいてくるのが見えたのだった。
その映像を食い入るように見つめていたライチに向けて、AIが淡々と告げた。
「来ました」
「目標まであと一・五キロ」
部隊長が各機にそう告げながらモニター下部のキーボードをいじる。モニターの左端に映されていたレーダーを遠距離用から近距離用に変え、前方に赤く光る点の横に記された各情報を確認する。
「まずは第七地区だ。手始めにこのポイントを攻めるぞ」
「了解」
「八百メートルまで接近したら行動開始だ。勝負は一瞬、気を抜くな」
「了解!」
部隊長の指示が飛ぶ。同時に十五の機体がウィンウィンと腕を動かし、手にした武器に弾薬を装填する。
レーダーを睨みつける。残り一・ニキロ。
「全機、やや減速。第一陣、用意!」
最前列の五機がグレネードランチャーをまっすぐ構える。
残り一キロ。
「ロックオン!」
白い菱形のマーカーがモニター中央に固定され、甲高い電子音を立てながら赤く変色する。
汗で操縦桿を握る手が滑り落ちそうになる。それを離すまいと握る手に更に力を込める。
残り九百五十。
残り九百。
八百六十。
三十。
十――
「撃て!」
部隊長が大喝する。
五機が同じタイミングでグレネードランチャーの引き金を引く。第七地区のド真ん中に向けて、何度も何度も引きまくる。
十二連装のドラムマガジンが一瞬で空になる。
全てを撃ち終えると同時に、最初の五機が隊列を保ったまま最後尾に移動する。そしてその五機が眼前から消えるやいなや、すぐさま次の五機がバズーカ砲の引き金を引く。
此方は一回だけ撃ってそれでお終いだった。すぐに隊の上方を飛んで最後尾に向かう。
「仕上げだ。接近するぞ!」
隊長が号令を飛ばす。それに従って十五機の機体が火炎放射器を持った機体を先頭にして、弾の撃ち込まれた地点へと急行していった。
撃ちだされた榴弾は発射されてから間を置く事なく背部の小型ロケットモーターを点火させ、一気に超音速で目標地点まですっ飛んでいく。
撃ち出されてから二秒もしない内に目標ポイントの地面に激突する。その衝撃で弾頭が破裂し、周囲に白い煙幕を張る。その最初の一発に続くように、六十発近い弾頭が同じ地点に続けざまに着弾し、煙の量を容赦なく増やしていく。そして全てが撃ち込まれた後には、第七地区全域は前も見えない程に密度を増し急速に拡散していった真っ白な煙の中に、完全に埋もれていたのだった。
その煙を、一発のバズーカの弾頭が破裂し中から飛び出してきた数千もの小さな弾丸が上方から貫いていった。それらの弾丸は大気を裂く鋭い音と共に煙をぶち抜き、区域内に存在する全ての地面、そして建物の壁や屋上に深々と食い込んでいった。
件のジャケット部隊が第七地区の端に到達したのは、そうして全ての弾丸がありとあらゆる場所に撃ち込まれた直後の事だった。
編隊が最後の行動を起こしたのは、その区域に侵入を果たした直後だった。前を行く五機がノズルの先端を下に向けたまま、一斉に火炎放射器の引き金を引いたのだ。
しかし、その先端から放たれたのは水だった。
下水管が破裂したかのような勢いで、大量の水が容赦なく足下にぶち撒けられていく。勢い良く放たれた五筋の水は周囲を白く覆い隠していた煙をたちまち晴らし、瞬く間に地面を水浸しにしていった。
そしてそのまま水を撒き、時には銃身を左右に揺らして区域一帯に万遍なく水を行き渡らせながら、機体群はやがて弾丸の撃ち込まれた部分も含むすべての区域内に水を撒き終え、またグレネードランチャーを持った機体を最前列に据えるように隊列を組み替えながら別の区域へと飛んでいった。
始めから終わりまで一分程度しか経っていなかった。
「成長促進剤の反応の変化を確認」
それまで全体を覆っていた煙が完全に晴れ、先ほどと殆ど同じ光景――違うのは地面が水浸しになっていた事か――を移していたモニター画面を凝視していたライチに向けて、AIが淡々と状況説明を開始する。
「水と化学反応を起こし、促進剤種子に影響を与えるまでに五秒。それから促進剤の効力によって種子が細胞分裂を活性化させ、発芽するまで――」
「来た!」
AIの言葉を遮るように叫びながら、それまで一言も発する事なくモニター見ていたライチが勢い良く立ち上がる。
「来た! 来た! ついに来た!」
モニターを食い入る様に見つめながら、ライチが興奮を隠す事無く叫び続ける。そのモニターの向こうでは変化が起こっていた。
壁から、屋上から、地面から、何か白い糸のような物が一斉に伸び生えてきたのだ。そして暫くの間その場でウネウネと風になびかれる様に蠢いた後、次の変化が生じた。
その蠢く動作を止めた直後、録画した映像を倍速で流しているかの如き猛スピードで伸長し肥大化していったのだ。
それはまさに細胞分裂――『成長』と言うべき現象であった。そしてその『成長』によって、それまで糸のように白く細かったそれらが全く違う姿へと変貌していった。
ある物は茶色くゴツゴツとした質感を持った幹に、またある物は白く滑らかな表面を持った蔦に。そしてある物は深い緑を帯びた葉っぱを具えた枝に。
成長促進剤の効果を受けて急速な細胞分裂を行い、その大量の糸はそれぞれが予め設定されていた姿へと急速にその姿を変化させていったのだ。
そんなモニター前で発生した変異が全て終わる頃、ライチの眼前には文字通りの『ジャングル』が広がっていたのだ。
「今年も上手く行ったようですね」
AIがそんな言葉を漏らすが、もはやライチの耳には届いていない。彼は半年ぶりに見る『緑』の山――蔦が樹の枝に絡み、何十もの大木が太い根を地面の上に生やしてそそり立つ、それらロウアー居住区には決して存在しないその姿を少しでも脳裏に焼き付けておこうと、必死でモニターを凝視していたのだ。
生で緑を見たことのないロウアーの人々のために、ジャケットを使って遺伝子改良を施して成長速度を早めた植物の種子を上空から撃ちこみ、それを更に強制成長促進剤と水を用いて数十秒の内にかつて地球に存在していた完全な森の姿を再現する。
それが『緑の日』に行われる『祭り』の正体であったのだ。
だがそうやって強制的に成長した自然は、その寿命もまた短いものであった。その人工の森は一日と経たずに崩壊し、明日にはもうその姿を残してはいないだろう。
だからこそ、ライチ達ロウアーの人々は、この目の前に映る自然の光景を目に焼き付けようと、必死になってその様を見続けるのである。中にはシャッターを上げ、外に出てその自然の姿を直接垣間見ようとする者もいた。実際にモニターの映す映像には、そんな画面全体に広がる森に群がる人間の姿がちらほらと見えていた。
そしてライチもその一人であった。彼はもうモニターに映る木々の姿だけでは物足りず、それらを直接見たくてたまらなくなっていたのだ。
「次は? 次はどこに種まきが来るの?」
興奮冷めやらぬ口調でライチがAIに尋ねる。そして「お待ちを」と返してからの暫しの沈黙の後、AIが相変わらず抑揚のない機械音声で返答した。
「現在の移動ルートからして、次の目標は第十四地区のようです」
「十四……て事は、次はここって事?」
「そう言うことになります」
AIの言葉にライチが顔を輝かせる。半年ぶりの緑だ。胸が興奮と期待に高まっていく。
なぜここまで緑に対して興奮するのか、ライチは判らなかった。自然と切り離された肉体が――その遺伝子が、無意識の内にその自然に対して飢餓反応を示しているとでも言うのだろうか。
どうでも良かった。今はただ森を、ジャングルを見られるだけで十分だったのだ。
頭上から何かが撃ちだされ、そして地面で何かが破裂する音が連続して響いてくる。その衝撃音をシャッター越しに聞きながら、ライチは今か今かとその瞬間を待ち望んでいた。
家の中に警報のアラームが鳴り響いたのはその時だった。
「うわっ! な、なに!?」
突然の事にあからさまに動揺するライチに、AIが淡々とした口調で言った。
「ライチ、シャッターを上げます」
「え――どうして? だってまだ種まきが」
「非常事態です。ライチ、早く逃げて下さい」
シャッターが自動で上がっていく音が聞こえてくる。それと同時にバズーカの弾頭が迫ってくるかのような――それよりも重そうな何かが落ちてくるような音が外から聞こえてくる。
段々と音が大きさを増していく。
「逃げてって、どういう事なんだよ。状況が全然わからない――」
床が――家がグラグラと揺れ始める。
よろめき、思わず壁に手を付ける。
AIが尚も淡々と言葉を放つ。
「警告です。早く逃げて下さい。警告。警告。警告」
やがて狂ったようにAIが言葉を紡ぎ始める。何度も同じ単語を同じ調子で繰り返すその姿を見て、ライチが身の危険を感じ始める。
「警告。警告。警告」
身を翻し、玄関まで走る。家が揺れる音と上から迫る音の二重奏がライチの鼓膜を容赦なく責め立てる。
頭が破裂しそうだ。それでも走り続ける。
「衝突まであと二秒」
ライチの背後から死刑宣告が通達される。
「駄目、速度が速すぎる」
思わずライチが足を止める。今際の際でもAIは冷静に言葉を発した。
「衝突」
ライチの家の屋上に、空から一機のジャケットが頭から突っ込んだ。