第十三話「水面下での殴り合い」
ライチが人助けをしたのと同じ時刻。
レモンにしばかれ、意識を失った少年はその後、カサブランカの懲罰房で目を覚ました。
「うっ……」
そして意識が覚醒すると共に顔に強烈な痛みを覚え、咄嗟にその部分を手で抑える。その痛みが脳内の記憶領域を刺激し、あの時の屈辱と敗北を否が応にも思い出させる。
「クソ、クソ、火星人どもめ、クソ」
少年の心には以前にも増してドス黒い憎悪の念が渦巻いていた。幾つか隣の懲罰房から恨めしい言葉が飛び交ってきているのが聞こえてきたが、どうでも良かった。
この部屋を出て、地球を侵略しに来たあの宇宙人どもに復讐する。それがその少年の一番の願いであり、悲願で会った。
「……静かにして……」
その時不意に懲罰房と通路を繋ぐ出入口のドアがスライドして開き、そこから一人の少女が現れた。寝間着姿のいかにも無気力そうな顔つきをした少女で、その手には長方形の茶色い物体をうず高く積んだお盆があった。
「……今日の栄養補給。死にたくなかったら食べて……」
そう言って少女が手前の房に近づき、腰を下ろしてその物体を何個か鉄格子の近くに置く。少女は別の房に同じ事を行った後、やがて少年のいる房の前に来た。
少年と少女が顔を合わせる。
少女が抑揚のない小さな声で言った。
「……あなた、あの時の子ね……」
「……ッ!」
海で人質にした奴の一人。
宇宙人の仲間。
少年の顔に怒りが満ち満ちてくる。
「お前ッ!」
鬼の形相で鉄格子を掴み、未だ立っていた少女と相対する。だが少女はそれを無視し、腰を下ろしてその物体を置く。
「……死にたくなかったら食べて……」
そしてそれだけ言って、何の感慨も興味も抱かずに立ち上がり、少年のいる房から下がって出入口へと向かう。
「待てよ!」
少年が叫ぶ。少女は歩みを止めない。
「おい! 待てって言ってるんだよ!」
止まらない。
「俺が怖いのかよ! 弱虫!」
出入口の前、ドアがスライドしたままの状態で少女が足を止める。そしてゆっくりと少年の方を向き、変わらず無気力な声で言った。
「……女の子一人撃てない人に言われたくない……」
「な――」
「……軟弱者……」
少女が通路に出て、ドアが閉まる。
それはこの少年にとって、この日一番の屈辱となった。
ライチが人助けをしたのと同じ時刻。
「司令。また例のです」
部下がそう言いながら一枚の紙片を持って執務室内に入ってきた時、ハナダは軽い頭痛を覚えた。
「……内容は?」
「いつも通りです。朗読しますか?」
「いや、いい。もう覚えた。差出人もな」
「青空の会」
部下がうんざりした顔でハナダのデスクの上にそれを置き、ハナダもまたうんざりした顔を浮かべて億劫そうにそれを手に取る。
「いつ見てもつまらん内容だ」
クアンタをよこせ。よこさなければ武力に訴える。
そこに書かれている全文の内、三十行近くある自己の正当性を説いた物を省いた上で内容を簡潔に纏めると、そう言う事である。
「出せと言われて簡単に出すと思っているのか」
「思ってないでしょうな。しかし欲しがっているのも事実です。だからまたやってきますよ」
「またか。やれやれ、面倒な連中だ」
ハナダがそう言ってデスクの脇にあるスタンドマイクを手元に引き寄せ、台座のスイッチを入れてからゆっくりと言った。
「私だ。そろそろあれが飛んでくるだろう。作業中断、迎撃に移れ」
そう言い終えてからスイッチを切り、再び部下に目をやる。
「いい加減なんとかしたいものだな」
「まったくです」
その数秒後、甲高いサイレンの音が支部全体に鳴り響いた。
ライチはそのバギーに乗っていた女性を助けた後、彼女をバギーごと両手に載せるようにしてジンジャー達の元に向かった。人二人乗せるほど、ジャケットのコクピットは広くなかった。
目的地に着いた時、その両手にある物を見て二人は目を丸くした。
「ライチ、それは?」
「助けてきた。追われてるみたいだったから」
「追われてる?」
「細かい事は後で話すよ。疲れてるみたいだし、今はとにかく休ませないと」
そう言ってから輸送機後方のハンガーまで運び込んで足元にバギーを降ろし、自らもジャケットを降りてバギーの座席についていた女性を肩に担ぐ。
「ライチ、乗務員室に就寝用のシーツを敷いておいたわ。それで足りる?」
「ああ。十分だ。ありがとう」
無線越しに言って来たエムジーに感謝の意を述べながらハンガー奥の乗務員室に向かう。そしてそこに立っていたエムジーの足元に敷かれていたシーツの上に女性をゆっくりと寝かせる。
女性の顔を見てエムジーは息を呑んだ。
「インパクト大ね」
特に眼帯が。ライチが頷く。
「同感だね」
そう答えて腰を上げようとしたライチの腕をその女性がとっさに掴んだ。エムジーが身構え、ライチが身をこ強張らせる。
「な、なんだよ」
「……ライチ……」
左目だけで強くライチを睨みつけながら、小さな声で女性が彼の名を呼んだ。
「ライチ・ライフィールドか……」
「自己紹介してたの?」
「まさか。そんな事してないし、第一初対面だ」
「……そうだ。私と奴は初対面だ」
戸惑うライチとエムジーにそう告げてから、女性がライチの腕を掴んだまま上体を起こす。そして何度か咳き込んだ後、なおもライチを睨みつけたまま女性が言った。
「だが、お前が何をしたのかは知っている」
その声も顔と同様、老いさらばえた髪質に似合わず若々しかった。
「な、何を知ってるって?」
「シンジュクの同胞を潰した事だ」
「……同胞?」
ライチが要領を得ずに顔をしかめる一方で、エムジーの顔には恐怖と敵意が混じり合っていた。
「ライチ、離れて」
「今度は何?」
「そいつ、あれよ」
荒くなる呼吸を整えてからエムジーが吐き出す様に言った。
「青空の会とか言うふざけた連中の一人よ」
その言葉に驚いてライチがエムジーを見上げ、ついで目の前の女性を見つめる。
女性はこちらを睨みつけたままだった。
「うっ、うわっ!」
猛獣が眼前に躍り出てきたかのようにライチが慌てふためき、その掴んでいた腕を振り払って尻餅をついたまま後ずさる。エムジーも同様にバックステップを行い、女性から距離を取る。
「動かないで!」
エムジーがすぐ横の壁に備え付けられていた突撃銃を引ったくり、銃口を女性に突きつけながら叫ぶ。立ち上がろうとして片膝立ちのまま動きを止めた女性に向けてエムジーが言った。
「そのまま両手を上げて、ゆっくり立ち上がって」
「……私は危害を加えるつもりはない」
「いいから立って!」
エムジーの命令のままに女性が立ち上がる。
「パインだ」
「え?」
「パイン・ジュール。私の名前だ」
女性とほぼ同時に立ち上がり、椅子の下に隠されていたスタンロッドを構え持ちながらライチが聞き返す。
「いきなりどうして?」
「言っただろう。敵対するつもりはないと」
「信用出来ないわね」
「名前だけでは信用出来んか」
「あんた達には随分とお世話になったからね」
憎しみの念を隠そうともせずにエムジーが吐き捨てる。それを正面から受け止めながらパインが言った。
「そうか、信用は得られんか。なら、もっと有益な情報を提供しよう」
「有益な?」
「……いや、話して聞かせるより直接見せた方が速いか。外に出てみろ。そろそろ面白い物が見られるぞ」
「外? 何が見られるって言うんだ?」
「ハッ、どうだか」
パインの物言いにライチもエムジーも苦い顔を浮かべた。
「どうせ外まで誘導しておいて、逃げ出そうとか考えてるんでしょう? そうはいかないわ」
「違う。逃げようとか考えてる訳じゃない。そもそも向こうにはもう何の未練もない。ライチ・ライフィールド、お前も私が追われていたのは見てるだろう?」
「うん、見てたよ。だけどそれが罠じゃないって保証がどこにあるの?」
ライチがスタンロッドのスイッチを入れる。ロッドの持ち手から上が一瞬スパークし、周囲に電流を這い回らせながら青白く発光する。ライチの顔を反射光で青白く染め上げるほどの強烈な光だった。
「僕だって地球に来る時に、そっちの連れに銃向けられたんだ。死ぬかと思ったよ」
「……」
「悪いけど、外には出せない。ソウアーまで一緒に来てもらうよ」
ライチの言葉にパインがため息をつく。その顔はそこか懇願している風にも見えた。
頭ごなしに信用できる事は到底出来なかった。
「……信じてはもらえんか」
「当たり前でしょ」
「右に同じ」
断言する二人は完全に疑心暗鬼になっていた。パインの言葉を信じようとは欠片も考えていない。
「おい! 聞こえるか!」
その時、二人の疑念を打ち砕く声が室内のスピーカーから聞こえてきた。
「二人とも、聞こえてるか! 返事しろ!」
「ジンジャー? どうしたの?」
「外だ! 外を見てみろ!」
「外?」
「え、何? 何が起きてるの?」
息を呑む二人を尻目にパインが目を瞑り、両手を上げたまま得心したように頷く。
「砲台だ! 地下から砲台がせり上がってる!」
ジンジャーが逆転の一打を放った。
パインを連れてライチとジンジャーが外に出て内陸部に目を向けた時、そこには直方体型のミサイル発射台が全部で七基、十二個ある発射口を全て開いた状態で斜めに展開されていた。
「何これ……?」
「だから言っただろう。見れば判ると」
「あれがあんたの見せたかった物なの?」
銃を構えたままエムジーがパインに詰め寄る横で、ライチは一人でハンガーに戻ってジャケットに乗り込み、起動させながら中の無線機を使ってジンジャーに連絡をとった。
「ジンジャー、これはいつ頃から?」
「ついさっきだ。目の前で地面が左右に割れて、そこからせり上がってきた!」
「どこ狙ってるかわかる!?」
「判るわけないだろう! 今見つけたばっかなんだ!」
「オキナワ本島よ」
不意に集音装置が声を拾う。その方へライチがジャケットの顔を向けると、正面モニターにこちらを見つめるパインの姿が映った。
モニターに映るパインが口を開く。
「あれは青空の会がオキナワ攻撃のために開発したミサイル砲台。正確にはオキナワにあるソウアーの支部が目標か」
「開発? あれを一から開発したって?」
「物資とかどこから持って来たんだ。全部地下からか?」
「地下は宝の山じゃない。あそこまで完璧な装置は作れない。しかるべきルートから部品を手に入れて作ったのよ」
「どこから?」
エムジーが言った。その時、それまで沈黙を守っていたミサイル砲台が一斉に首を振り回してある方向で停止する。
サイレンが高らかに鳴り響く。それをバックにパインが言った。
「スポンサー様から」
刹那、四人の目の前で煙と轟音をまき散らしながら、八十四発のミサイルが一斉に空に吐き出されていった。
レモン達がそのサイレンを聞いたのは、ちょうど中休みを終えて午後の作業に取り掛かろうとしていた時だった。
「あら? あらあらあら?」
そしてそのサイレンが鳴り響いた直後、いきなりの事に戸惑う三人――内一人は相変わらず暢気な反応だったが――の周りにいた他の作業員達が、まるで尻に火がついたかのように本施設に走り去っていく。
「おい、これはいったいどういうことなんだ?」
その内の一人をとっ捕まえてヤーボが尋ねる。いきなり行動を阻害された事に不満を露わにしながらも、状況を理解できていない三人に向けて矢継ぎ早に言った。
「警報だ! ミサイルが発射されたんだ!」
「ミサイルだって!?」
ヤーボが叫び、ギュンターが驚愕する。レモンは平常運転だった。男が冷ややかに笑いながら言った。
「別に珍しい事じゃないさ。オキナワにミサイルが来始めたのはつい三、四ヶ月前の事なんだ」
「誰が攻撃してるんだ? わかるか?」
ギュンターの質問に顔をしかめてその男が言った。
「青空の会だよ」
それだけ言い捨て、再び他の作業員の群れに溶け込んでいった男を見て、ギュンターが思い出したように言った。
「我々も退避しよう!」
「執務室に参りましょう」
だがその直後にレモンの言った言葉に、ギュンターとヤーボがそちらを振り向く。
「そこなら、何が起きているのか一番にわかりますよねー?」
いつも通りの調子で放ったレモンの言葉に、男二人は顔を見合わせて頷いた。
「ミサイル、本島に向けて直進中」
「迎撃砲台は?」
「ミヤコ島より北東百三十キロ地点にて全機稼働中。海水による弾丸の劣化も確認されず。問題ありません」
「そうか。そこは問題なしか……」
ハナダはかつてライチ達と相対し、今は即席の作戦本部となった縦長の会議室の最奥、一段高い壇上にいた。そこには壇上から見てプラスチック製の横長のデスクが等間隔に並べられており、その上にこれまた等間隔にコンピュータが置かれて一台につき一人が配置に着いていた。
そのコンピュータとにらめっこしている部下の一人からそう報告を受け取りながら、自身もそれまで凝視していた目の前のコンピュータから視線を外し、顔を動かさず両目だけを左右に動かした。
「こちらは大いに問題ありなんだがね」
「は、ははは……」
「おじゃましてますー」
自身を取り囲むように後ろと左右に立ち、目の前にあるコンピュータを覗き込もうとしていたレモン達をハナダが目で威圧する。
「まったく、この忙しい時になんでここに来るのかね」
「ご安心ください。こちらは何の危害も妨害も加えませんからー」
「いや、そう言う問題じゃないと思うんだがね」
「いいじゃないですか、減る物でもなしー」
「……はあ」
こんな時、レモンの唯我独尊ぶりはまったく頼もしい物だった。観念したように「静かに頼むぞ」と釘を差してから、目の前の部下の一人に言った。
「ミサイルは?」
「あと四十秒で射程範囲内です」
「でも、今度はどっから飛んで来たんだ? 確かアマミ大島の砲台は潰したんだろ?」
「それとクメ島の奴もね。方向からしてミヤコ島の方かしら?」
「おいおい。ミヤコ島の奴は一番最初に潰しただろ。地下の基地も爆破したはずだ」
「詮索は後だ。とにかく今は、ミサイルに注意を払え」
ひそひそ話を始めた部下にも釘を差し、ハナダが目の前のコンピュータに注目する。レモン達もそれに倣う。
「この海の上の緑の円が迎撃範囲なのですねー?」
「そうだ。熱線レーザー砲を使った迎撃装置の射程範囲だ。そしてこの赤い点がミサイル」
レモンがモニターに表示されたオキナワ一帯の地図の中にある本島とミヤコ島の間に現れた四つの緑の円を指し示し、ハナダがその円に向かって斜め左下方から飛んでくる赤の点の群れを指した。その赤点の数にギュンターが軽い目眩を覚えた。
「こんなにたくさん……!」
「何、許容範囲だ」
だがハナダは動じなかった。赤が緑に近づいて行く。
「到達まであと二十秒」
女の隊員が秒読みを続ける。
「あと八秒」
会議室に緊張が走る。ハナダが下唇を噛み、握り拳を作る。
「あと五秒。三、二、一――」
赤が緑の縁に接触する。
そして触れたそばから、その赤い点が音もなく一瞬で消滅していった。緑の防波堤の前に、殺意を乗せた赤は完全に無力だった。
隊員が何の感慨も抱かずに淡々と告げる。
「全機撃墜を確認」
「第二波が来るかもしれん。警戒を怠るな」
「了解」
ハナダとその隊員のやり取りの後、会議室に流れる空気が変わった。相変わらず緊迫してはいたが、それは最初の頃よりもずっと緩んだ物になっていた。
その空気の中、逆に静かな口調でレモンがハナダに問うた。
「……このような事を、ずっとやっていたのですか?」
「ああ。つい前からな。本部から潜行機能付きの砲台を何基か受領してたのが幸いだった。と言うか、本部司令の読みの深さには感心するよ」
「あの人の場合、ただ用心深いだけかと思われますがー?」
「まあ、そうとも言える――」
そこで一旦言葉を切り、ハナダがレモンを見る。そして納得したように頷きながらハナダが口を開いた。
「そうか、レモン・マクラーレン。マクラーレンの一族か。君達は確か、個人的に司令と知り合いだったな」
「はい。姉様ともども、お世話になっておりましたー」
「そうか、そうか。後ろの二人は付き人か」
「はいー。私が『外に出て働きたい』と申した際に、私の身を守るために。とても良い人達ですよー?」
レモンの言葉に、二人は表情を引き締めて背を伸ばす事でそれに答える。それを見て「良い従者を持ったな」と答えてから再び前を向き、部下の一人に問いかけた。
「第二波の気配は?」
「見えません。それと支部長」
「なんだ?」
「先ほど通信が入りました。ライチ・ライフィールド以下三名の特殊チームが任務を終え、こちらに向かっております」
「そうか。彼らもやり遂げてくれたか」
「はい。お土産を持ってすぐに帰る、だそうです」
「……土産だと?」
妙な物言いを前にハナダの眉が釣り上がる。部下が驚いて「向こうからその様に言ってきたんです」と補足してから、最初の頃の調子に戻って報告を続けた。
「こちらにはあと五分で到着の模様。クアンタのデータも一緒です」
「よし、四番ゲート前に着けるよう連絡を出せ。私もそこに向かう」
「支部長が?」
既に立ち上がっていたハナダにその報告をした部下が驚きの顔を見せる。その部下に不敵に笑いながらハナダが返した。
「土産を持って来てるんだろ? 早く見たいじゃないか」
ライチ達の持って来た『土産』は、出迎えたハナダ達を驚かせるのに十分過ぎる程の効果を発揮した。
「捕虜だと? 青空の会の?」
「本人は逃げてきたって言ってるんですけど」
「そうだ。逃げてここまでやって来た」
「随分ふてぶてしい奴だな……まあいい。とりあえず臨時に尋問室を作って、そこで諸々の事を聞こう――おい!」
ハナダが後ろに控えていた部下を呼びつけ、適当な部屋を見繕って来るよう指示を飛ばした。
数分後、要件を済ませてこちらに戻ってきた部下の誘導の下、その場にいた全員がその部屋の下に集った。
到着するなり、ハナダが顔をしかめる。
「ここ食堂じゃないか」
「サー! 個室は全て満杯でした! プライバシーの侵害になると思い、個室は断念しました! サー!」
「他にも部屋があったと思うんだが」
「サー! この部屋が一番広く、快適だと判断しました! サー!」
部下の言葉に、今度はライチが顔をしかめた。
「尋問ってそう言う場所じゃないような……」
「時代は変わってるって事だな」
「まあいい。ここを使おう」
ハナダの決定により、結局食堂で尋問を行う事になった。参加メンバーはパインと彼女を保護したライチ達三人とハナダ。そして。
「AIは! 忘れた頃にやってくる! マレット三姉妹が長姉、イナ! 参上でございます!」
「最近この人のキャラがわからなくなってきた」
「オキナワの気温で頭バグったか」
リゾートから一夜開けた後、支部内のメインサーバにアクセスして情報収集に明け暮れていたイナが加わった。ちなみにクチメはあの後カサブランカに引きこもり、スバシリはオキナワ支部ロビーに置いてあった小説を片っ端から読み漁っていた。
「このAI連中は統率取ろうとは考えないのか!」
「今さら言った所で始まらないよ」
「面白い奴らだな。青空の会では見なかったタイプだ」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
そして最後に参加できない事に対してぶーぶー文句を垂れるレモン達を午後の仕事に向かわせた後、件の六人で改めて尋問を開始した。
「なんの音沙汰もない……ミサイル攻撃はまた失敗ようだな」
どことも知れぬ、光さえも見えない闇の中。一人の男の打ち沈んだ声がその中に木霊した。
「上から貰った物資もそろそろ底をつきかけている。早くクアンタを回収せねば、彼らの信用を損ねてしまう……」
「クソッ、オキナワの連中は何してるんだ! 時間も物資も掃いて捨てるほどくれてやったって言うのに!」
それまでの物静かで弱気な声に混じって、今度は若く荒々しい声が聞こえてきた。
「だいたい、こっちとあっちは無線が繋がらないっておかしいだろ! いったいどうなってるんだ!」
「恐らくは本島にあるソウアーの支部が、何らかの妨害電波を出しているのだろう。故に直接会ってでしか情報交換を行う事が出来ない」
「そこまでわかってるんなら、どうしてそれを壊そうとしない! こっちにはジャケットが三体ある! その内の一体はカスタムタイプだ! 俺達が勝つに決まってる!」
「こちらの戦力が上だと、どうして言い切れる? 向こうにも同じカスタム仕様のジャケットがいるのかもしれないのだぞ? もしくは、こちらの二倍、いや三倍の数のジャケットが配備されているのかも。ミサイルを撃ち落としたのがそのジャケットの部隊かもしれないのだぞ?」
物静かな声に――と言うよりも、その声から放たれる刃の如き鋭く冷たい殺気が、その荒い声を抑えこむ。そして静かになったのに気を良くしたのか、物静かな声が鷹揚な口調で言った。
「まあ、直接攻勢を掛けるのは最後の手段だ。切り札は最後まで取っておくものだろう?」
「それは……」
「温いと言うのだろう。黙っておれ。ここは……この土地は私の物だ。私の城だ。ここにいる以上、私の指示に従ってもらうぞ」
「くっ」
自分の置かれた立場を思い出し、荒い声が苦い声を吐き捨てる。それを聞いた物静かな声の主が、さも優越感たっぷりに柔らかい口調で言った。
「なに、我々のスポンサー様は懐が深い。この前も、まだまだ支援物資を提供してやると言っていただろう?」
「確かにそうだが……もし奴らがこっちを裏切ったら、どうするつもりだ?」
「その時はその時だ。こちらも別の手を使うまでよ……だが、その手を使うためにも」
そこで言葉を切り、金属の物が軋む音を立てた後、再び物静かな声が言葉を紡いだ。
「――クアンタは絶対に必要なのだ」




