サクラ咲く君に。
さよなら…ユメ…僕は君ののために死のう。
さよなら、ユメ…君のために僕は死んだ。
僕が15になった春。
桜吹雪が舞う校庭の片隅でユメに出会った。
学年でも男子の中で一番身長の低い僕は桜の木に捕まった白いスカーフに手を伸ばしていた。
どんなに爪先を立たせて背筋をあげても指先がかすりさえしない。僕の身長の二倍はあろうかと思われる桜の枝に必死に手を仰ぐ。身長153センチの僕は高く高く額に汗をかきながらジャンプをする。 届け!とどけ!僕は木の枝に足をかけた。 高い場所は苦手だ。でも登らないととれないぞ…。 その時、後ろから声がした。
「見つけた!」
長い髪を揺らしながら彼女が走ってきた。
「ありがとう。それ、私のなの…。」
息を切らしながら彼女は僕の頭の上を指差した。 「あ、うん…。」僕は一気に肩の力が抜けて彼女の顔をちらりと見るなり赤面した。
「うふふっ、君じゃ届かないよね?」
そういうなり彼女は僕の肩にそっと触れると僕の目の前に立ち思いっきりジャンプした。
「えいっ!」
ひらりと宙に浮かんだ彼女の体は軽がると細い指先を伸ばしスカーフを捕まえた。唖然とする僕を尻目に彼女は制服のスカートを整えると真新しいセーラー服にスカーフを結んだ。 「私、愛野 夢。」僕に手を差し出した彼女の笑顔はとても輝いて見えた。
「あ、…おっ、俺…渡 光…。」
名前を言うのが精一杯で僕は手を差し出す事を忘れていた。
「ほらっ!」
彼女は僕の両手を勢い良く掴み取ると両手で強く握った。
「あ、あ…宜しく…。」
僕は赤面した顔を精一杯の笑顔で彼女に見せた。
「うん。こちらこそ。」
その時、僕達の回りに春風が優しく吹き込み僕らをそっと包み込んだ。