第二章
三月二十六日。
最後の友達を見送った後、ぼくは途方に暮れていた。
就職先は決まっていなかった、というより就職活動自体していなかったのだが、家族を次々となくした境遇のぼくの気持ちを汲んでのことだろうか、曽祖父はそのことを別段とがめることもしなかった。だが、そんな彼らの心遣いがぼくの家へと向かう足を重くさせ、家にいることは少なくなった。
その日も例に漏れることなく、すぐに家へと帰ることはしなかった。とりあえず町の中心部に足を運んだが、家でなければ別に何処でもよかった。町にはたくさんの建物が競うようにひしめき合って、一見そこには多くの逃げ場があるように思えたが、そのなかの大多数の場所はぼくにとっては華やかすぎて逃げ場にはなりえなかった。ぼくは自分が一個人として存在できる場所を探していた。
たどり着いたのはある漫画喫茶だった。そこには自分も含めて多くの客がいたが、そこには他人は存在しないように思えた。誰もが自分の世界を作り出していた。そしてぼくも同じように自分の世界へと入っていった。
ぼくが選んだ漫画は、昔一度呼んだことのある漫画ばかりだった。しかし再び読み返してみることは意外に楽しかったし、なによりも、読んでいる間は昔に戻ったような感覚におちいることが出来た。
小学校時代に流行った格闘漫画の最終巻を読み終えた頃には、時間は夜の八時をまわっていた。小学生時代には気づかなかったが、今読み返してみると設定にミスが目立つストーリーだった。そんなことを考えながら、周りを見回してみると、最初いた客のほとんどは別のひとに入れ替わっていた。そんな様子を見ながら、腹が減っていることに気づいたぼくは、いったん自分の世界から抜け出した。
晩飯をすませたあとゆっくりと自分の世界に戻ろうとしたとき、ぼくは初めて、この漫画喫茶にインターネット施設が備わっていることを知った。
ぼくの部屋にはパソコンはあったが、インターネットができる環境は整っていなかったので、インターネットは数えるほどしか利用したことがなかった。
とりあえずトップページを開いてみた。画面の右側には今日のニュースが並んでいる。
トップは若手漫才師と女優の電撃結婚の話題だった。ここのところ、若手漫才師のこういう手のスキャンダルが多いせいで、もうあまり驚かないのだが、世間に免疫というものはないようだ。それに続いて政治、スポーツのニュースが並ぶ。そしてその下には事件のニュースがあった。
「福岡の高校生、部室で首吊り自殺」
詳細をクリックすると、校長の記者会見の写真と記事が出てきた。学校側は、おとなしい子だったが自殺する理由は見当たらないとの見解を述べていた。
理由もなく自殺するわけがない、とぼくは思ったが、理由が他人にわかるわけもない、とすぐに自分の意見を遮った。
「親父も真紀も・・・」
彼らがどんな気持ちで死んでいったのか、ぼくにはわからなかった。
そして、どういうわけか、ぼくはトップページの検索欄に「自殺」と打ち込んでいた。
左クリック五回。
ぼくが千枝と出会うまでにかかった時間だった。