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自分の意志

日にちに余裕がないっす。締切前ってこんな感じなのかな?(現在20日)22日までに完成するのか?

お前は一体何をやっているんだ?


自分の中で自分は自分に問いかける。


守りたいはずなのに、悲しませて何をやっている?


自分の中にある自分に対する質問。


僕はただ、悲しませたくなかった。自分を信じることを教えてくれた未来を悲しませたくなかったはずなのに、未来は僕の前で涙を流した。


僕は、助けることが出来なかった。助けられたはずなのに。それなのに僕は、何も出来なかった。


「僕は、ただ捕まったいただけじゃないか」


逃げ出すことをしなかった。逃げ出そうとしなかった。捕まる寸前も包囲から逃げようとしなかった。


僕は、何もしなかった。


拳を握り締める。痛い。痛い。だけど、拳を握り締める。


未来と出会って僕は変わった。そう思っていた。でも、僕は何も変われていない。変わっていない。何も出来ていない。


自分で決めていない。何も、何も、何も何も何も何も何も何も何も、何もしていないじゃないか。


何が変われただ。こんなの、こんなの昔のままじゃないか。


ただ、他人が言われるままに動いて、ただ、他人の指示に従って、自分では何も決めない。


僕は何が変わったって言うんだ! 何を変えたって言うんだ! 何も変わっていない! 何も変えようとしていない! 何も、守れていないのに!


頬を流れる涙。それは、後悔の涙。それは、怒りの涙。


ただ、言われるままに捕まった僕の行動に対する後悔の涙。


守りたかった未来を傷つけた僕に対する怒りの涙。


僕は、何も変わっていない。


「変わりたいのに」


未来と出会ってそう思えるようになった。


「変えたいのに」


こんな自分はもう嫌だと思えるようになった。


「僕は、何も出来ていない」


何も、挑戦していない。何も、何も、何も!


「何をしたらいいの?」


わからない。


「どうすればいいの?」


わからない。


「僕は、どこに向かえばいいの?」


「それは、君しかわからないよ」


僕は顔を上げた。いつの間にか前には美咲さんの姿があり、美咲さんは持っているハンカチで僕の涙を拭いてくれる。


「君が何をしたいかなんて、私達他人は何も言えない。ううん、何も言わない、が、正しいかな。君は私達とは違うんだよ」


美咲さんがにっこり笑みを浮かべる。


「君と最初に出会った時、私は君に惹かれた。恋をした。まるで、今にも崩れそうな崖の上に立っているように感じた。私は、君を救いたいと思った。守りたいと思った」


「こんな時に、何を」


「こんな時だからだよ。君が追われていると聞いて、居ても立ってもいられなかった。私は、君が心配だった。君が無事でいるか心配だった。救いたいと思ったのに、守りたいと思っていたのに、いつの間にか君に私は依存していたことに気づいた。笑っちゃうよね。私は、いつの間にか逆の事を君に求めていたのだから」


それはまるで懺悔するような声音。だけど、その表情はまるで女神とでも言うかのように美しい姿でもあった。


美咲さんは同年代と比べても小さい。だけど、可愛いがぴったりのはずなのに、僕は美しいと思えてしまった。


「だから、こんな時だからこそ、私は君にいいます。君の事が好きです。守りたい、守って欲しいです。だから、私と付き合ってください」


美咲さんからの告白。


美咲さんが僕に好意を持ってくれているのはわかっていた。そんなのは最初からわかっていた。


そうじゃなかったら僕はこんなにも美咲さんに可愛いがられなかったに違いない。泣かれなかったに違いない。


だから、僕は頷いた。


「ごめんなさい」


そう、言葉を返して。


「僕には好きな人がいます。守りたいと思った人がいます。だから、僕はその人の事が好きです。美咲さんも大切な人です。でも、好きな人じゃありません」


僕はそう美咲さんに告げる。


考えてみたら簡単だった。どうしてこんなに悲しんでいるのかなんて本当に簡単だった。


僕はただ、未来に恋をしていただけなんだと。未来を守りたいと思ってしまっただけなんだと。


だから、僕は自分の意志を美咲さんに告げる。


すると、美咲さんはクスッと笑みを浮かべた。


「自分の意志、ちゃんと言えているよ」


笑みを浮かべている。今にも泣きそうな笑みを浮かべている。


美咲さんの思いは真剣だった。だから、僕も真剣に返した。


「諒。それが君の、君だけしか出せない答えであり、君だけが進む道なんだよ」


「僕だけが進む道?」


「そう。それが答え。私は真剣に告白した。それに諒は真剣に答えた。ちゃんと変わっているよ。未来に会う前ならこの告白を受け取っていたよね?」


確証はない。だけど、そうなっていたと自信を持って僕は頷いた。


あの頃は他人の全てが正しいと信じていた。他人の提案は肯定するものだと思っていた。


「諒が向かう場所は君の中にしかない。君だけが考え、君だけが肯定し、君だけが形に出来る。それが人間というものなんだよ。この気持ちも、この感情も、この感覚も、この言葉も、見るもの聞くもの感じるものその全てが、相原美咲という全てを構成する私だけの唯一無二なものなんだよ。だから、私が向かう場所は私にしかわからない。君が向かう場所は君しかわからない。自分を信じるというのは自分の人生を進むということだから」


「だったら、今までの僕は人間じゃないということ?」


「ううん。諒は見たもの聞いたものその全てを判断材料にしていたんだよ。他人の言うこと聞くこと全てを信じるというのは一見、自分を捨てているように見えるけど、見たもの聞いたものを自分の考えで肯定しているということだよ。それに従って前に進むのは間違っていない。でもね、前に進んでいる誰かがいなくなったら、その時、諒はきっと道に迷うよ」


僕はその光景を想像してみた。


今までならみんながいた。みんなと一緒に歩いていた。だから、みんなが前にいた。でも、美咲さんが言うように誰もいなくなったらどうなるだろうか。


今度は後ろを歩く人を探すだろう。つまりは来た道を戻るということ。それはすでに自分の道を迷っている。


「諒が未来みたいに自分だけを信じる人になれなんて言わない。私は諒が諒であるというのを伸び伸びと出して欲しいだけなんだから」


「僕自身を?」


「うん。勝手だと思う? 無理やりだと思う? でもね、諒は傍目から見ても危うい存在なんだよ。危ういから私は、私達は諒を助けたい。守りたい。救いたい。気づいていないと思うけど、諒は生徒会の中心にいるんだよ」


そう苦笑する美咲さんを見ながら僕は首を傾げていた。


全く想像がつかない。僕はそんな中心にいるわけじゃないのに。


「生徒会は二つに分かれている。私の派閥と矢島君の派閥。その中央にいるのが諒。諒は私達と矢島君の間にいるのが諒。本当なら仲良く出来なかったはずなんだけどね。生徒会の仲がいいのは諒がいるから」


いつの間にか雨が止んでいる。本当にいつの間にか止んでいた。


僕が傘を畳むと美咲さんも同じように傘を畳んだ。


「諒なら大丈夫。きっと大丈夫だよ。だから、自信を持って、勇気を持って。諒なら必ず、未来を幸せに出来るから」


「ありがとう。美咲さん」


僕は携帯を取り出した。取り出してから思い出す。


未来の家の番号を聞くのを忘れていた。それに苦笑しながらも僕は携帯を開いた。


たくさんあるメール。みんな、僕のことを心配してくれていた。それが嬉しくて嬉しくて、思わず笑みを浮かべてしまう。


受信メールを確認するため携帯を操作して、そして、僕は現れた文字に固まってしまった。


『助けて』


須賀さんからのメール。ほんのついさっき送られたばかりのメールだ。


僕は目を見開いて美咲さんを見る。美咲さんは不思議そうに首を傾げていた。


「美咲さんは須賀さんの携帯番号を知っていますか?」


「須賀たんの番号なら知っているよ。でも、どうして」


僕は美咲さんに携帯を突き出した。その画面を見た瞬間に美咲さんの顔色が変わる。


「須賀さんは未来を追いかけて行きました。だから、二人が何かに巻き込まれたのは明白です。僕は矢島先輩と連絡を取るので美咲さんは」


「わかったよ」


美咲さんがすかさず携帯を取り出す。


僕はすぐに携帯を操作して矢島先輩に電話をかけた。


一回、二回、三回。コール音が長い。五回目で矢島先輩が電話に出る。


「矢島先輩ですか?」


『無事だったか?』


安心するような矢島先輩の声。その声に僕は頷く。


「はい。でも、緊急事態です。未来と須賀さんが何かに巻き込まれた可能性があります」


『藤芝大翔か』


考えられるとしたならそれくらいしかない。藤芝大翔やあの女の子は未来のところに向かおうとする僕を行かせまいと動いていた。


それは、もしかしたら未来に対して過去に行ったことと同じことを再現したかったからかもしれない。だから、行く先々の道を塞ぎ、僕を捕まえてきた。


『確かに、動いていたという情報は聞いたからな。今から車を回す。藤芝大翔が行くような場所と言えば一つしかない』


「どこですか?」


『海岸沿いにある倉庫街のBブロック八番倉庫。そこが藤芝大翔達の拠点だ。良二が調べてくれた』


「ありがとうございます」


僕は携帯を切った。矢島先輩は車を回そうとしているみたいだけど、ここは駅前だ。車なら簡単に見つけることが出来る。


美咲さんを見ると美咲さんは少し青白い顔で僕を見ている。どうやら連絡はつかなかったらしい。


「美咲さん。僕はこれから海岸沿いにある倉庫街のBブロック八番倉庫に向かいます。美咲さんはここにいてください」


「ダメだよ。私も」


「美咲さんはなんの力もありません。か弱い女の子だから」


仲間はたくさんいた方がいいかもしれない。だけど、美咲さんの武器は口だけだ。美咲さんは戦えない。


僕は美咲さんの肩に手を置く。


「みんなへの連絡をお願いします。僕はこれからBブロック八番倉庫に向かいますから」


そう言うと共に僕は近くのタクシーに駆け寄った。タクシーは近づいてきた僕を見て後部座席を開ける。


すかさずそこに乗り込むと運転手が僕に振り返った。


「お客さん、どこに向かいます?」


「海岸沿いにある倉庫街のBブロックに」


シートベルトを身につけながら僕は行き先を告げた。


「辺鄙な所に向かいますね。急ぎですか?」


どうやらこの運転手は暇つぶしに僕達を見ていたらしい。まあ、確かに見る側として面白いかもしれないけど。


僕は運転手の言葉に真剣な表情で頷いた。


「お願いします。出来る限り全速力で」


「あいよ」


タクシーが動き出す。ただし、普通の速度じゃないような気がする。なんというか、加速が速いような。


ルームミラーに映る運転手の顔に笑みが浮かんでいるのがわかった。


「久しぶりに腕が鳴るぜ」


その言葉を聞いた僕は乗るタクシーを本気で間違えたと思ってしまった。






「行っちゃった」


もの凄い勢いで走っていくタクシーを見ながら美咲は呟いた。その片手ではひたすらメールを打っている。


美咲自身が戦えないことなんて美咲が一番わかっていた。わかっていても美咲はこうメールを打つ。


『駅前にいるから誰か拾って』


諒が先に向かったことも伝えている。伝えているから美咲はこのメールを送った。


戦えない。でも、みんなと一緒なら戦える。美咲はそう信じているから。


「はぁ。全く、美咲は少し大人しくしていれば?」


呆れたような安心する声に美咲は振り向いた。そこには一台の車、いや、二台の車とたくさんのバイクの中の一台の車から降りる美咲の親友の姿がそこにはあった。


「いつの間にみんなで合流しているのかな?」


車には美咲の知る全員がそこに乗っていた。だから、美咲は笑みを浮かべる。


「みんなで未来と須賀たんを助けに行こう。そして、諒の背中をみんなで押してあげよ」


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