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ショッピングモール

かなり厳しくなってきました。本当に22日に終わるのかな?

ショッピングモールで買い物。僕達がそれを見て表す言葉はただ一つ。


必要なものを買えばさっさと帰る。


それからどこかに遊びに行くのもありだし勉強するのもいい。そうなのだけど、僕は小さく溜め息をついていた。


そして、隣にいる陽太に話しかける。


「ねえ。女の子ってどうしてこんなにも買い物が長いのかな?」


僕は買った参考書の入った袋を握り締めながら洋服屋の一つにいる山辺さん達を見る。


ショッピングモールに来てすぐにお姉ちゃんや美咲さん達と合流していろいろと買い物をした。僕は先に参考書を買いに行ったけど、買いに行ってから戻ってきてもまだ同じ場所にいる。


「さあな。俺から言えるのはあの中に北林が突入していることなんだが」


山辺さんは洋服を手にとって美咲さんと話している。対する北林は何故か香取先輩に子供服の前で何かを力説していた。


普通はあの中に入れないよね。


「女の子が買い物は長いというのは今に始まったことじゃないだろ。それに、今日は閉店ギリギリまでいるんだから気にしなくてもいいんじゃないか?」


「時間を気にしているわけじゃないよ。ただね、同じように同じ店で長時間いられると」


「確かに俺達は困るよな。北林は大丈夫かもしれないが」


僕は小さく息を吐いて参考書を取り出そうとして、止めた。勉強なら家でいつでも出来る。


「暇つぶしに勉強しないんだな」


「しようとは思ったけどね。でも、みんなで来ているから後回しにしようかなと」


「なるほどな。つかさ、諒に聞きたかったんだが、香取先輩を除いてこの女の子の中でデートをするなら誰がいい?」


「デート? 買い物でいい?」


僕はみんなを見渡しながら首を傾げる。それに陽太は頷いた。


「それでいい」


買い物をするならやっぱり、


「お姉ちゃんかな。行く場所は基本的に決まっているし」


「まさか、その回答が来るとは思わなかった。そうじゃなくてさ、普通にデート、いや、むしろ、彼女にしたいなら誰だ?」


その言葉に僕は陽太の顔を見た。陽太はニヤニヤしながら僕を見ている。


彼女にしたい人、か。僕はみんなの姿を見た。


美咲さんは気心がしれた仲。少し腹黒いけど優しいし、楽しいし、一緒にいてても損はないと思う。


山辺さんは僕を変えてくれた人。まだまだ変わっていないと思うけど、最初と比べてかなり変わったと自信を持って言える。


須賀さんはみんなを心配してくれるお姉さんみたいな人だ。優しくて気配りが出来る。でも、あまり須賀さんは知らないから、決めるなら美咲さんか山辺さんか。


「どうかな。僕もよくわからないよ。みんな優しいし可愛いから」


「まあ、ここ十日ぐらいで知り合ったからあまりよくわからないだろうしな。つか、モテて羨ましいよな」


「陽太の方がモテていると思うけど?」


というか、大体三日に一回は告白されているような気もする。僕は一回もされたことがないのに。


「俺は愛しの美咲さんただ一人に狙いを絞っているからな。だから、他の女の子はアウトオブ眼中ってわけ」


「振り向かれていないけどね」


「すげー、いらつく。つうか、誰かと付き合ったとしても、女の子の買い物に付き合うのは大変だろうな」


陽太が腕を組んで胸を張る。それは胸を張るようなことじゃないとは思う、と言いそうになった瞬間、陽太とは逆から声がかかった。


「その点は貴様に同感だな」


「俺も同感だ」


「そうそうって」


僕と陽太が振り向いた先には榊原先輩と矢島先輩の姿があった。二人共帰りに寄ったのか制服姿だ。


「どうして先輩がいるんですか?」


冷や汗を垂らしながら陽太は尋ねる。この二人は今日のことには参加しないはずなのに。


すると、矢島先輩が満面の笑みを浮かべた。


「優美が心配で心配で部活を休んできたんだよな、良二」


「うるさい! ちょうど部活を休める日だったから休んだだけだ。ただそれだけ」


「良二」


「何かな?」


怒っていたような表情が一瞬でだらけかけた瞬間、僕達は同時に俯いて噴き出しそうになっていた。まさか、あの榊原先輩があんな顔をするなんて。


驚きを通り越して爆笑ものだよね。


「来たんだ」


「ちょうど部活が休みだったからな。みんなで来ているとは知っていたが」


「休みだったら連絡してくれれば、みんなと回れたのに。将来設計の話をしながら」


「大丈夫だ。すでに考えているさ」


とりあえず、爆笑するのを堪えるので必死だった。


まさか、榊原先輩がここまでになるなんて。これが、彼女を持った男というものなのか。


香取先輩はそのまま榊原先輩の手を掴んで売り場に突入する。一瞬だけ矢島先輩の方を振り向くけど、矢島先輩はむしろ見送るかのように手を振っていた。そして、北林と合流する。


榊原先輩が頷きながら話しているのを見ると、北林は子供服について語っているらしい。


「そう言えば、お前らは初めてだったな。笑いを堪えるのが必死だっただろ?」


僕達は笑みを浮かべながら頷く。


「良二も最初はよく笑われたものだ。だが、あいつは胸を張ってみんなに宣言したからな。あいつを見ていると俺も彼女が欲しいと思ってくるものだ」


「矢島先輩は好きな人がいないんですか?」


「いない」


満面の笑みでそう断言する矢島先輩。性格は優しいし思いやりがあるから陽太と一緒でもてそうな気はするんだけどね。顔つきと体格を除いて。


「自慢じゃないが、中学生以降、クリスマスを一人以上で過ごした日は無い」


「いつからあの二人は付き合ってるんだよ」


陽太の小さな呟きに僕は頷いた。僕のクリスマスは大抵お姉ちゃんと一緒だから寂しくはないけど、今年のクリスマスはみんなでパーティになりそうな気がする。


「しかし、まあ。最初は不安だったが、楽しそうじゃないか」


矢島先輩の言葉に僕は頷いた。


山辺さんは服を手にとって須賀さんに尋ねている。須賀さんは笑みを浮かべて答えて山辺さんはその言葉に苦笑で返す。それに美咲さんが笑みを浮かべてお姉ちゃんがこれはどうと服を差し出す。


確かに、楽しそうだった。時間はかかっている。でも、ここに来てよかったと思える。


ただ、子供服の前で真剣に北林の話を聞いている二人はどうかと思うけど。


「結構結構。善行と恋愛、そして、楽しいことは人間にとって必要な三要素だ。大いにやっていればいいさ」


「矢島先輩はもてないんですか?」


何気ない陽太の言葉。その言葉に矢島先輩は少しだけ寂しそうな笑みを浮かべる。


「俺は、孤高の狼で十分さ」


「さっきと言っていること反対ですよね?」


さっき、彼女欲しいと言っていませんでしたっけ。


「さて、俺も服を見に行くとするか」


「お供しますよ。そろそろ、夏用の衣装を揃えないと大変ですし」


陽太が立ち上がる。だけど、その視線は僕はここにいるようにという視線だった。もちろん、それに頷いて僕は座ったままだ。


二人が売り場に入っていく。それを僕はただ見ているだけだった。


彼女、か。


陽太や矢島先輩が言っていた言葉が脳裏に浮かぶ。


彼女。


確かに、欲しいと言えば欲しくないと言っただろう。少し前の僕なら。でも、今は違う。


美咲さんは露骨に好意を寄せているからわかりやすいけど、山辺さんや須賀さんは何なんだろ? 特に、山辺さんは。


山辺さんは心の奥で何かを隠しているような気がする。というか、美咲さんと少し近い感覚がある。


多分、毒舌なのだろう。でも、それでも山辺さんは優しいしみんなをちゃんと見てくれる。ただ、時々感情を抑えきれない時があるみたい。まるで、昔の僕みたいに。


多分、僕と出会う前なら総はなかったんだろうな。


山辺さんが僕の視線に気づいて手を小さく振ってくる。その手に僕は小さく振り返した。


こういうのはいいかも。


そう思った瞬間、にやりと笑みを浮かべた。美咲さんが近づいてくる。嫌な予感がする。いや、嫌な予感しかしない。


僕は軽く腰を浮かせた。いつでも逃げられるように。


「ちょっと、トイレに行ってくるね」


「ここに戻ってくる前に行ってたよね?」


「どうしてそれを!?」


この階じゃなくて一つ上の階で済ませたのに。


「ちょっと、買い物に付き合ってくれないかな?」


「拒否権は?」


「あると思うの?」


ですよね。


僕は顔をひきつらせながら尋ねる。


「ちなみに、場所は」


「下着売り場」


その後、僕は地獄を見た。






「もう嫌だ。もう、だれも信じない」


僕は頭を抱えて呟いていた。


思い出されるのはほんの少し前の記憶。下着売り場に強制的に連れて行かれた光景。


あの中を平然と突っ切れる榊原先輩や意気揚々と幼児向けのものを説明する北林のような人には一生慣れないと思う。


簡単に言うなら視線が余りに痛すぎた。そして、逃走。下着売り場にいられた時間は約1分。


僕、頑張れたよね。


「お疲れ様」


須賀さんが僕の隣に座る。僕は、多分だけど、やつれた表情で須賀さんを見ていた。


「楽しんでいたよね」


「少しは。斉藤君の面白い姿を見れて良かった思うけど」


「うう、僕にとっては地獄だったよ」


どう考えても地獄です。というか、どうしてあんなことになったのか全く理解できないんだけど。


「でも、好きな相手からは下着でも選んで欲しいと思うよ。まあ、服を一緒に選ぶ方が喜ばれるかもしれないけど」


「ただの変態になり下がると思うのは僕だけかな?」


そんな勇者になれる気がしない。


「まあ、榊原先輩や北林君みたいになれとは言わないけど、まさか、北林君があそこまでとは」


「北林に何かあったの?」


「子供用の服を売る店員がドン引きするぐらいの知識を披露していた。もちろん、客はドン引きだけど、香取先輩と榊原先輩だけが熱心に聞いていた」


「北林は何をしているの?」


本当に意味がわからないと思うのは僕だけだろうか。そもそも、どうしてそこまで小さな子供に関心が行くのかがわからない。確かに可愛いとは思うけど。


「でも、楽しいな」


「楽しい?」


「うん。山辺さんや相原先輩に斉藤先輩と一緒に買い物するのは。まあ、山辺さんはやっぱり気にくわない相手だけど」


そう言う須賀さんの表情はどこか明るそうだった。本当に、心の底からそう思っているとわかる。


僕は笑みを浮かべてよかったと呟いた。


「でも、どうして山辺さんが気にくわないの? 何かあった?」


「そうじゃないけどね。ちょっと、ライバルというか」


「ライバル?」


一体何のライバルだろうか。そこが全く分からない。でも、須賀さんはこれ以上話さないという空気は出していた。多分、聞いていても意味がないんだろうな。


僕は小さく息を吐いて立ち上がる。


「どこかに行くの?」


「少しだけお手洗い。そんなに時間はかからないと思うから」


「わかった。伝えておく」


僕は歩き出す。歩き出しながらポケットから携帯を取り出した。


時間はまだまだ余裕があるから大丈夫かな。


そう思いながら売り場を見渡す。美咲さんがお姉ちゃんに話しかけているけど、山辺さんの姿はない。


僕はそれに少しだけ首をかしげてお手洗い向かう。ほんの少し前に行ったはずなんだけどなと思いながら案内板の指示に従って道を曲がろうとした。


「どうして、あなたがここにいるの?」


その言葉に僕は足を止める。その声は山辺さんの声だから。


「それはこっちのセリフよ、裏切り者」






手を洗いながら私は自分の顔を見た。その顔には笑みが浮かんでいる。


楽しい。


純粋にそう思える。


みんなと一緒に買い物するのはこんなに楽しかったとは思わなかった。中学生の頃、私がまだ、他人を信じていた頃、私はこんなにも楽しめなかったと思う。


多分、それは美咲や須賀実穂達がいるから。


多分、それは、斉藤諒がいるから。


相変わらず斉藤諒には少しイライラする。下着売り場なんて度胸で入ってくればいいのに。坊主や変態2号は普通に下着売り場に入ってきたというのに。


私は少しだけ笑みを浮かべて蛇口をひねった。そして、手を洗い、用意していたハンカチでその手を吹いた。


まだまだ、夜まで時間がある。だから、この楽しい時間はもっと続くはずだ。


ハンカチを収めてカバンを持って歩き出す。次は何をするのかな? このまま洋服店を回るのは悪くないけど、そろそろ斉藤諒が暇になるころだろうから別の場所に行くのかな? それとも晩ご飯? どこに行くのか楽しみだ。


そう思っていた。だから、私は気付かなかった。


「どうしてあなたがそんな幸せそう顔をしているのかしら?」


いつの間にかすれ違った顔なじみだった顔を。


私は振り返った。振り返って目を見開いた。


「どうして、あたながここにいるの?」


「それはこっちのセリフよ、裏切り者」


その言葉を放った人物は、今も昔も変わらぬ姿のまま、ただ、不敵な笑みを浮かべてそこにいた。


「桧山恵子」


私はただ、元親友の名前を言うだけしかできなかった。

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