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友達

友達。


それは裏切る者。いつか私を裏切って、見捨ててくる。見捨てられたから見捨てたら今度は私が悪いという風になる。


だから、私は他人を信じない。信用しない。自分だけが全てだと思っていた。そう、思っていた。


「山辺さんはどこに住んでいるの?」


「山辺さんは勉強大丈夫?」


「どこか病気でもしているの?」


「付き合っている人はいるの?」


ともかく、休憩時間になった途端にクラスメートらしい人達が群がってくる。


私は慌てて斉藤諒の姿を探すが、斉藤諒は少し離れた位置で私を見ていた。


「えっと、住吉西の方角に住んでいて、勉強は自分で頑張っていた。病気はしていなくて付き合っている人はいないわ」


ともかく、どうしてここまで群がってくるのかわからない。それが少し怖いような気もする。


久しぶりすぎて付き合い方がよくわからない。だけど、わかることはただ一つ。自分というのを隠さない方がいいということ。


斉藤諒や変態に須賀実穂にはすでにわかっている。私の性格を隠さない方がいいかもしれない。露骨に嫌われないようにした方がいいけど。


「俺と付き合ってください」


「全力でお断りよ!」


思わず即答してしまった。それにみんなが笑みを浮かべて告白してきた男子を笑う。こういう時には伝統なのかな?


「一つ聞きたいんだけど、斉藤君とはどういう関係? 山辺さんの下の名前を呼んでいたけど」


来ると思っていた。そういう質問が来ることは最初から予測していた。だから、予測していたから考えていた言葉を言わないと。


「ともだひ」


空気が固まる。思わず私は口を押さえてしまった。


友達と言おうとしたのに。


「ぷっ、ぷふふっ」


噴き出したのは須賀実穂。私は須賀実穂を睨みつける。


「そこで噛む? 普通」


「し、仕方ないじゃない。私だって緊張しているんだから」


「普通に話せばいいのに」


須賀実穂が笑いながら近づいてくる。そして、私の前で意地悪そうな笑みを浮かべて尋ねてきた。


「で、斉藤君とはどういう関係?」






「俺達の気にしすぎだったか?」


陽太が山辺さんの周囲にある人だかりを見ながらぽつりと呟く。ただ、声の大きさは確実に僕達にも聞こえるような大きさだった。


僕はホッとしたように息を吐く。


「杞憂だったね」


「皆、美少女というのには弱いものだ」


自分の言った言葉に納得するかのように何度も頷く北林。ちなみに、陽太も頷いている。


わかりそうでわかりにくいような気がするけど。


「だが、須賀と仲がいいのがポイントだろうな。須賀は基本的にクラス中の誰とも仲がいい。だから、須賀についていればクラスの中心に入れるはずだ」


「確かにな。須賀さんって本当に交友関係が広いよな。まあ、諒は不満そうだけど」

「意味がわからないからね」


別に不満というわけじゃない。山辺さんが上手くやっているのを見るだけで嬉しいし、上手くやっているのはいいことだと思う。


このままたくさん友達が出来ればいいんだけどね。


「杞憂で良かったよ。このまま誰も近づかなかったら北林にお願いしていたし」


「美少女とお友達になれるなら、俺は喜んで手伝うぞ。小学生なら大歓迎だ」


そろそろ本当に警察に電話した方がいいのかな?


「つかよ、諒。これからどうするんだ? 俺はあまり詳しく知らないけど」


「それなら須賀さんと決めたよ。今日の放課後、僕達五人で出かけようという話に」


「「初耳なんだが」」


陽太と北林の声が重なる。


多分、言うのを忘れていたかな。


「まあ、俺はいいけど北林はどうだ?」


「俺は幼女を愛で、チェスの練習がある」


「じゃ、二人共参加決定ね」


全国の小学生のために北林は野放しにしない方がいいとだけはわかった。


須賀さんも乗り気だし、養護教諭も山辺さんは大丈夫だと言っていたからみんなで行けばいいだろう。山辺さんが頷いてくれたらの話だけど。


「楽しみだな」


「そういや、相原先輩は来ないのか? 来そうなんだが」


「行っているよ」


僕は次の時間の用意をしながら答える。僕の言葉に陽太は軽く息を吐いた。


「もう一度言ってくれるか?」


「美咲さんならお姉ちゃんと一緒に先に行っているよ。だから、僕達も同じところに向かうようにしたんだから」


もしもという時がある。だから、僕達は二人が行くのを確認してからこの計画を立てた。そもそも、他に行く場所が無かったからだけど。


そもそも、ここら一帯で放課後に行ける場所なんて限られている。


「つまりは、あのショッピングモールに向かうのだな」


北林の言葉に僕は頷く。


あのショッピングモールというのはここから徒歩二十分の位置にある日本十三番目に大きなショッピングモール。そこそこの広さとかなりの品揃えがあるため放課後に通う人はたくさんいる。


自転車登校の人もいるからなおさらだ。


「ちょうど買いたいものがあったから時期がいい」


「買いたいものって何だ?」


陽太の問いに北林は胸を張って答えた。


「成長日記計400冊」


僕は無言で携帯を取り出した。






「放課後にショッピングモール?」


私は斉藤諒からの言葉を尋ね返していた。


現在、私達がいるのは昼休みの生徒会室。そこでは斉藤諒以外に美咲と須賀実穂と香取先輩の姿がある。


昼休みになった瞬間にクラスメートが一緒にご飯を食べようと群がってきたので須賀実穂と一緒に生徒会室までやって来たのだ。


すると、そこには前の時間の授業をサボったらしい二人がご飯を食べていたため、私達も同席することにしたのだ。


斉藤諒は頷いて返してくる。


「北林っていうクラスメートとも仲良くなって欲しいからさ。陽太と北林の二人はクラスの中でかなりの人気者だしね」


「諒は?」


「僕はあまり。頭がいい人扱いだから」


「そもそも、同じ教室に去年の全国三位以内が集まっているのがおかしいと思うけど」


須賀実穂が私を見ながら言ってくる。みんなにそのことを言ったらかなり驚かれた。


ちなみに、斉藤諒が友達でライバルと言ったから派生した内容だけど。


「そうかな?」


「そうだから。斉藤君って時々抜けているよね」


それには大いに賛成だ。斉藤諒はあまり秀才というのを出さない。淡々とそれが当たり前という風に言うけど、それを誇ることはない。


よくありがちな頭がいいから人を見下すことをしない。だから、斉藤諒は人気がある。


「ちなみに、私達は先にショッピングモールに向かっているから。合流出来たら合流しようね」


「「遠慮させていただきます」」


私と須賀実穂は口を揃えて答えた。本音を言うならこれ以上、事態をややこしくして欲しくはない。


合流出来ないことを祈るけど、美咲なら確実に意地でも合流するだろうな。


「でも、ショッピングモールは楽しみ、かな。気に食わない人とか、会いたくない人もいるけど、楽しみだから」


多分、私の顔は真っ赤になっているだろう。


昔は楽しかった。放課後に寄り道することが。友達と一緒に寄り道することが。


「そっか。良かった。僕はあまり寄るところはないけど、みんなが楽しめたらいいよね」


そう言って斉藤諒が笑う。その笑みは本当に明るくて、過去に何かあったなんて誰も思わないだろう。


「入るぞ」


その時、唐突にドアが開いた。そこにいたのは坊主頭の男。その後ろには矢島先輩の姿がある。


「相原美咲、また授業をサボったな」


「仕方ないじゃん。放課後遊ぶためだもん」


「貴様は生徒会長としての」


「食事中」


香取先輩のそれだけの言葉に入ってきた坊主は完全に口を閉じる。美咲はそれをニヤニヤと見ていた。


私は隣にいる斉藤諒に尋ねる。


「誰?」


「榊原良二先輩。二年生で前の生徒会長だけど、歴代最高の生徒会長だと言われている人物」


「どうして美咲が生徒会長をしているの?」


純粋な疑問だった。本当に歴代最高の生徒会長で二年生なら今年も生徒会長をしていていいのに。


すると、斉藤諒は目を逸らした。私はそれに首を傾げる。


「美咲さんがいきなりコンサートを始めた」


「はい?」


「弁論するより遥かにいいからと言ってコンサート開いて持ち時間5分どころか30分くらい使って数曲歌った」


完全に斉藤諒の視線が逸れていることを考えて事実なのだろう。だから、あまりに事実すぎて忘れたい過去なのかもしれない。


でも、私は腑に落ちない点があった。


「でも、確か生徒会選挙は生徒会長なら落ちても別の役職に立候補出来るんじゃないの?」


「陽太に作ってもらった財政の無駄遣いについてのカンペを呼んだら圧倒した」


斉藤諒はまだ視線を逸らしている。むしろ、そこまでいくと本当にすごいような。


「相原美咲。確かにお前は求心力はすごい。それは俺は認める。お前には勝てないと認める。だが、生徒会長が授業にサボっていいと思っているのか?」


「時と場合によるかな」


坊主の額に青筋が浮かぶ。矢島先輩は苦笑いしながら斉藤諒を見ていた。


斉藤諒は仕方ないな、という表情になって立ち上がる。


「榊原先輩、落ち着いてください」


「斉藤か。お前も難儀だな。相原美咲の寵愛を受けているから」


「受けていませんから」


斉藤諒は呆れたように溜め息をつくけど、私と須賀実穂は同時に美咲を見ていた。


「美咲さんにも考えがあってのことですから。少し、向こうで話していいですか?」


「いいが」


「俺は行かないでおこう。良二、諒の話をしっかり聞くのだぞ」


「ああ」


斉藤諒と坊主が生徒会室から出て行く。足音が聞こえなくなってから美咲が大きな溜め息をついて机の上に寝そべった。


「ふへぇ~、矢島君。あの前生徒会長をどうにか出来ないかな?」


「無理だな。良二はお前に期待している。期待しているからこそ強く出ているのだろう」


「わかっているけどさ、今日は大事な日なのに」


その言葉に矢島先輩が苦笑して私を見てくる。


「どうやら、計画は上手く行っているみたいだな。良かったじゃないか、山辺」


「まだ、上手く行ったかはわかりません。でも、あのクラスなら、ちょっとはみんなを信じていいかな、と思います」


斉藤諒がいる。変態がいる。須賀実穂がいる。


三人共、様々な感情はあるけど、私が汚く見えるくらいにいい人達だ。だから、信じていいと思う。いや、信じたいのかもしれない。


変わりたいと思っているから。


「あなたの場所は私達のおかげで作られているけど」


「いちいちうるさいわよ、三つ編み」


「悪口のつもり? あなたの頭は勉強以外は頭がスカスカみたいね」


「そのスカスカに負けるあなたはさらにスカスカよね」


私と須賀実穂は睨み合う。とりあえず、訂正しないと。須賀実穂はもう敵だ。


「はははっ、喧嘩するほど仲がいいと言ったからな。俺も良二とはよく殴り合いの喧嘩をしたものだ」


「ちなみに前生徒会長は校外のボクシングクラブに入っているよ」


美咲の補足情報に私は思わず矢島先輩を見てしまった。でも、よく考えると矢島先輩って暴走族、には見えない何かのトップという話を聞いたことがある。


強いとかいう次元を超えているんだろうな。


「殴り合いなって生まれる友情はあるからな。あの時は良二は鼻血や唇、額を切っていたな」


「ちなみに矢島君は無傷だったらしいよ」


矢島先輩って何者?


「喧嘩出来るのは今の内だ。大人になれば裁判沙汰だからな。はっはっはっ」


「笑い事じゃないわよね?」


私は呆れたように溜め息をつきながら矢島先輩に言う。


「そもそも、私はこいつと友達じゃないから」


「私だって願い下げ。あなたが友達なんて」


「私がいなければ生徒会室に来れていないくせに」


「あなたがいなければこんなにややこしいことにならなかったのに」


売り言葉に買い言葉か私は須賀実穂を睨み合う。そんな様子を美咲と矢島先輩は苦笑しながら見ていた。


「まあまあ、二人共。ともかく、今日の放課後はショッピングモールでみんなと交友を深めようよ」


「俺は行かないがな」


矢島先輩が少し寂しげに言う。その言葉に私は驚いていた。


「そうなの?」


「ああ。良二のやつからいろいろ手伝って欲しいと頼まれてな。その付き添いだ。メンバーから考えて行きたいとは思うが、優美がいるから大丈夫だろう」


「あれ? 矢島先輩って香取先輩を下の名前で呼ぶんですね」


須賀実穂が意外そうに尋ねた。まあ、そのことに関しては生徒会に入っている私だからわかっているけど須賀実穂にはわからないだろう。


矢島先輩は一瞬だけ迷った後、香取先輩を見る。香取先輩は小さく頷いた。


「俺と良二と優美は幼なじみなんだ。それで、良二と優美は付き合っている」


つまり、坊主が黙ったのは彼女だから。坊主自体は今日初めて見たけど。


「知らないようで案外狭い関係のような」


須賀実穂のその言葉には大いに同感。でも、だからこそ雰囲気がいいのかもしれない。


「そろそろチャイムが鳴るね。みんな、教室に戻ろうか」


美咲さんが立ち上がる。それに応じるように私も教室に行く準備を始めた。そして、小さく息を吐いて、


「言い過ぎたから。ごめん」


須賀実穂からそんな声が漏れた。それは小さかったけどはっきりした声。その言葉を聞いた私は小さく息を吐く。


「私も言い過ぎた。ごめん」


ライバルなんていない方がいいかな。

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