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友達作戦

か、かなり微妙な進み具合です。(現在14日)

「臨時生徒会会議を開催したいと思います。イエーイ」


美咲さんが黒板の前でハイテンションになりながら言っている。だけど、この部屋の空気はハイテンションにほど遠い空気にもなっている。


何故なら、隣り合わせに座らされている山辺さんと須賀さんが物凄く不機嫌そうな顔で睨み合っているからだ。


まあ、屋上であったことを考えたら仕方ないんだけど、気にしすぎなような気もする。こういう時はお互いに水に流せばいいのに。


「何か暗いね。春日井君、コントをお願い」


「いきなりハードル高すぎですよね! えっと、わかりました」


「ぶぶーっ。タイムアップ」


「考えさせ気ないですよね!?」


二人の会話でも全く話が盛り上がらない。


矢島先輩は今日は生徒会自体を休んでいるし、香取先輩はやって来たものの必要以上に話さないため場は全く盛り上がらない。


「ノリが悪いよ。じゃ、みんなでダンスを」


「「生徒会長、議題を………。真似しないでくれる?」」


何でだろう。喧嘩しているはずなのに息がぴったりだ。どういうことだろうか。


「わかりました。仕方ないな。今日の議題は簡単だよ。未来をどうすれば教室で授業を」


「時期尚早じゃないかな?」


「ありえない」


「こんな女がいるなんて耐えられない」


「反対に一票っす」


僕、須賀さん、山辺さん、陽太の順番に仲良く美咲さんに言う。


まあ、確かに山辺さんの意志は尊重したいけど、何故かここまで険悪になっているかわからないけど教室で同じようなことが起きたら大変なんだよね。


まあ、サポートするのが僕達だけど。


「優美はどうかな?」


香取先輩、香取優美先輩に美咲さんは尋ねる。香取先輩はノートに向かって動かしているシャーペンを止めて軽く首を傾げた。


「私達が言うことじゃない」


「そうなんだけどね。ここに未来のクラスメートが「諒と変態だけで十分です」いるんだからどうにかしないと私は「いや、俺は変態じゃ」うるさいよ! 変態!」


「理不尽ですよね!?」


陽太が叫び声を上げるがそんなものは美咲さんは無視する。というか、反応したのは香取先輩だけで微かに溜め息をついただけだった。


それはそれで酷いとは思うけどね。


「生徒会長。私は手伝うつもりは」


「須賀たんは今は何も言わなくていいよ」


「す、須賀たん?」


須賀さんの言葉を美咲さんが遮るけど、今、おかしな単語が混じったよね?


美咲さんは何か思いついたかのように黒板にチョークを走らせる。そして、とある四文字を黒板に書いた。


友達作戦


「ここは米軍かなんかですか?」


陽太が美咲さんに尋ねるがいつものごとく美咲さんは陽太の言葉をスルーする。本当にいつものごとく。


美咲さんは黒板をバンと叩いて僕達の顔を見渡した。


「今回の議題は未来をどうすれば教室でみんなと仲良く出来るか話し合うことだよ。作戦名は『友達作戦』。どうかな? 諒」


「僕は賛成ですけど無理があると思います」


だから、僕は自分の考えを山辺さんにもわかるように言うことにした。


「やはり、まだ時期尚早です。確かに、須賀さんに協力してもらえば教室では何とかなるかもしれません。でも、急に教室に登校してきた生徒と仲良くなる人がいるかどうか言えばいないと思います。ですから、今は生徒会活動に参加してもらって学校中に噂を流してもらえば」


「教室に来た時も噂があるから誰も知らないということにはならないか。うん、却下」


まさか、すぐさま却下されるとは思わなかった。


隣にいた陽太が僕の肩を叩く。まるで、オレに任せろと言っているかのように。だから、僕は陽太に任せることにした。


陽太なら確実にやってくれると思うから。


「相原先輩」


「優美はどう?」


「私に聞かないで。変態が手を上げているから」


「変態さんの言葉はあまり聞きたくないな」


「もう、泣いてやる!」


そう言うやいなや陽太はその場に突っ伏してさめざめと泣き始めた。隣でそう言う風に泣かれるとかなりうざいのがわかる。


ただ、僕以外の回答を美咲さんは求めている。現実的な意見じゃなくて理想的な意見を求めて。


「須賀たんはどうかな?」


「須賀たんは止めて「だったら実穂たん」変わってませんからね!!」


須賀さんが怒鳴るなんて珍しい。


「もう少し静かにしたら? 今は会議中よ」


山辺さんが火に油を注ぐような気がする。須賀さんの頬がピクピク動いていた。


こういう須賀さんを見るのは初めてだ。須賀さんって優しいだけのイメージがあったから意外だとは思うけど、こういう方が親しみやすいかな。


「あなたについて会議をしていると思うのだけど、あなたは何も言わないじゃない? 全部を他人に任せるつもり?」


「傍観者は黙っていて。それとも、何? あなたこそ何も言っていないじゃない? 他人だからもっと気楽に無責任なことを」


「他人だから無責任になれるわけがないじゃない! あなた、今の自分がわかっていないの? あなたは生徒会のみんなに心配されているのよ! 自分しか信じないとかじゃない。あなたはただ臆病なだけ! 変わることを恐れる臆病なだけよ!」


「だったらどうしろと」


「ハイハイ落ち着いてどうどうどう」


言い争いを始めた二人の間に美咲さんが割って入る。かなりのベストタイミングだけど、僕と陽太はお互いに席を近づけていた。


僕も陽太も言いたいことがあるからだ。


「ねえ、陽太」


「どうした? 他人記憶装置」


「後で怒るからね。あのさ、須賀さんの言葉」


「おっ、諒でもわかったか」


今、怒りたい気分は我慢するしかないかな。


「未来のことを心配しているよね?」


「須賀さんは優しい女の子だからな。諒も知っているだろ」


「そうは思っているよ」


よくよく考えると僕はあまり須賀さんと、クラスメートとあまり話していない。勉強を教える時には話すくらいだ。


だから、そういう風な性格という統計を利用していくしかない。


「あれでも責任感はかなり強いからな。中学生の頃は生徒会長やっていたと言うし、小学生の頃も」


「僕達は須賀さんとは違う学校だったよね?」


そんな噂自体初めて聞いたけど?


僕の問いかけに白い、とはあまり言えない歯を見せながら陽太は笑みを浮かべる。そして、親指を立てた。


「女の子の情報は北林に聞けば一部プライベートを除いてスリーサイズまでわかるぜ」


「スリーサイズは十分にアウトだと思うけど」


北林ってそんな犯罪的なことをやっているんだ。


人は見かけによらず中身がすごい時があるよね。


「ちなみに北林はロリコン」


「犯罪者?」


「NOタッチ、YESロリータとか言っていたぞ」


「人として終わっているよね」


運動神経抜群のチェスプレイヤーというイメージがどんどん崩れていく。


ここまで聞いていると、僕自身がかなり周囲に対して無関心だったんだなってわかる。北林のことはわかりたくはないけど。


僕と陽太は未だに言い争いを続けている二人に視線と聴覚を向ける。


現実逃避はこれだけにしておこうか。


「未来は自分の心の中身をガンガン言い過ぎ! 会話は一方的なキャッチボールじゃないよ! それが出来ないなら教室に行けるわけがないからね! 実穂たんもクラスメートなんだから言葉を選ぶこと! そんなことばっかりしていたら諒から嫌な子だと思われるよ!」


いつの間にか美咲さんが二人を押さえ込んでいた。


美咲さんってこんなにすごい人だったっけ?


「惚れ直した」


隣で陽太が呟く。いや、まあ、その気持ちはわからなくもないけど、惚れ直したというほどじゃないような。


せめて、見直したじゃないかな?


「二人共、わかった?」


もの凄く暗くなっている二人が頷く。あれ? 暗くなっているよね?


「相原先輩の毒舌が炸裂したか」


陽太の言葉に僕の顔が引きつるのがわかった。


美咲さんが怒った場合、言葉の槍をひたすら投げつける時がある。ちなみに美咲さんはドがつくほどのSだ。


耐性が無かったら大変なことになる。結果はあの二人みたいな感じだ。


「さてと、静かになったところで会議を再開するよ」


「相変わらずの相原先輩クオリティだよな。俺もちょっとは受けたいな」


「陽太ってドMだったんだね」


「おうよ、むっつり」


いつか陽太とは本当に決着をつけないといけないようだ。


僕が小さく溜め息をつくのと美咲さんが溜め息をつくのはほとんど同時だった。僕達は慌てて美咲さんの方向に向き直る。


「諒の意見はわかったけど気に食わないから却下。須賀たんの意見は?」


「私ですか?」


「そう。相手が未来以外だと仮定して考えてみてね」


その言葉に須賀さんが考え込む。そんな様子を山辺さんは見つめていた。


二人がどういうわけでいがみ合っていたかわからないけど山辺さんも須賀さんもお互いにを気にしているのがわかる。そうじゃなかったら山辺さんは須賀さんを見ないし須賀さんは考え込まない。


「私だったら、クラスに味方をたくさん見つけると思います。クラスに四人が五人、それだけの味方がいれば上手くサポートすればやっていけると思います」


「無理よ。そんな四人なんて集まるわけが」


山辺さんの言葉が途中で止まる。何故なら、その人数に対して思いつくところがあったからだろう。


というか、この中にクラスメートが三人いる時点でノルマはかなり達成しやすいと思うけど。


「未来なら今の意見はどう思うかな? 私はいいと思うけど」


「確かに、いいとは思います。だけど、私は、あまり乗り気じゃない」


「未来は臆病者だね」


美咲さんが笑みを浮かべたまま言葉の槍を放つ。


「別に臆病者が悪いというわけじゃないよ。臆病者だっていい個性だからね。でも、そんなにうじうじしていたらいつかは何もかも失ってしまうよ」


その言葉はどこか重く、まるで、美咲さん自身が受けた過去のようにも聞こえた。


だからか、この部屋の空気が一気に重くなる。それでも美咲さんは話すことを止めない。


「未来が嫌だと言うなら私達は何も言わない。それは未来の意志だから。でも、また逃げるの?」


「私は逃げてない!」


「逃げている。未来は逃げているよ。諒と同じ。確かに逃げたいこともあると思う。だけど、ここで逃げたら一生の臆病者で一生のチキンで一生の負け組で一生、友達なんて出来ない」


美咲さんが僕と陽太、そして、須賀さんを見る。


多分、山辺さんの回答次第では友達になるかもしれないメンバーだからだろう。僕は友達だと思っているけど。


山辺さんは僕を見てくる。小さく頷いた。


「未来が思ったことを伝えればいいと思うよ」


そう、僕は自信満々に言った。本来なら自信なんてないはずだけど、今の僕にはそれを使う意味がわかる。


山辺さんが僕を変えてくれたように、山辺さんも変わって欲しいから。


「私は、教室でも、みんなと、話したい」






「美少女なら大歓迎だ」


「言うと思ったぜ!」


僕は呆れて溜め息をつく。今は朝のHRすら始まっていない時間。そこで陽太と北林の二人は全力で手を握り締めている。


なんというか、全く羨ましいと思わない。


隣にいる須賀さんも呆れたように溜め息をついていた。


「斉藤君、不安になってきたんだけど」


「北林に話して良かったのかと思えてきたよ」


他に味方はいなかったのかな。


「いや、諒。北林に話して良かったと思うぜ。こいつ、山辺さんのスリーサイズまで知っているからな」


須賀さんが一歩後ろに下がった。


あの後、美咲さんが須賀さんを協力させるように言質を取った。だから、彼女はここにいると言っているけど、須賀さんは根っからの優しいんだと僕は思う。


まあ、須賀さんの気持ちもわかるよ。僕だって顔が引きつっているし。


「最初は誰だかわからなかったが、まさかあの女の子が山辺未来だとはな。美少女だが、身長が高いのと年齢が高いのが駄目だな。やはり、女の子は小学生に限る」


これって警察を呼んだ方がいいんじゃないかな? 須賀さんは携帯を取り出しているし。


「いや、しかし。かなりノルマが高いことをするな。俺は少し驚いているぞ」


「未来がそう望んだからね。だったら、僕達はそれを全力でサポートする。未来は悪い子じゃ全くないから」


「なるほど。承知した。このチェスプレイヤー北林がお前達を全力で援護しよう」


頼もしい、のかな。不安な部分がかなり大きいけど。統計的にこういう人が犯罪を犯すんだよね。


ある意味危険人物。


「斉藤君、警察に連絡した方がいい?」


「今は我慢しようよ」


そう言った時、チャイムが鳴り響いた。今頃、美咲さんが山辺さんを教室に連れてきている最中だろう。


僕と須賀さんが顔を見合わせて頷き合う。


先生とも打ち合わせをしていることを今からするだけだ。


僕達は教壇の方に向かう。クラスメートは何事かと僕達を見ていた。


僕達は教壇の前に立つ。


「生徒会からの連絡、ってわけじゃないよ。みんなも知っているように、このクラスにはクラスメートが一人、未だに教室に来ていないよね」


「そのクラスメートから相談されて私達は今ここでみんなを紹介することに決めたの」


僕と須賀さんの言葉にみんなが耳を傾ける。そして、僕は美咲さんが合図を出すのを見た。


須賀さんも見ていたらしく、須賀さんがドアの方に向かう。


「この1ヶ月以上の間に何があったかは僕は語らない。それは彼女が語ることだから。でも、これだけは言わせて。彼女は勇気を持って僕に、僕達に相談してくれた。そんな彼女を理由もなく笑うなら、僕は、僕達は許さないから」


つまりは、生徒会一同敵に回るということ。


僕は須賀さんに合図を送る。須賀さんは頷いてドアが開くと同時に山辺さんの後ろにいた美咲さんが山辺さんを勢いよく押した。


山辺さんがそのまま教室の中に入ってくる。


不安そうな視線。山辺さんは僕を見る。僕は笑いながら教壇を空けた。


後は、彼女の仕事だから。


山辺さんが教壇までやってくる。教室に渦巻いているのは興味の視線。それに晒されながら山辺さんはぎゅっと拳を握り締めた。


「や、山辺未来、です。ちょっとした事情で、1ヶ月、遅れましたけど、皆さん、仲良くしてください!」


そして、山辺さんは頭を下げた。下げて教壇に額をぶつける。


一瞬の静寂の後に、僕と須賀さんが吹き出していた。それは陽太にも広がり教室中に広がる。山辺さんは僕を睨みつけるけど僕は笑う。


「これからもよろしくね、未来」


笑いながら、僕はそう言った。

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