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私と彼の過去の断片

展開が早いような気がしないでもありませんが、まあ、気にしないでください。いろいろと切羽詰まっているので。

やっぱり屋上の風は気持ちいい。純粋にそう思える。だから、私はさっきまでの自分がわかってしまう。


のたうち回ってしまいそうな自分が。


「バカバカバカバカ、私のバカ。どうしてあんなことを言うのよ」


のたうち回ってしまいそうだけど、フェンスを握り締めることで我慢する。ここでのたうち回ったなら確実に制服はドロドロだ。


結構気に入っているのに。


「絶対勘違いしている。絶対に私の気持ちを勘違いしている。絶対にそうに違いない。そうに違いない」


本当はあんなことを言うつもりは無かった。絶対に怒っていると思われる。


ああいう状況で何を言えばいいかわからない。自己完結していた今ならさっきでも気にはしないけど、斉藤諒は変わっている。


あの時から少しずつ変わっている。だから、私も変わらないといけない。でも、


「どうしてあいつを見ていたらイライラするんだろ」


どうしようもなくイライラする。どうしてかわからない。イライラするから私は少しキツく言ってしまう。


私がイライラする原因をどうにかしないとクラスでは上手くやっていけないと思う。


「私、どうしたんだろ」


一週間前の私なら到底考えられなかったようなこと。


クラスに混じりたいなんて思わなかった。混じったところで勝手に幻滅されて、勝手に落胆されて、勝手に避けられるだけ。


そんな中でも話しかけてくれた人がいないわけじゃない。だけど、どっちみち、私を突き放して消えていく。


クラスメートというのはそういうものだ。思っていた姿と違ったなら勝手に幻滅してくる。


そう、勝手に。


でも、今の私はクラスに行きたいと思っている。楽しそうな斉藤諒の姿を見たらそう思ってしまったのだ。


「私でも、ちゃんとやっていけるのかな?」


やっていけるならいい。だけど、それは少し難しいだろう。難しいだとは思うけど、私は斉藤諒と一緒に勉強したいと思う。


こういう風に思うのは私が斉藤諒に何か特別な感情があるから?


「ないないない。ありえないし不可能だし。私がそんなことを考えるなんてありえないし」


私はこの世で一番恋から遠い存在のはずなのに、私は一体どうしてしまったのだろうか。


変わった。


純粋にそう思える。私の過去と比べて、あの日からの私と比べて変わったように思える。


こういう風に変わっていいのかとも思う。そして、変わることがこんなにも楽しく、怖いというのを初めて知った。


相反することだけど、事実なのは確かだ。今までの私と違う私。それを強く感じるだけで、私は怖く感じられる。でも、変わることを楽しみにする私がいるのも確かだ。


昔の私は楽しかった。あの日よりも前の私は楽しかった。今なら純粋にそう思える。あの頃に戻りたいか聞かれたなら確実に嫌と答えるけど。


「私は、どうすればいいのかな? これから、どうしていけばいいのかな?」


今までは私で全て決めていた。私の中で考え、私の中で自己完結していた。だけど、今の私は他人に考えを求めている。


私はこの場で斉藤諒に言った言葉を思い出していた。


「どうして他人を信じられるの?」


同じ言葉を小さく呟いて見る。確かにそうだ。今までの私はそうだっただろう。だけど、今はわからないことがある。こういう時は誰かに助けを求めたいという気持ちがあることに私は思い出していた。


他人を信じるというのは私を信じられないということ。私を信じられないということはこれほどまでに不安だったとは。


「我ながら、本当に変わったわね。こういう時に他人に意見を求めるなんて」


私は自嘲気味に呟く。そして、小さく笑みを浮かべた。


「人でなしのあなたでもそういう風に思うんですね」


その言葉に私の笑みが固まる。


その言葉と共に屋上の出入り口であるドアが開いた。そこから入ってきたのは三つ編みを後ろで二つ作った同い年くらいの女の子って、同い年くらいなのは当たり前か。


その女の子は見覚えがあった。確か、一週間ほど前に保健室ですれ違った女の子だ。


「あんた、誰?」


私は尋ねる。その女の子を睨みつけて。女の子は逆に私を睨みつけていた。眼光はあまり鋭くないけど、殺気立っているように感じられる。


女の子はドアを閉めた。そして、軽くだが私に礼をする。


「初めまして、山辺未来さん。私の名前は須賀実穂。あなたのクラスメートです」


名前を知られているということはあまり隠し事は出来ないということか。


私は軽く苦笑しながら須賀実穂と名乗った人物に尋ね返した。


「そのクラスメート様が何の用? そもそも、私とあなたは完全に初対面でしょ? 何か言いたいことがあるの?」


「無ければこのようなところには来ませんよ。少し、あなたのことを噂に聞いて調べていましたから」


「悪趣味ね」


私は純粋にそう言う。対する須賀実穂は笑みを浮かべてニコニコしている。


「同じクラスメートにあなたのような存在がいるとは思いませんでしたよ。まさか、あんなことをしていたとは」


「悪趣味というのは認めるんだ。本当に、あんたは何様のつもり? 勝手に人のプロフィールがわかっているようなことを言って」


「そうですね。私の趣味は他人について調べるのが趣味ですから。悪趣味とはよく言われています」


そう言いながら須賀実穂は軽く肩をすくめた。


「例えば、あなたが過去に人を不登校にした、とか」


「デマね。むしろ、私が不登校にされかけたくらいよ」


私は冷静に言葉を返す。あくまでも冷静に。


「他人を信じないくせに」


須賀実穂の言葉に私は完全に動きを止めていた。いや、止められていたが正しいかもしれない。


その事を知っているのは本当に少ないはずだ。誰もが口の固い人間だと思う。


なのに、須賀実穂は知っていた。そのことに私は純粋に驚いてしまう。


「あなたには完結のないことよ」


どうにかしてその言葉を口にする。言葉で完全に負けているのは明白だ。どうにかしないと。


「そうですか。ですが、他人を信じないあなただからこそ、私は尋ねたいことがあります」


須賀実穂はニコニコしたまま私の心をえぐる言葉を言う。


「あなたはどうして斉藤君と仲良くしているの?」


「あんたには関係ないでしょ」


あまり冷静になれない。まさか、このタイミングで斉藤諒の名前が出て来るとは思わなかった。


「私は知っているから。あなたが中学時代に何をしていたかも」


「勝手な噂でしょ。中学高の頃はあらぬ噂を近所に流されたから」


「あなたがたった一人の親友だった人物を不登校にしたことを」


その時、ドアが勢いよく開いた。そこから姿を現したのは斉藤諒。


今の会話を聞かれていた?


「どういうこと?」


斉藤諒が尋ねてくる。そして、私に視線を向けてくる。


私は信じられなかった。まさか、斉藤諒がこのタイミングでここに来るなんて。


「斉藤君、どうして」


「須賀さん、どういうこと? 未来が誰かを不登校にしたって」


「その言葉通りの意味、かな。山辺未来は過去に親友をイジメて不登校にした。その地域じゃ有名な話なんだけど」


確かに第三者からの目で見ればそうだろう。私は親友だった一人を無視した。そして、その無視はクラス中に広がり、いつしか学校中に広がっていた。


そして、彼女は学校に来なくなった。多分、そう伝えられているはずだ。


それは一部を見れば本当に事実なのだから。


「本当?」


斉藤諒が私に尋ねてくる。だから、私はその言葉に頷いた。


「そうよ。間違ってはいないわ」


間違ってはいない。どこにも間違ってはいない。どこにも間違っていることはない。それは当事者の一人だからこそわかる。


間違いなんてないのだから。私が無視して、クラスが無視して、学校が無視して、そして、来なくなった。何も間違ってはいない。


「嘘だ」


だけど、斉藤諒はそう言った。


「絶対に嘘だ。未来は嘘をついている。本当はもっと別のことがあったはずなのに」


「あんたに何がわかるのよ。事実だから、事実を肯定しただけだから」


ああ、そうか。私が誰かと仲良くなることなんてもう、出来ないんだ。神様そう決めたんだ。一生、私は孤独で暮らすようにそう決めたんだ。


「わからないよ。未来は何も語ってくれないから。だけど、僕は、嘘だと思っている。そう、僕は自ら断言する」


「えっ?」


その言葉に私は驚いていた。斉藤諒は私を自らの意志で肯定している。


わけがわからない。私と正反対のはずの斉藤諒がそんなこと言うなんて。


「未来はきっと、無視する前に何かあったはずだよ。それは何? 何があったの?」


「それは」


「教えて。僕は未来の味方でいる。未来が僕をどうにかしようと頑張ってくれたから。だから、僕は未来のことを信じる。だから、話して。何があったのか」


その眼は真剣で、その眼は本気で、その眼は私を信じてくれている。どうしてそこまで他人を信じられるのか。どうしてそこまで出来るのか。


わからない。斉藤諒の心がわからない。


それがどこか、怖い。


「止めて。私のことをわかった風に言わないで!」


「未来」


「私のことなんて誰にもわからない。誰にもわからなせない。私は、一人でいいから」


一人でいい。一人がいい。一人でいることが一番だと私は思っている。


「一人でいたら。私は傷つかない。一人でいたら、私は自分だけを信じて行けばいい。一人だったら、頼らなくてもいい。もう、こんな気持ちになることなんてないのに。ないのに」


それは叫び。多分、私の心の中の叫び。本当は一人がいい。一人でいるのがいい。こんな気持ちになるくらいなら私は一人で、


「大丈夫だよ」


いつの間にか、斉藤諒が私の近くにいた。


「未来は怖いんだよね。誰かを信じて、また、昔と同じようになることが。それは僕だった同じだよ」


そして、斉藤諒は私の手を握ってくる。いつの間にか座り込んでいた私に合わせるように座り込み、そして、その手で私の手を握ってくれている。


その手はどこか温かかった。


「未来だけだと不公平だから僕の過去の断片も少しだけ言うね。僕は昔、人を殺した」


その言葉は私の過去よりも深く、暗いもの。


「もちろん、直接的に殺したわけじゃないけど、間接的に殺したと言われれば頷くしかできないかな。僕は自分自身の発言で、自分が信じた言葉を言ったことで人を殺してしまった」


それは、斉藤諒が他人しか信じなくなった原因だと私は感じることが出来た。


誰を殺したかなんていっていない。だけど、その言葉の重みから考えて、斉藤諒は親族の誰かを殺したのだろう。


「大丈夫だよ。未来は大丈夫。まだ、やり直すことが出来る。大丈夫だから」


そう言って、斉藤諒は笑った。


そう、笑ったのだ。ありえない。本当にありえない。普通はもっと違う感情があるに違いないのに笑ったのだ。笑って、私を励まそうとしている。


普通なら笑えない。笑うことなんて絶対に出来ないのに。だから、私はそんな斉藤諒にイライラする。


「どうして笑えるのよ。どうして、そんなことを言いながら」


「どうしてかな? わからないや。でも、一つだけ言えることはあるよ。僕はもう、一人じゃないからかな」


「一人じゃない?」


「うん。お姉ちゃん、陽太に美咲さん、矢島先輩、香取先輩、そして、未来。僕を知っている人達がいるから笑っていられる。そうだと思うから」


そこが私とは違う点。私は一人だった。いや、従姉妹はいるけど斉藤諒に会うまでは一人だった。一人が当たり前だと思っていた。


「大丈夫。未来は変われるから。だから、お願いしよう」


斉藤諒が立ち上がる。立ち上がって視線を向けた先には須賀実穂の姿があった。その表情はどこか不安そうでもある。


「斉藤君、完全に私のことを忘れていたよね」


「うん」


即答で返す斉藤諒。その返し方は私でもあり得ないと思うけど。


「須賀さんにお願いがあるから。どうか、未来と友達になってくれないかな?」


「どうして? 私は山辺さんのことを追い詰めるようなことをしたのに?」


確かにそうだ。須賀実穂は私を追い詰めようとした。理由はわからないけど、私の過去を持ち出して斉藤諒に近づかないようにしたかったに違いない。それなのに斉藤諒は須賀実穂と私が友達になって欲しいと思っている。


そこのところが本当に意味がわからない。


「気にしていないよね?」


「気にするわよ!」


とりあえず、斉藤諒の頭はどこかネジが飛んでいるようだ。


「斉藤君ってある意味凄いよね」


「えっ? 気にするの?」


「あんたってバカ?」


バカと天才は紙一重というけど本当に紙一重みたいだ。ほんの少し違うだけでここまでバカになるなんて。それが少し羨ましく思ってしまう。


イライラするけど。


「どうしよう。万策尽きた」


斉藤諒が本当に万策尽きたのか困ったような表情になっている。


「早いわね」


「元々作戦なんて考えてなかったんだよ。未来、気にしない方向で言ってくれない?」


「全力でお断りするわ」


そう答えたとこに斉藤諒は本当にづおしようかわからないと言う風におろおろしていた。そんな様子に私は思わず噴き出していた。須賀実穂も噴き出す。


ただ、斉藤諒だけはぽかんとしていた。


「わかったわかった。あんたの顔に免じてあいつは許してあげる」


「元々許されるつもりはないのだけど?」


「人が下手に出てやれば」


ここぞとばかりに言葉を返してくる須賀実穂に対して私は拳を握り締める。今この場で殴り倒してもいいかな?


「二人共、ちょっと」


「この場は私が受け持った!!」


その瞬間、屋上のドアが開いて美咲が屋上に転がり込んできた。文字通り、転がって入り込んできた。


変人がもう一人やってきた。


「せ、生徒会長!?」


須賀実穂がかなり驚いている。まあ、仕方ないか。搭乗の仕方もどう考えても変人だし、そもそもこの場にその発言と共に入ってくるなんて聞いていた以外に考えられないし。


だから、私は小さくため息をついた。


「ちょっとみんな生徒会室にいいかな?」


その言葉に私はただ頷くだけだった。


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