005 第六感の場合
正気とは思えない提案を、正気ではない目つきと口調で言ってきた。こうなると、どのみち全員死んでしまうような気がするので、おれは首元のスイッチを押す。
杖無しで立ち上がり、ふらついた様子もない。その姿で彼女は少し怪訝な面持ちになるが、知ったことではない。
そして、おれは地面を蹴って、彼女との間合いを狭める。
「……動けるっ!?」
点滴などが倒れ、異常を知らせる音が鳴り響く中、おれは彼女のもとへ馬乗りになる。
「オマエがどこの誰だか知らないけど、おそらく空気を爆発させる術式で理人に攻撃したんだろ? 身体強化だとしたら、あんな轟音は出せないはずだ。ほら、ゼロ距離だぞ。〝空気銃〟、撃ってみろよ」
この状態を保てるのは、せいぜい5分が関の山。早く降伏させなければ、意識を失ってしまう。もっとも、冨や桑原がいるこの場から逃げられるとも思えないが、親友を傷つけられた報復くらい、自分でしたい。
「……なんの原理で」
「おれは、術式を主に3つに分けてる。ひとつは未来予知や〝受信〟した意思の〝改ざん〟。ふたつ目は、受信した意思を〝送信〟に切り替えて複数人の脳をパンクさせる。そして最後は……」
一か八かを懸けたのか、少女はおれに手のひらを向けてくる。
「身体能力をすべて第六感に委ね、鋼のような肉体と俊敏さを得られる力だな」
が、おれはそれをしっかり喰らい、マッサージでも受けたように首をゴキゴキと鳴らす。
推測するに、愛川を沈めた一撃だっただろうが、おれには関係ない。
「高杉くんっ!」
「大丈夫です、桑原さん。若はあの程度では死にません」
冨の言う通り、おれは全くの無傷。彼女を睨みつけながら、おれは宣言する。
「ナメるなよ。おれの命獲りたければ、自衛隊の第一空挺団でも連れてこい」
次はなにをする? 本気で撲殺されるかもしれない。こんなことしなければ良かった……そういう後悔が、少女の頭を駆け巡る。
すると、
「……ん?」
じょわぁ……と彼女の股間周りを中心に水たまりができた。あまり良い匂いではない……というか、良い匂いなわけがない。SMクラブだったらオプションになる、いわゆる聖水だからだ。
しかも彼女は、涙目になってすらいた。おれは呆れて立ち上がり、
「ッたく、なにがしたいのか」
そう投げやりに吐き捨てる。
「冨。もう面倒臭いから、コイツのことは捕まえるな。桑原、外で気絶してる理人を拾って」
「御意」
「分かった」
お漏らしをして、ひっくり返ったカエルのようになっている少女──第六感で分析したところ、山下美海という名前の彼女は、泣きじゃくって痙攣まで起こす始末だった。
「なぁ。別に答えたくなきゃ答えなくて良いけどさ、なんでおれがこんな姿になったって知った? まだ日数が経っていないとはいえ、親友と幼なじみすら知らなかったぞ」
「……高崎美咲に聞いた」
「高崎?」
「あの子、高杉くんの幼なじみなんでしょ? だから知ってるって」
「はぁ……」
確かに、高橋美咲は幼なじみだ。家も近いし、幼稚園・小学校ともにいっしょだった。今は同じ中学の別クラスにいて、少し疎遠になっていたが……、それを知っているのなら見舞いに来てくれたって良いのに。
「つか、立ち上がれよ。漏らしすぎてる所為で、起き上がらせるのは嫌だぞ」
「腰、抜けちゃった……」
「あぁ、そう……」
おれはナースコールを押して、ひとりが気絶状態なのと、もうひとりが失禁した挙げ句、腰も抜けてしまったと伝える
「……高崎、ねェ」
男子だったおれよりも、同性の桑原とのほうが仲が良かった。しかし、いつ頃か高崎の話を一切しなくなり、困惑したのを覚えている。
(いや……高崎に限って、痴情のもつれはないか)




