002 各々の思惑
医師の言う通り、おれにとっての第六感は、この魔術がはびこる現代日本で必須の力だ。
「では、質問していくぞ。第六感と自分の脳で考えてくれ」
「はい」
「まず、現在の西暦は?」
「2025年です」
「20年前見つかり、世界中での戦争・紛争に使われるようになった現象は?」
「魔術です」
「その魔術の影響で、この国……いや世界中で起きた緊急事態は?」
「男子ひとりに対し、女子が20人生まれるようになった。ただ、男性で魔術を持つ者は非常に少ない。戦争でも女性兵が重用され、男性兵は危険な仕事に回されるようになった」
「よろしい。ある程度、第六感を使いこなしているようだま」
骨伝導イヤホンみたいなデバイスは、微量な電流を首元に流しているらしい。それが第六感の〝再現〟を行っているということか。
しかし、電流が流れる以上、充電は必至だろう。もって24時間、と考えたほうが良い。
「高杉のカシラ。姐さん。大智くんは、首元にくっつけた外部装置の電源が切れれば、自分の足で歩くこともできなくなります。おそらく、強力な電磁波を浴びたのでしょう。その所為で、脳の動きが非常に弱まっている。そして、彼につけたデバイスを通常通り動かせば24時間程度持ちますが、第六感を強めて使えば更に目減りしていきます。充電はゼロパーセントから40分で100パーセントになります。なにかご質問は?」
「……犯人の脳を切り裂けば、大智は元に戻るのか?」
「不可能でしょうね。大智くんの脳とその犯人の脳を取っ替えるくらいのことをしなければ、健常には戻れません。もっとも、そんなことをしても意味がないですが」
「つまり一生続くということですよね? 先生」
「はい。科学の進歩で完治する可能性もありますが、基本的には一生続くものだと」
父と母は顔を合わせ、コクリと頷く。
「先生ほどの御方がそう言うんだったら、ワシらは信じるしかない。ただ、護衛でウチの若い衆を何人か用意して良いか?」
「病室内でなら構いません」
「恩に着る。小粋、行こう。きょうは幹部会だ。オマエは、犯人の足取りを警察と協力して探してくれ」
「はい」
病室から両親が出ていく。親がいない寂しさは、幼稚園児以来かもしれない。
「若、これからはワシが用意した精鋭で若をお守りします」
「あぁ……」
「それでは、精密検査へ行きましょう。冨さんも着いてきて良いですよ」
「へい、先生」
ベッドに乗せられて、今ひとつ寝心地が悪い中、おれは検査室へと運ばれていくのだった。
*
「大智が大怪我? なにしたン、アイツ」
「知らないよ。ただ、幼なじみとして放っておけない」
どことなく甘ったるく、謎の悪臭も漂う教室で、もはや先生にすら伝えず早退した者がいた。
愛川理人と桑原未来だ。
この教室には、愛川と親友しか男子がいないので、当然校則違反の赤髪パーマの愛川も彼の現在が気になる。
それは桑原未来も同様だ。セミロングヘアを黒と青のツートンカラーにしていて、巨乳かつアイシャドウが濃い。校則違反という概念は通用しないような子だ。
そんな彼女も、幼稚園から遊んできた仲として、万が一の事態は見たくもないが、そんなことを言っている余裕もない。
「へー……大智くんが大怪我。こりゃあ、放っておけないねぇ。まだあの子から告白もされてないのにねぇ」
そんなふたりを、陰気な少女が物陰から見つめていた。彼女は山下美海。昔、消しゴムを拾われて高杉大智という少年に執着するようになった。
それぞれの思惑が重なりながら、愛川・桑原と山下は、別れて病院へと向かう。




