創造神
ミスリル生成は安定した。
だが効率が悪い。1回で1g前後。
単純計算で1000回。
「だる…」
ぼやきながらも続ける俺の横で、フロールは黙って観測を続けていた。
「……再現性、確認。誤差、許容範囲内」
「完全に作業ゲーだな」
「ですが、“本来あり得ない作業”です」
その言葉に、少しだけ笑う。
“あり得ない”をやってる実感。
悪くない。
俺は気づく。
「これ、まとめていけるな」
銀鉱石を円状に配置し、魔力の流れを“循環”させる。
一つじゃなく、同時に複数を変質。
《ミスリルを12g入手しました》
「……効率、12倍」
「やっぱゲームだなこれ」
「……いえ。あなたが“そうしている”のです」
フロールの声に、わずかな確信が混じる。
フロールに“負荷”がかかり始める。
「上位権限からの監査プロセスが増加しています」
「バレかけ?」
「はい」
「じゃあやめる?」
「……いいえ」
即答。
「私は観測を継続します」
その一言で、関係が変わる。
“監視役”から“共犯”へ。
盗賊が来る。
ミスリルの気配を嗅ぎつけた連中。
「おいガキ、それ置いてけ」
面倒だが――
初めて、“戦う”。
だが結果はあっさり。
生成途中のミスリルが暴走し、武器を侵食。
「なんだこれ…!」
「性質変化を利用した“即席対処”です」
フロールが淡々と補足する。
俺は確信する。
「……戦闘もいけるな、これ」
《ミスリルを100g入手しました》
区切り。
その瞬間、空気が変わる。
フロールが一瞬だけ言葉を失う。
「……閾値を確認」
「何それ」
「“観測対象から逸脱し始めるライン”です」
つまり――
ここから先は、本当に“やばい”。
空が歪む。
ほんの一瞬。
フロールが初めて、明確に焦る。
「……上位存在による観測です」
「神?」
「はい。恐らく、創造神」
俺は笑う。
「まだ早いだろ。会えるのはLv100だっけ?」
「本来は」
「じゃあセーフだな」
「……あなたは本当に――」
呆れと、どこか楽しげな声。
「フロール」
「はい」
「もし俺が消されるなら、お前どうする?」
沈黙。
長い。
そして。
「……その場合、私は」
わずかに迷い。
「規定に反しますが、あなたの痕跡を残します」
「へえ」
「“存在した”という事実だけでも」
それはもう、完全に“個”の意思だった。
積み上がる。
淡々と。
だが確実に。
《ミスリルを999g入手しました》
あと1g。
その瞬間、世界が静止する。
時間が、止まる。
「……来ました」
フロールが静かに言う。
声が降る。
『面白いことをするな、人の子よ』
姿は見えない。
だが“いる”。
圧倒的な存在。
「……初めまして、でいいのか?」
『よい。形式は問わん』
軽い。
だが、その軽さが逆に異常。
『その手法、想定外だ』
「褒めてる?」
『半分な』
間。
『残り半分は、危険視だ』
フロールが一歩前に出る気配。
「……当該対象は、私の観測下にあります」
『ほう。眷属が庇うか』
空気が揺れる。
試されている。
「で?」
俺は割り込む。
「消すのか?」
沈黙。
そして。
『――今回は見逃そう』
力が、わずかに緩む。
『理由は二つ』
『一つ。面白い』
『二つ』
ほんの少しだけ、重くなる。
『既に“世界の一部”になり始めている』
時間が戻る。
最後の1g。
生成。
回収。
《クエスト達成:ミスリル1000g》
光が溢れる。
報酬が流れ込む。
だが、それ以上に――
「終わったな」
「……はい」
フロールが答える。
少しだけ、静かに。
「楽しかったか?」
聞いてみる。
本来なら不要な質問。
だが――
「……はい」
ほんのわずかに。
確かに、感情が乗っていた。




