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超越加速 — レメゲトン vs 未来予測 — ラプラス(後編)

廃工場の静寂は、金属が悲鳴を上げる音によって塗りつぶされた。

ハルトとレイジ、二人の騎士が振るう大剣は、もはや物理的な「武器」の域を超え、互いの信念を削り取る概念の衝突と化していた。


激突の最中、二人の得物がその本質を剥き出しにする。


ハルトが握る黒き刃**『魔導剣レメゲトン』**に、もはや絡め手などは存在しない。

それはただ、「目の前にある全てを断つ」という純粋かつ暴力的なまでの切断能力に特化している。錆びついた鉄骨、厚いコンクリートの床、引き裂かれる大気、そしてアスタロトの鎧さえも、レメゲトンの刃が触れた端から紙細工のように切り裂いていく。


対するレイジの得物**『冥剣ラプラス』**は、「未来を刈り取る執行者の剣」。

ラプラスの一振りは、ハルトがこれから繰り出すであろう勝利の可能性を、発生する前に断罪し、摘み取っていく。それは剣戟というよりも、決定された破滅への誘導だった。


「……どれだけ鋭かろうと、届かなければ意味はない!」


レイジの冷徹な声が、ヘルメットの奥から響く。


「届かせる……! お前との因縁、ここで断ち切る!」


ハルトは咆哮し、レメゲトンを力任せに叩きつける。火花が闇を焼き、衝撃波で周囲の窓ガラスが全て粉砕された。


戦いが均衡を破ったのは、レイジが放った禁じ手だった。


《Future Sight: GREMORY(未来視:グレモリー)》


レイジの視界が変質する。世界は色彩を失い、ハルトの筋肉の収縮、重心の移動、そして三秒後に彼が放つ「一撃の軌跡」が、残酷なまでに鮮明な紫の残光として映し出される。


ラプラスの刃が、ハルトが剣を振り切る「前」の、無防備な隙間へと的確に滑り込んだ。


「ぐ、あああッ!」


装甲が裂け、火花が散る。ハルトの胸部装甲に深い一文字が刻まれ、その衝撃でハルトは後退を余儀なくされる。


「チェックメイトだ、ゴエティア。君のあがきは、全て僕の数式の中に収束した。無駄な努力、無意味な情熱……それらが如何に脆弱か、その身で知るがいい」


「……未来が視えるってんなら、その『先』に叩き込んでやるッ!」


ハルトの手が、真紅の鍵を捻り上げる。


鈍い銀色の装甲が、微かに軋んだ。

まるで内側から何かが脈打つように、金属の表面を赤い光が走る。


次の瞬間、清廉だった銀は灼熱に染まり、装甲は紅蓮の鎧へと姿を変えた。


《Boost Up》


無機質な電子音が廃工場の静寂を切り裂くと同時に、ゴエティアの身体から紅蓮の霧が爆発した。ハルトの全身の毛細血管が浮き上がり、命を燃料に変えた加速が始まる。


【10.0】――加速。

世界から音が消えた。舞い上がる埃、崩落する鉄骨、遠くで祈るように自分を見る輪廻の叫び。そのすべてが、ハルトの視界の中で琥珀に固まったように静止する。ハルトの一歩が、コンクリートの床をクレーター状に陥没させ、彼の身体を「音」より先に前方へと撃ち出した。


【9.0】――予測と執行。

アスタロトの視界。レイジはグレモリーを最大出力に引き上げる。レイジの脳内には、ハルトが最短距離で繰り出す『すべてを断つ』刺突の軌跡が一秒早く描かれる。レイジは思考を加速させ、頭蓋を割るような劇痛を無視してラプラスを正中線に置く。


――ギィィィィン!!


激突の衝撃波が、静止した大気を円状に突き破った。


【8.0】――多重連撃。

ハルトは止まらない。反動を殺さず、加速のまま空中を蹴り、アスタロトの全方位から同時に「断絶」の刃を叩き込む。上下、左右、斜め。十を超える一閃が同時にレイジを襲う。


しかし、レイジの瞳はそれを見ていない。彼は「次の一撃が重なる座標」だけを脳内で計算し、そこを見つめている。


(無駄だと言っているんだ……ッ!)


ラプラスが、未来を刈り取る死神の鎌となって、ハルトの刃を一つ残らず弾き飛ばした。


【7.0】――脳の融解。

「視えすぎる」ことが、レイジを苛む。魔力による強制的な情報処理。《グレモリー》が脳に流し込むのは、ハルトの動作だけではない。飛び散る火花の数、大気の温度変化、ハルトの殺意の波形。膨大な情報の濁流がレイジの視神経を焼き、鼻から滴る鮮血が空中で赤い玉となって浮遊した。


【6.0】――死角からの断絶。

ハルトは敢えて正面から突っ込んだ。ブーストの負荷でゴエティアの装甲がミシミシと悲鳴を上げる。


「ここだ……ッ!!」


鉄骨の影に潜り込むと同時に、レメゲトンを地面へ向けて力任せに振るう。狙いはレイジ本人ではなく、彼を支える「地盤」と、背後の支柱。すべてを断つ一撃が、アスタロトの足場を瞬時に消失させ、崩落する瓦礫の雨をレイジに浴びせた。


【5.0】――空中戦。

足場を失った二人が、重力から解き放たれたまま激突を繰り返す。ハルトはさらに加速する。肉体の痛覚を脳が遮断し、意識がゴエティアの装甲と同化していく。


一方、レイジの頭痛は絶叫に変わっていた。視界が真っ赤に染まり、未来の映像が二重、三重にブレ、確定していたはずの未来が霧散し始める。


【4.0】――数式の崩壊。

「ぐうっ……!? なんて動きだ……!?」

レイジは戦慄した。ハルトの動きが、もはや合理的ではない。自身の肉体を壊しながら、慣性を無視して跳ね回るその軌跡は、未来予測の演算を強制的に突破し始めていた。


【3.0】――執行者の意地。

レイジは残るすべての魔力をラプラスに注ぎ込んだ。


「僕が――僕だけが――未来を決めるッ!!」


ラプラスは、予測を越えたゴエティアの動きに対し、全方位への「同時執行」を試みる刺突を繰り出した。


【2.0】――激突の特異点。

ハルトは逃げなかった。刺突を、未来を、断絶の刃で真っ向から切り裂く。


「断ち切るッ!!」


二人の距離が、ゼロになる。すべてを断つレメゲトンの刃と、未来を刈り取るラプラスの刃。二振りが、互いの装甲の隙間、心臓へと至る最短ルートへと吸い込まれていく。


【1.0】――閃光。

レメゲトンがアスタロトの胸部装甲を深々と両断し、ラプラスがゴエティアの肩口を、心臓を逸らして貫いた。火花が、廃工場の闇を真昼のような白銀に塗り替える。


【0.0】――加速が止まった。

世界に「音」が戻った。凄まじいソニックブームが廃工場を震わせ、耐えきれなくなった天井が轟音とともに崩れ落ちる。


「……あ、……がはっ……!!」


レイジが膝から崩れ落ち、激しく嘔吐した。

《グレモリー》の強制終了。限界を超えて未来を視続けた代償は、彼の脳に修復不能な過負荷を刻んでいた。バイザーの隙間から流れる血は止まらず、彼は自分の名前さえ思い出せないほどの激痛にのたうち回る。


一方のハルトも、立っているのが不思議な状態だった。鈍い銀色に戻ったゴエティアの装甲は、半ば剥がれ落ち、ブーストの反動で全身から白い蒸気が上がっている。肩の傷からは絶え間なく血が流れ、レメゲトンを握る手は既に感覚を失っていた。


「……ハァ……ハァ……。どうだ……西園寺……。届いたぞ」


ハルトの言葉に、レイジは答えることができない。ただ、荒い呼吸を繰り返しながら、砕かれたラプラスの柄を握りしめていた。


二人の騎士は、もはや言葉を交わす力すら残っていなかった。静寂。舞い落ちる塵。


その沈黙を破ったのは、闇の奥から聞こえてくる、冷ややかな足音だった。

「今日、実はブックマークが一つ減ってしまい、少し落ち込んでいました。でも、解析を見ると昨日だけで85回も読まれていて、新しく30人以上の方がこの物語を見つけてくれたことを知り、勇気をもらいました。


今残ってくれている181人の読者の皆さん、本当にありがとうございます。皆さんの『面白い!』という気持ちを、ぜひ星やブックマークという形で分けていただけませんか? それが私の『ブースト』になります!」

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