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終奏:長雨の終わる刻、凱歌のあとで

 あの日、世界を呑み込もうとしていた不気味な紫黒色の渦も、すべてを灰に還そうとした絶望の咆哮も、今では教科書の数ページに収まる「過去の記録」になった。


 あれから、三年。


 輪廻は今、新しく再建された『ドリームファンタジーランド』の入場ゲートの前に立っている。


 かつて戦場だった場所は、今や子供たちの笑い声が絶えない夢の国へと姿を変えた。

 今日はハルトとのデート。私の胸の奥は期待感が満ちていた。


 戦いの後、世界は驚くほどの速さで形を変えていった。


 魔界の門は完全に封印され、かつての対魔特務機関『S.A.I.D.』は、魔導の力を平和のために管理する「魔導管理局」へと再編された。


 カレンさんは今、その管理局の最年少長官として、息つく暇もないほど忙しい日々を送っている。時折ニュースに映る彼女は、あの日と変わらず凛としていて、世界中のエージェントたちの憧れの的だ。けれど、私に届くプライベートなメッセージには、『たまにはハルトを貸しなさいよ。人手不足で長官自ら現場に出るなんて、冗談じゃないわ』なんて、少し甘えたような、懐かしい文面が添えられている。


 ミラ先生も、管理局の講師として後進の育成に励んでいる。先生の教室からは相変わらず地響きのような掛け声が聞こえてくるし、遊びに行けば「輪廻ちゃん、あなたも少しは上腕二頭筋を愛でなさいよぉ!」と追いかけ回される。けれど、私を抱きしめる先生の腕の力強さは、あの日、傷ついた私を守ってくれた時のまま、どこまでも温かい。


 ふと脳裏に、仲睦まじく歩く響花さんとレイジくんの姿が浮かんだ。


 決定的な告白から三年経っても、二人の関係は「一進一退」のまま。レイジくんは相変わらず「僕の隣を歩く権利を君に独占させてあげよう」なんてキザな台詞を吐いて、響花さんに「あんたのその性格、一生治らないの!?」と赤面しながら怒鳴られている。


 でも、響花さんがふとした拍子に躓けば、誰よりも早くその手を掴むのは、いつだってレイジくんだ。喧嘩をしながらも、重なり合う二人の指先にはお揃いの輝きが宿っている。彼らなりの「独占的な愛」の形に、私はいつもそっと口角を緩めてしまう。


 秋の風が吹き抜け、私の髪を優しく揺らした。


 かつて、私は自分の運命を呪っていた。


 人間と魔人のハーフとして生まれ、蔑まれ、「鍵の巫女」としての命を狙われていた日々。私はただの「鍵」で、私の未来には灰色の終焉しかないと思っていた。


 でも、ハルトがそれを壊してくれた。


 どんな強敵も退け、彼は私を「一人の少女」としてこの世界へ連れ戻してくれたのだ。


 背後で、聞き慣れた足音が響く。


 振り返らなくてもわかる。私を独り占めしようとする、世界で一番不器用で、世界で一番優しい人の足音。


「お待たせ、輪廻。チケット買ってきたよ」


 振り返ると、そこにはあの日と変わらない、真っ直ぐな瞳をしたハルトが立っていた。


 今は戦いとは無縁のスーツに身を包み、社会人としての日々を過ごしているけれど、その体はあの日から変わらない。魔導剣レメゲトンとグリードキーによって再構築された彼の肉体は、本当は食事も睡眠も必要としていないはずだ。


 それでも、ハルトは私が作る少し味の濃い料理を、いつも「美味しい」と言って幸せそうに食べてくれる。凍えるような夜には、誰よりも温かな体温で私を抱きしめ、名前を呼んでくれる。


 彼は、私のために「人間」であり続けようとしてくれているのだ。


「ううん、待ってないよ。行こう、ハルト」


 彼の手が、私の手を包み込む。


 力強くて、決して離さないという執念に似た、愛おしい熱量。


「ああ。今日は……全部見て回ろうぜ。この夢の世界を、隅々まで、二人で」


「ふふっ、そうしよう」


 私たちは一歩を踏み出す。


 色鮮やかな風船が空を舞い、パステルカラーの街並みに笑顔が溢れる。


 かつての私が見ていたのは、いつか消えてしまう「終わり」の景色だけだった。


 けれど今は、彼と紡ぐ「続き」の物語がある。


 この先、どんな困難があっても、どんなに時が流れても、ハルトが握ってくれたこの手だけは、決して私の未来を離さない。


 私は「鍵の巫女」から解放され、一人の少女として、生涯のすべてを彼に捧げる。


 この世界で一番贅沢で、一番強欲な、私たちの「幸せな日常」を守るために。

「最後まで読んでくださりありがとうございます!

よければ“好きなシーン”や“推しキャラ”を教えていただけると嬉しいです!」

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