虚無は、君を覚えている — 灰になる前に —(前編②)
灰だった身体が、灼けた鋼のように再構築されていく。
再構築。
リバース。
だが、それは苦痛ではなかった。
むしろ――
この世界すべてを奪い取れるような、圧倒的な快感。
渇望が、身体を動かす。
「輪廻、今行くよ」
次の瞬間――
視界が開いた。
現実世界。
戦場。
そして。
最悪の光景。
魔導騎士アガレスが、魔導剣ウァッサゴを振り上げている。
その刃の先にいるのは――
輪廻。
彼女は膝をつき、絶望した顔で空を見ていた。
瞳に映るのは、俺の灰。
枯れた涙の跡。
「ハルト……」
か細い声。
その瞬間。
俺の中の渇望が、爆発した。
――間に合え。
世界が歪む。
ぱきん。
何かが噛み合う音がした。
そして。
刃が、振り下ろされる。
輪廻の首筋へ。
その瞬間――
「――俺の輪廻に、触れるなッ!!」
轟雷。
黄金と漆黒の閃光が、戦場を切り裂いた。
灰の山が弾け飛ぶ。
そこから、一本の腕が飛び出した。
黒と黄金が絡み合う、異形の腕。
それが――
アガレスの剣を、掴み止めた。
「……な、何……!?」
アガレスが目を見開く。
ウァッサゴは、魔人すら両断する魔導剣。
だが。
俺の手は、微動だにしない。
強欲。
すべてを掴み取る力。
その理が、破壊の刃を握り潰していた。
灰が舞う。
俺の身体が、そこから生まれていく。
骨。
筋肉。
皮膚。
そして――
黄金の装甲。
古代の紋様が刻まれた鎧が、身体を包み込む。
バイザーの奥で、黄金の瞳が光る。
「え……」
輪廻が呟いた。
「ハルト……?」
信じられないものを見る目。
俺は彼女の前に立つ。
そして、クローズド・ヘルムの奥で静かに微笑む。
「遅くなってごめん」
あのアパートで交わした約束の、あの時と同じ笑顔で。
「あとは任せろ」
輪廻の瞳から、大粒の涙が溢れた。
だが、それはもう絶望ではない。
希望の涙だ。
俺は振り返る。
アガレス。
そして、その背後にいる魔人と魔獣の軍勢。
胸の奥で、怒りが静かに燃える。
「アガレス」
声は低い。
「お前は、輪廻を傷つけた」
さらに一歩、踏み出す。
「響花を」
「レイジを」
「カレンさんを」
「ミラ先生を」
空気が震える。
魔力ではない。
それ以上の何か。
「……絶対に許さない」
アガレスが笑う。
「クハハハ! 面白い! 灰から蘇ったかゴエティア!」
ウァッサゴを押し込んでくる。
だが。
俺の左手が、軽く押し返した。
魔導剣は、塵のように弾かれる。
「――黙れ」
俺は手を掲げる。
「レメゲトン」
黄金の光が集まる。
「グリード」
黒い欲望が絡みつく。
二つの力が融合する。
「力を貸せ」
俺の手の中に、一振りの剣が現れた。
古の文字が刻まれた魔導剣。
世界の理を断つ刃。
レメゲトン。
『オマエノ終ワラナイ渇望ヲ喰ラエ』
『人間の執念、証明してみせよ』
声が重なる。
黄金の光が爆発する。
装甲が完全に展開した。
灰の騎士ではない。
黄金の魔導騎士。
全てを司る者。
「ここで終わらせる」
俺はレメゲトンを構える。
その瞬間。
遠くで、魔人王バエルが目を細めた。
「……ほう」
戦場の空気が変わる。
夢の国は、今――
黄金の戦場へと変貌した。
ゴエティア・オーバーロード。
その名の覚醒と共に。




