約束の果ては、あまりにも脆く(中編①)
銀灰色の装甲を纏った魔導騎士――ゴエティア。
その姿で、ハルトはアガレスの前に立ちはだかった。
魔導剣レメゲトンを静かに構える。
「アガレス……輪廻には、指一本触れさせない」
兜の奥から響く声は、冷たかった。
今まで聞いたどんな声よりも。
「お前を……倒す」
次の瞬間。
ゴエティアの姿が消えた。
レメゲトンが閃く。
空間そのものを裂くような斬撃がアガレスへと叩き込まれる。
――ガァン!!
漆黒の剣ウァッサゴがそれを受け止めた。
衝突した瞬間、凄まじい衝撃波が周囲をーー夢の世界を揺らす。
「……っ!」
私は思わず膝をつきかけた。
パステルカラーの景色が歪む。
植え込みの木々が、衝撃でなぎ倒されていく。
戦う力を持たない私には、
それはまるで――世界が壊れる瞬間みたいだった。
それでも。
私は目を逸らさない。
最愛の人の戦いから。
私のヒーローから。
戦場に立つ彼は、
いつもの照れ屋で優しいハルトじゃない。
冷徹なまでに剣を振るう、銀灰色の騎士。
その剣は、私を守るために振るわれている。
だから私は、焼き付けておきたかった。
ゴエティアとアガレスの戦いは、
高度な剣技の応酬だった。
レメゲトンの鋭い斬撃。
ウァッサゴの、隕石のような一撃。
地面が砕ける。
瓦礫が舞う。
ゴエティアはそれを受け流し、
アガレスの懐へ潜り込もうとする。
だが――
「遅い」
アガレスの巨剣が振り下ろされた。
轟音。
ゴエティアの装甲がきしむ。
銀灰色の装甲に、亀裂が走る。
技術では互角。
けれど――
力が違う。
次第に、ハルトは押されていく。
距離を取りながら、彼は焦っていた。
それが、私にもわかった。
(どうして……?)
その答えを、私はすぐに理解することになる。
「これで終わらせる!」
ゴエティアの手に、
クリムゾンレッドの鍵が現れる。
ブーストキー。
それはハルトの命を削る禁忌の鍵。
見た瞬間、胸が凍りついた。
「ハルト……やめて……」
声が出ない。
魔力の嵐が、言葉を掻き消す。
ゴエティアが突撃する。
その時だった。
――ポロッ。
鍵が落ちた。
カラン。
乾いた音が、アスファルトに響く。
「え……」
私は目を見開いた。
ゴエティアの右腕。
それが――
崩れた。
千切れたのではない。
血も流れない。
ただ。
乾いた灰のように。
ボロボロと。
崩れ落ちた。
「……っ」
ハルトは、声を上げない。
痛みを感じない身体。
それが、逆に――
彼の人間としての終わりを告げているようで。
怖かった。
肩の断面から、灰が溢れる。
崩壊は止まらない。
それでも。
彼は片膝をつきながら、
私の前から退こうとしなかった。
守るために。
ただ、それだけで。
崩壊する体を繋ぎ止めている。
灰が、風に舞う。
今ーー。
私の夢の時間が、終わろうとしていた。




