第一章二節オリエンテーション 【怨〜らせんの念〜】
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『その動画を見た者は3日以内に行方不明となる』
いつもの、くだらない都市伝説。
昔観た日本ホラー映画の焼直し。
何十番煎じの、パロディ芸にもならない、鼻白むハナシ。
それならば、そのコトを一つ一つ挙げつらい、衆目にさらして笑おう。
指をさして、笑おう。
冷ややかに、笑おう。
失敗したと、笑おう。
意味も無いと、笑おう。
意図が下手と、笑おう。
作者を愚図と、笑おう。
くだらないと、鼻で笑おう。
そういう笑いが栄える時代だ。
そうやって衆目を稼ぎ、利益を得る。
それが賢い生き方ってもんだ。
そう思った。そう思ってしまった。
そして見てしまった。
笑われていたのは俺だった。
―――――
「はぁっ、はぁっ、はぁ、はぁっ……!」
息が詰まって、うまく呼吸できない。
視界が異様に狭く感じる。
立体感が揺らぐ。
視界にあるのは、見知らぬ屋敷。古い手製の家具。裸電球の付いた天井。
そして、あらゆる場所に倒れる。人、人、人。
着物を着た人、スーツを着た人、洋服を着た人、寝間着の人、スウェットの人、ブランド物を身に着けた人……。
全員眠ったように、けれど確実に死んでいる。
その雑多な様子が、俺の脳に一つの理解を与える。
「全員俺と同じ、【犠牲者】たち……?」
やめろ。
【犠牲】なんて言葉はやめろ。
俺はまだ、決まったわけじゃあない。
俺の運命は、まだまだ繋がっている。
そうだ、また、もう一度、やってみるんだ。試してみるんだ。
こんなにも、こんなにも広い家だが、縁側はある。渡り廊下もある。大きな窓もある。
庭を囲う塀はあるが、門は開いている。
出られるハズだ……!
俺は駆ける。木の廊下を靴で踏み荒らし、鎧戸の明け放たれた縁側から庭へ飛び出す。
『がザック、ザッザッザッ……』
飛び石など無視し砂利を踏み、音を立て、土の地面を駆ける。
塀は屋根が突出している。登ることは試したが、登ったところで無駄だった。
いや、無駄なハズがない。でも、出られていない。どうして……。
やめろ。まだだ、まだ俺には道があるはずなんだ。
『タタタッ……。がッ!』
玄関口、石畳の道を駆け、門を押す。
門は木材特有の軋みを鳴らして重々しく開く。
外だ。
外なんだ。
ここは外に出られる。
「ここは外に出られるハズなんだァァァァア!」
何故。
なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、何故!!
「なんで俺は、裏口に居る!! なんで外に出られねえんだよッ!! このクソダボがぁーッ!」
『ガンッ、ガンッ!』
背後にある裏口の門を蹴る。
また、脚に突き刺す痛みが走る。だが、そんなことは最早どうでもいい。
裏門は表門とは作りが若干違うし、俺が毎回蹴って、ちょっと端が傷んでいる。
――いや、俺が出てきたんだ、これは表門なハズだ。
そう呼ぶべき、そう呼ばないといけない。
でもここは裏口だ。振り返れば屋敷の真裏の姿が見える。
いや、これは今いた屋敷とは別の屋敷だ。
そうに違いない。
そうでないといけない。
じゃあ何故、なぜ、なぜ俺は、こんなコトを10回も続けている?
「ふふふふふ……」
背後から、女の笑う声。
俺を嘲笑う、声。
俺を……!
「俺を嗤うなぁあああッ!!」
振り返れば、吐息が俺の顔にかかる。
そして、吸い込まれるように、俺は身体から離れてゆく。
大きなものの一つとなる。
そうか、俺は今まで殻の中にいたんだ。
ここが外なんだ。
ここにはみんなが居て、全てがある。
死体なんかない。
ここは広く、すべてが一つで、すべてが、みんなが、私が、僕が、俺が、あなたであり、キミであり、お前である。
ああ、そうだ。復讐を果たそう。
私から人生の全てを奪った人々から、その人生の全てを奪い返そう。
私の呪いを見せてやろう。
私が全てを奪い返そう。
奪われたのだから、奪い返そう。




