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日本国魔界府府庁秘匿部秘匿室秘匿一課  作者: 臆病虚弱
序章 死を継ぐ者 Inherit The Wind of Death
7/15

仲間たちは秘匿に満ちて

     ……………


 トランプカード、ハートのエースを示すそれは、『言葉の紐』によって操られていた。


 その紐の先にいる男。茶色のスーツを身に纏い、洒落た中折れ帽(フェドーラ)を左手で抑え、右手にタロットカードを持つ、たった一枚のカードに右足を乗せて飛行する伊達男。


 咥えた煙草の紫煙をひと吐きして、彼は皮肉っぽく笑って言う。


「No~! 金剛ちゃァん、ダメだぜ? いっくら私が手数に優れるからって怨霊ザコ狩り押し付けて自分だけオイシイとこ持って行くのはさぁ?」


 金剛は彼を見ると両手を広げて笑う。


「クラビス殿、これは失敬! だが、来てくれるとわかったからこそ今、水都殿を行かせたのだよ。貴殿が居ないとヤツは骨が折れる」


「ハッ! 腕を買ってくれるのは良いけどさぁ。ホントは自分が気持ちよく戦う場、整えてほしいだけなんじゃないの?」


「バレたか! ハッハッハッハッハ!」


 二人の会話の中、森は或人を抱えて護送車まで猛スピードで直進。


 その間、件の栄光のジュンはと言うと、無数のトランプカードによって囲まれ或人の追跡を阻害されていた。

 それでもなおジュンは諦めない。蜂の大群が如く無数のカードが彼の視界や身体を切り裂こうと舞う中で、関節の付け外し(随意性脱臼)による異常な柔軟性と驚異的な移動速度を以て妨害をすり抜け、全てのカードを避け始めたのだ。


 じりじりと彼が護送車へと近づく。

 その時、金剛が首を鳴らしながら、談笑する『クラビス』と呼んだ伊達男に言う。


「気は乗らんが、まあ今日は足止めが任務。――二人でやろう」


「言っとくけど金剛ちゃん、私は別にキミみたいに『戦うのが大好き!』ってわけじゃナイんだぜ?

 二人でやるのが嫌なのキミだけよ?」


 そう言ってクラビスが右手のタロットを振る。

 たちまち、栄光のジュンを妨害していたカードが整列し五つの壁を作り出す。


 ジュンが状況の急変を察知し回避行動を取ろうとした瞬間、金剛が地面を蹴り跳躍。そのまま彼は向かう先に移動してきた『トランプの壁』を蹴る。同時にそのトランプの壁も金剛の移動をアシストする形で押し出す。これにより金剛一人では考えられない機動力を以て栄光のジュンに接近した。


「なにっ――」


 ジュンの反応が一瞬遅れる。金剛はその隙に拳を叩き込む。


『ドガァアアアアアアアアアアン!』


 拳をガードした栄光のジュンだったが、勢いは殺しきれずカードの壁へと突き飛ばされていく。

 金剛はその刹那、ニヤリと笑って彼に語る。


「ピンボールは好きか? 栄光ホドのジュン」


 『ドン!』


 カードの壁は波打つようにジュンの身体を押し出して弾く。その押し出した向きは無論、金剛の拳。

 その後に待つのは人間をピンボールの球とした一方的な蹂躙。五つの壁が生み出す無数の軌道にジュンは乗せられ、動きを支配される。


『ドガン! ドン! ドガァン! ドン!』


 栄光のジュンは金剛の攻撃を的確に腕や脚で受け止めたり、突き飛ばされる軌道を変えようと精確な身体操作を行うもカードの壁は執拗に彼を追い、金剛の元へと突き飛ばす。

 さしものジュンも今まで負わなかった僅かな傷を受けはじめ、戦いの熱気に更なる闘気を燃やし始める。

 もはや、或人のことなど忘れて。

 

 一方、当の或人は縦横無尽、天地の括りさえも無い高速の人間ピンボールや、有馬、賀茂、課長による一方的な敵の蹂躙劇などが繰り広げられる凄惨な戦場に面食らっていた。

 だが、彼を運ぶ森は粛々と移送を果し、ついに或人は護送車へと運び込まれた。


 車内に入ると森が彼に語る。


『或人さん。こちらの席に。離陸します』


「はい……。離陸、飛ぶんですか?」


『ええ。さあ早く』


 車は改造された大型トラックのように広く大きい。兵員輸送車のような厚い装甲と壁沿いに並んだ座席にはハーネス状のしっかりとしたシートベルトが備え付けてあった。

 或人は運転席真後ろ、進行方向と反対側を向いて車内全体を見通す席に着き、シートベルトに腕を通す。


 その時、車内にアナウンスが響く。或人の知らない男性の声だ。


『シートベルトは着用したようだな。森君、もう離陸するかい?』


 森の機械音声が返答する。


琉戸洲るとすさん、お願いします。外の人たちが入ってくるので扉はこのままで』


『了解』

 

 その言葉と共に開かれた状態の扉から見える景色は動き出し、ふわりと、なんの予備動作も揺れも無く車は飛び立つ。ヘリコプターでさえも垂直上昇には大なり小なりの揺れがある筈だがこの車は全くそれが無い。


 みるみるうちに外の景色は上昇してゆき、人間ピンボールの様子も遠のいていく。或人はそれが雲によって隠される直前、栄光のジュンが金剛に反撃を成功させ、トランプカードの壁も破壊している様子が見えたような気がした。


 しかし、外の景色は雲に覆われ戦場は遥か遠くへと消え去った。


 そんな中、運転手と思しきアナウンスが再び響く。


『予定では全員で護送する筈だったろ?

 ――もし、指定高度へ上昇するまでに誰も来なかったらそのままフルスロットルで飛んでいいんだよな?』


 開かれた扉から外を確認している森が返答する。


『ええ、護送が最優先です。が、心配は杞憂だったようですね』


 その言葉の後、森が扉から離れると雲に入り白い靄に覆われた外からヌッと黒革の手袋が現れる。


 そうして扉からベアトリーチェが上空数十メートルだというのに平然と車内へと入り、或人の正面奥の座席へと向かっていく。

 広い車内ながら彼女の二メートル近い巨大な身長は圧迫感があった。彼女はおそらく運転手に向けて指示を出す。


「海川と賀茂が来たらすぐ最高速度で飛んでいい。クラビスと金剛は足止めに残る。

 ――栄光ホドのジュンめ、あれだけやってまだ魔力が有り余っている。完全に想定外だ」


 彼女は溜息を吐きつつ、席に腰を下ろすと或人を見る。

 そのつば広の大きな黒い帽子の影から見える瞳は褐色の肌も相まって闇に光る宝珠のような輝きを放っていた。

 不意にその瞳は或人のもとから逸らされた。


 その時、或人は森によって服の首元あたりのボタンを外され、胸に幾つかの吸盤を取り付けられる。それらはコードで幾つかの計器類に繋がっており、森はその計器を読み取りつつ、近くにある鞄のようなモノを開き、中に入っている大きな計算機のようなモノをガチャガチャと操作している。

 恐らくは精密な身体検査なのだろうと或人には思われた。

 

 そんな中、扉にまたしても人の手が掛かり、相次いで人間が入ってくる。

 

 一人は巫女服のような白と赤の和装に身を包む『式神』を操っていた『賀茂』。

 或人に近い年齢と思しき女性で身長160センチ弱、黒髪をポニーテールでまとめ前髪を眉にかかる程度で真っ直ぐ切りそろえている。明るい印象のある微笑を思わせる表情が特徴的である。


 もう一人は古めかしいガスマスクを被り、筋骨隆々とした上半身を脱ぎ晒すカーゴパンツ姿の『海川有馬うみかわ あるま』と呼ばれた男性。

 両腕には右手の五指に嵌められた指輪と結びつく『黒鋼の鎖』が交差するように巻き付いており、肩の部分までしっかりと彼の身体に張り付いている。生き物のように動くことができる奇妙な鎖だ。


 対称的ではあるが双方個性的な二人、そのうちの女性が奥のベアトリーチェに向かって言う。


「課長、聴いてくださいよ、有馬さん離脱するの拒否したんですよ。考えられます? 『このまま戦わせろ』って」


 話題の対象と思しきもう一方の男性はガスマスクを外しながら答える。


「うるせぇな。結局ここには来たんだからイイだろ」


 彼は外したガスマスクを乱雑に腰のベルトに挟み込むと近くの座席にどかりと座り込む。彼の露わになった顔には幾つか傷跡が見られ、傲岸不遜と言った表情が示されている。


 その言葉を受けた賀茂は更に怒り心頭と言った様子で男を指さして言う。


「金剛さんが説得するまでずーっと私の言葉無視してたでしょ! 一応私、少し先輩なんですよ。 それに指令は指令です! 従うのが当然です!」


「臨機オーヘンな対応と言うヤツだ。普段はオメーの尻ぬぐいさせられてんだから、偶には良いだろ」


「何言ってるんですか、私がいつも……」


 延々と続きそうな口喧嘩に車の奥から声が響く。


「賀茂、海川に説教くれてやるのは良いが後にしろ。今は彼に説明をする必要がある」


 賀茂と呼ばれた女性はハッとした様子でチラと或人を見るとペコリと少しお辞儀して、奥の課長へ向き直り、言う。


「すみません。つい……。すぐ座りますね」


 そう言うと彼女は座席に座り膝に手を置いて課長の話を待ちわびるように目を向ける。


 その先で座るベアトリーチェはゆっくりと口を開く。


「さて……。何から説明しようか……。

 まずは君の置かれている状況から改めて説明させてもらう。

 君、鳥羽或人は我々『日本魔界府秘匿一課』によって『保護・管理下』に置かれることが本日決定した。これは国連秘匿保障委員会及び日本政府の公的決定であり君に拒否権は無い」



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