殉意
……………
『ズドガァアアアアアアンン!!』
一閃。
数秒の内に或人は怪人の進行方向手前の地面へと激突。
その一秒ほど後、彼は爆発した。
いや、正確には彼が確保した【砲弾】が地面の中で爆発したのだ。
爆発によって或人は土石と共に煙を吹いて吹き飛んでゆく。
身にまとう鎖によって、かろうじて彼の身体は形をとどめているが痛々しい傷を負っている。
直前まで駆けていた怪人は爆発に巻き込まれたもののその鋼鉄の身体にそこまでひどいダメージはない。
そして、爆発に巻き込まれたもう一体、地中を進んでいた『ドリル人間』である。それはもはや再起不能と思える東部の損傷を負い爆発によってできたクレーターのそこでぐったりと倒れている。
或人はどうやって『感知不能の地下を進むドリル人間』を特定し『砲弾』をそこに叩き込むことができたのか。
彼は大地に向け突き刺さるような勢いで飛び込む中、周辺半径百メートル近い空間を感知によって完全に把握し、まず『野戦砲人間』から延びる二本の魔術結合に着目。
一本は動かず地下深くへ、もう一本は移動しているように動くが直線の垂直との角度は判っていた。
もう一体、感知範囲ギリギリを走っていた『ノコギリ人間』も同じく地下深くへ続くものと動き続ける魔術結合を持っていた。
そして彼は、最後にもう一体同じく魔術結合を二つ、この二体と全く同じタイミングで身体に付着させる存在を見つけていた。
それは全く動かなくなった『バルトルト・ホーフェン』の肉体。
彼もまた同じ魔術結合による『同期』を行っていたのだ。
これによって或人は『地下で動き続ける存在』とつながっていると思われる直線3つを確認。
各点の直線距離と平行線との角度。各点が平行線上で交わる点。
それらは容易に求められ、彼は直観的に『三つの魔術結合が指し示す地下の存在の位置』を把握。
さらに、この考察には類まれな彼の予知能力も関わっており、刻一刻と動き続けるその位置を感覚的に把握し続けていた。
こうして彼は地下のドリル人間を的確に狙いすますことができたのだ。
そして、野戦砲人間から射出された砲弾は先ほどと同じように『神経操作術麻酔物質生成術式』を使用。例によって彼は『無詠唱』コンマ数秒もかけずに砲弾を無力化。
鎖を使ってやや離れた砲弾を引き寄せ、自らの胸にそれを抱えながら、さながら彼自身が徹甲弾の如く大地へと突き刺さり、『ドリル人間』の位置すると予想された場所で砲弾に魔力を込め爆発させたのだ。
この一帯を把握する感知能力、そして彼自身はまだ完全には理解していないが、数秒も無い高速移動の最中で思考を巡らせ、手早く行動をすすめることは先の行動をあらかじめ明確に予知しているからこそできる芸当である。
だが、彼の身体は結果としてズタズタに砕け、空中でなすすべなく落下することしかできずにいた。
――『ノコギリ人間』、『野戦砲人間』……。まだ、僕がやるべき相手は居る……。
奇襲による拘束を仕掛けてくる一番厄介な相手を倒したとはいえ……。二対一。
だが、或人は地面に激突、魔力の防護によって衝撃を最小化するが、ズタズタになった彼の身体には少々の衝撃が激痛をさそう。
『ドッ……』
「うぐぁっ!!」
失われかけた彼の意識の中、奇妙な声が響く。
――『意識を手放せ。死を享受せよ。夢も眠りも無い終わりを。死にゆくものの魂を覗き、その絶望を感受せよ』
だが、彼は首を振って身をよじり、上体を無理に起こしながら周囲を感知する。
怪人は爆発の衝撃に倒れるもすぐに飛び起き、当初より狙っていた野戦砲人間の元へと走る。
対する野戦砲人間もそれを狙ってか砲撃の用意を行っていた。
もはやドリル人間によるバックアップも存在しないそれは、怪人にとって先ほど以上に避けやすい攻撃に他ならない。砲撃に意味は無い、はずである。
だが、或人の直感はその砲撃を強く警戒している。
――なんだ……? 何か……。おかしい……。
……! まさか、砲撃の目標は……。
『ガチャンッ……。ドガァアン!』
切り落とされた野戦砲人間の頭部が砲撃により発射。
入射角、放物線軌道。それらは或人の感知と予知によって即座に知覚される。
――僕を狙って……? 何故? 何が狙い……。
或人は這いずるように移動しながら或人は他の兵器人間『ノコギリ人間』の行動も覚る。
――ノコギリ人間も僕を狙いだした……。いや、むしろ好都合、この隙に増田さんが……。
そして、或人は怪人の動きを知覚する。
怪人は、『砲弾』、そして或人のもとへと向かっていた。
――まさか、僕を庇おうとしている……?
ダメだ……。増田さんがあの野戦砲人間の砲撃を耐えられるとしても、大本を叩かない限り砲撃は止まない。
僕を狙うノコギリ人間は優先的に倒すべき目標じゃない!
僕は砲撃に耐えられないかも知れないが、見捨てて相手を叩かないと……!
或人には理解が及ばなかった。『自らを犠牲にしてまでほとんど見ず知らずの【鳥羽或人】を助ける怪人の行動原理』がわからなかった。
それが彼ちょうど先ほど行ったのと全く同じ行動を示しているだけだと言うのに、彼には理解できなかった。
彼は怪人が放つ呪いの中に人間的な温かさを感じていた。
だがそれが、彼の予知によっても、感知によっても、自己犠牲の行動を目指すものだということが分からなかった。
彼の眼前、上空に飛び上がり怪人はその身を挺して砲弾を受け止める。
『ドガァアアアアアアアン!!』




