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日本国魔界府府庁秘匿部秘匿室秘匿一課  作者: 臆病虚弱
第一章・第一節 【兵器人間は人の夢を見るか? Do cyborgs dream of human ?】
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嵐の荒野

     ……………


「消えた……? ここはどこなんだ……」


 或人は霧と暴風吹きすさぶ嵐の荒野で迷いながら歩く。

 彼は気が付くとこの場所に居た。そして何もわからずに歩いていると、なぜか倒れこんだ栄光のジュンを見つけたが、それすらも地面の中へと消え去り困惑していた。


 辺りは激しい風の音が響き、霧も立ち込めているために何もわからず進むことも戻ることもできずにいた。


「!?」


 或人はさ迷い歩く中で見つける。五人の人影だ。

 彼は走ってその影へと近づく。だが、その影はどこまで近づこうとも『影』であった。

 黒く揺らめく影。それは霧の影響でそう見えるのではなく純粋に『影』として空間にたたずんでいるのだ。


「これは……?」


 しかし、よく見てみれば、その影の中には『肉』や『骨』『臓器の一部』などが浮遊している。

 そして、或人の漏らした声に反応するように、五人の人影の一人が影の中に浮かぶ『口』を開く。


「俺は……。俺は逃げたんだ……」


 或人はすぐにその声が『怪人』のものであることに気づく。だが、先ほど聞いた怪人の声とはかなり異なり『歪み』のようなものが失われて『人間』の声となっていることがわかる。


「あなたは……。あなたが増田太郎さんですか……?」


 目の前の影はその問いには答えない。

 答える代わりに影は或人に迫り、触れるとともに煙のように消え去った。浮かんでいた肉も同じく雲散霧消する。


 そして、或人は夢を見る。


 彼の五感と記憶が、その『影』、魂の一部を読み取ったことで見える夢。

 それは詩のような5つの夢。ある男が家族にまつわる三つの悪夢、戦争で部下に背負われて生き延びた記憶、上官の提示した奇妙な契約。そして……。

 


     ―――――


 初めは失った手足を復活させる、奇跡のような手術だった。

 今よりもずっとぎこちない動きだったが、私につけられた鋼鉄の義手は拳銃の操作や銃の解体までできるほどに精巧な動きが可能であった。

 すっかり気を良くした私はその次の手術もそのまま受けてしまった。

 

 二度目の手術は私の元あった手足を完全に義手義足に挿げ替えるものであり、これには私も当惑した。

 だが、彼らは『元のモノ以上の力を引き出せる上に、元のモノに比べて強固な肉体を得られたのだから』と私をなだめた。

 そして次はこれらを調整するだけだと嘯き、私を次の手術へと誘ったのだ。


 三度目、これから目を覚ますと私は他の者たちと同じ場所にいた。そこは多くの、胸に機械が取り付けられ、ピクリとも体を動かさずに、ただただ呻き声をあげる何人もの男たちが並べられている場所だった。


「おッ……お目覚めのようだね、えーと、そうそう増田少尉だったか」


 そこにはあの上官、神田四郎少佐と楠田博士が立っていた。


「これはい~い結果でしたよォ、少佐殿。見てくださいよォ、この性能を」


 恍惚とした表情で楠田博士は少佐に資料を見せていた。


「うん、うん。これならあの実験も問題ないでしょうな、ここまでの逸品はなかなか『用意』できない」


「家族構成は母、父、妹、叔父。ええ、これだけあれば足りましょォ。特高に掛け合って戸籍等々邪魔なモノは消してもらいましょうねェ~」


 分厚い眼鏡を上げながら、楠田博士は笑っていた。

 少佐は


「話が早くて助かりますな。うん、君も感謝したまえよ。えーと、ダルマ君。君はこれから皇国のための決戦兵器の礎となるのだから。南方戦線で君の小隊が失態を演じた分の、『私の不名誉』はこれで回収できる。いやはや、ゴミも使いようだな! ハッハハ!」


 私はその間も口を動かすことも、身体の一切の自由を失った状態でただただ彼らの言葉の意味を考え、怒りのような困惑のような、何を言っているのかわからずに、ただ、侮辱されていることだけを理解して、混乱してそのまま気を失った。

次に目覚めた時……あれは……悪夢だ。

 家族が。目の前に……。ああ、これ以上思い出すとマズい。


「これが君の心臓となるエンジン……。君はガソリンで動くのだ」


 私は……家族の……。


「ただのガソリンではない。家族からの憎悪、君からの憎悪、心という魔力を燃やす揮発性の呪いで君は動くのだ!

――どうやら君、家族から結構恨まれているらしいぞ? ええ? 君は結局、逃げるために軍に来たようだなァ? 全く人の心とは恐ろしい! ハッハッ!」


 興奮した様子で楠田は生きたまま俺の家族を解体していた。

 母の屍が……。


「こんな母さんでごめんね。太郎」


 父の肉が……。


「太郎。お前、行くのか?」


 妹……雪の骨が……。


「お兄ちゃん。行っちゃうの」


 叔父の臓物が……。


「太郎、お前は外の世界を見た方がいい」


 身体に埋め込まれている……。


「資料によると、貴様の家族は互いに互いを呪いあっているようだな……! それも、もっとも冒涜的な、姦通と不義の形で……! はははは!

 いい素体だよ試作品君。君への恨みも君自身の恨み十分だ。恨みってのはな、どこに向かうかなんて時間によってわからなくなる。ただただ、いい刺激が脳に掛っている事実だけが残るのだ。くくく、全く科学というのは、素晴らしい事実を我々に与えてくれる。フハハハハ!」


 奴らは俺の耳元でじっくりと家族と、俺を呪う事実を述べながら、『解体』の様子と私自身の改造手術の様子をわざわざ私に見せつけ、苦痛の下で奇妙な儀式を遂行し、私の胸のエンジンに家族の脳を乱雑に全て納めたのだ。

 それ以来だ。

 私は頭の中で家族の声が聞こえるようになった。

 奇妙な夢を見て、我を忘れるようにもなった。声は、夢は、いつもいつも同じことを。同じ言葉ばかりを話す。いつだって私の中で繰り言をする。

 いつだって俺の夢を侵害する。どうしたって俺は、どうしたって俺は生きてちゃいけないんだって!

 そして最後には決まって奴の言葉が聞こえてくる、うるさいんだよ!

 何度も何度も何度も何度も、ああまただ、また奴のあの叫びが、最後に響く。


「君は我が研究初めての成果物。――名付けよう――『兵器人間、|瓦斯倫男(ガソリンマン)』! 憎悪で動く兵器人間だ! フハハハハハ!」


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