間話 挿入歌4
……………
馬鹿に静かな場所だった。
あの|熱帯雨林の喧騒が懐かしかったのかもしれない。
おそらく私はあの場所で、ほとんど死んでいたのだから。
「増田太郎少尉。これは君の軍人としての忠義にかかわる質問であるのだが……。よろしいかね?」
「はい……。少佐殿。――忠義と言いますと、私は軍人として全身全霊を賭して前線に参加し、恥ずかしながらこの負傷を負い内地へ戻ってまいりました……。生き残った以上、目標半ばでの撤退指示による兵らの逃亡、虜囚の責も負う覚悟であります」
「ああ、少尉。その君の負傷を誇示せぬ謙虚さと、部下思いの人格を評価しての質問なのだよ。新任間もなくして君は十二分の英雄的活躍をした。
そう、活躍。それが重要なことなのだ」
「……。活躍ですか……。それならば私よりも、私を背負ってきた松谷が……」
「いやいや、私たちの眼鏡にかなったのは君だ。この勲章ものの傷が証拠だ。
――このまま本題といこう。私は『楠田五郎』博士という陸軍研究所新任教授の試作兵器に、軍人として協力しているのだがね。
君、君が再び『軍人』として戦地で活躍することができる……。と言ったら君は我々に協力してくれるだろうか?」
「……見ての通り私は片足と片手を落とした、軍人として役に立たなくなった男です。これでもあなた方に協力できることがあるとは考えられないのですが」
「いやいや、十分、十分だよ増田少尉。
君一人で何人もの、この皇国の臣民が助かるのだよ、増田少尉。宜しければ、先ずここに記名してもらいたいのだが……。
もちろん、謝礼も年金も増える。
だが、それより何よりこの国の勝利、それこそが今一番大事なことだと君も理解しているだろうがね……」
彼の渡した書類には『手術同意書』と書かれていたほか、陸軍研究所第五科篠田研究室だか、その他何だかの名前や研究室名が連ねられ、それぞれの許可印が押されていた。
「……私でよければ」
私はあの時、私がこのまま生き残ったところで傾きかけの家計の負担になると考え――ああ、そう、家族。家族の事ばかりだった、あの時の私は。――そう考えて怪しげな、この契約を承諾した。
少し前まで特攻という言葉を心底嫌って、軍部でその話題がにわかに出始めていることを部下に愚痴を言っていた私でも、自分事となってしまえば、このように、特攻精神というモノを持つのは不思議なものだ。
少佐は私をすぐに『楠田五郎』という工学教授に引き合わせた。
楠田はねじくれた髪が奔放に伸び、厚い眼鏡を掛け、口髭をぼうぼうに伸ばした、白衣の不審な男だった。紙たばこを常に咥え、貧乏ゆすりが激しく、口ごもったような返答しかしないような様子で、私はあまりいい気味はしなかったが、私を引き合わせた少佐によると医者であり、工学博士でありまたその他諸学に精通するという。
私は彼に言われるままに『回復のための施術』と称した幾度もの実験と改造を受けることとなった。
初めは失った手足を復活させる、奇跡のような手術だった。
今よりもずっとぎこちない動きだったが、私につけられた鋼鉄の義手は拳銃の操作や銃の解体までできるほどに精巧な動きが可能であった。
すっかり気を良くした私はその次の手術もそのまま受けてしまった。
あの男を信じ切ってしまったのだ【神田四郎少佐】を。




