栄光と嘲笑
……………
「不甲斐ないナチの残党に頼まれて、こんな東の果てまではるばる来たんだ、少しはホネのある活躍をしてくれたまえヨ。日本魔界府秘匿一課ァ?」
にこやかな笑みを浮かべ、布を風になびかせながら空中で構えを取る栄光のジュン。その余裕たっぷりの様子から溢れだす彼の魔力は圧倒的。
或人は直観、彼が【大量破壊兵器】に近しい破壊能力を持つことを感じ取る。
――この周囲の、うっそうと茂っていた林が見渡す限りほとんどすべて吹き飛んでいる……。この惨状は全て、あの人が、軽々とやったんだ……!
彼は片手間でそれができる、それだけの力がある。
有馬さんから聞いた【特異】。彼のような存在をそう言うのだろう……。僕なんか遠く及ばないように思えるけど……。
でも、奴の狙いは……!
或人は拳を握る。
一方、すぐに臨戦態勢を整える有馬は周囲の惨状を目の当たりにして自らが講じた『策』が無為に終わったことを悟る。
――野郎、秘匿結界内を更地にしやがった!
半径数百メートルはあるこの面積を大した消費も無く軽々と!
甘かった……! さっきの戦いで敵は賀茂ほどの【面】制圧力は無いと踏んで、秘匿結界内に更に結界を張って隠れたが【総当たり】で見つかった!
てかおれの張った結界までブチ壊してもなお、おそらく、ヤツは魔術を使っていない!
同じことを悟っているのか、近くに立つ賀茂は冷や汗をかき、霊符を手に取りながら敵を不安げに見つめている。
だが、有馬はガスマスクを被りなおし、内で不敵な笑みを浮かべる。
――だから何だ? 倒す。おれができるのはそれだけだ。
「上等だぁッ! ホドでもアドでも何でも来やがれ、クソチビがぁッ!」
急激な昂揚感に包まれた有馬が吠える。
彼の愛用するガスマスクに刻まれた、彼自身の『呪い』を基とする魔術。このマスクを被ることは彼の脳神経を興奮させ、精神を戦闘へと最適化する『スイッチ』なのだ。
5本の鎖がそれぞれ、鞭のようにしなり、勢いをつけ、上空に浮かぶ栄光のジュンへと襲い掛かる。
「中々練られた呪物のようだネ」
彼はそう言うと襲い掛かる鎖を避けようともせず、なすがままにただ、佇んでいる。
5本の鎖は同時に打ち込まれる。
『ギィイイイイイン!』
鋼鉄の塊、まるで巨大な戦艦に鎖を打ち付けたような金属音が響く。
だが、栄光のジュンには全く効かない。それどころか彼は魔力による防護すらほとんどしていなかった。
つまりは、彼自身の肉体そのものが、あの怪人の魔力で守られた装甲をも穿つ呪物の鎖を軽々と跳ね除けるほどに強靭なのだ。
「だが、アザにもならんネぇ――」
余裕しゃくしゃくといった彼のもとへ、一陣の迅雷。
『ヴァリヴァリヴァリィッ!』
雷撃で一瞬の隙、そこへ仕掛ける二体の【式神】。
賀茂の操る金剛力士に似た【伐折羅大将】が槍と金剛杵をそれぞれに携えて栄光のジュンを強襲する。
――出し惜しみはしない! たとえ効かなくとも!
賀茂は次々と霊符を取り出し、呪文を詠唱してゆく。
式神の攻撃に合わせて極限の攻撃を投入しようという魂胆だ。
式神の拳が、槍先が敵の腹をまっすぐ捉える。
『ドゴゴォオッ!』
攻撃が入って間もなく、賀茂の魔術結合がほとばしり、栄光のジュンの身体へと照準を合わせ次々に炎が飛び込む。
それはさながら対空砲火の如き勢いを示す。
『ドガガガガガガガガガガガガガ……!』
爆炎に包まれた栄光のジュンの姿は数秒近く隠れた。
しかし、すぐに炎はかき消える。或人にはそれが一瞬先んじて解る。
「そんな!?ッ」
『ビュオオオオオオオッ! ドガガァンッ!』
栄光のジュンは腕を一振りして、全ての爆炎、そして二体の式神を振り払った。
式神はそれぞれ地面に叩き落とされ、たった一撃で傷を受け、その身体を構成する魔力の多くを失う。
肩の土ぼこりを払う栄光のジュンはつまらなそうな顔をして言う。
「結局こんなものか……」
「言ってろ、チビスケ」
ジュンの背後を隠匿法により気配を消した有馬が取った。
一気に彼は鎖5本全てで拘束を試みる。
「やった!」
賀茂は鎖がジュンの五体を完全に拘束したのを見て思わず叫ぶ。
だが当の本人、栄光のジュンは尚も笑みを崩さずに背後の有馬へ語る。
「搦め手か、多少の実力差なら埋められるだろうネ。だが、蟻がどんなに努力しようと象には無意味だ」
そう言って彼はぐるりと有馬へ振り向く。鎖を操る有馬はその勢いに姿勢を崩し、栄光のジュンのもとへと引き込まれる。
そして、ジュンは人差し指を倒れ込む有馬の額に置いた。
その瞬間。
『バツッ!』
有馬の頭が後方に一瞬で仰け反り、だらんとした身体が鎖によってささえられる。
栄光のジュンにも衝撃波のようなものが響き髪を一気に後ろへなびかせたが、彼は何でもないように平然としていた。
有馬は頭部への激しい衝撃により一瞬気を失いかけつつも、ガスマスクによる神経の興奮によりなんとか意識を保ちつつ、何が起きたのかを覚る。
――たった指一つ……。いや、一瞬のうちにあそこに凄まじい強度の魔力が出力された!
術式は発動済み、ヤツに衝撃は返っている。
だが、それでもおれの方に衝撃が来た……!
その彼の頭部への衝撃は有馬の魔術による衝撃反射の上限を、栄光のジュンが軽々と超えたことを意味していた。
有馬は指先一つにすら敵わないのだ。
しかし、彼は拘束を解かない。
それどころか鎖をキツく締め、対抗心を露わにした。
「狙いは分かってる! 或人ォッ! ソイツ連れて逃げろ!」
有馬の一声に、或人はすぐ走り出し、怪人のもとへと向かう。
だが、怪人は突如として飛び上がり、エンジン音をかき鳴らしながら叫ぶ。
「ウグォガアァァァァア!!」
「なっ、まさか――」
或人はすぐに感知能力によって怪人の身体へ【隠匿された魔術結合】が付着しているのを見つける。
しかも、その大本は彼の足元、地面から近づいていた。
――来る! 避けなくては!
或人が足に魔力を込め、飛び上がった途端、その地面が吹き飛ぶ。
『ドガアァッ!』
そこには黒革のコートを身にまとい、全身を毛皮に覆われた『人狼』が居た。
「ヌゥ……! 避けたか……」
それに続いて『怪人』の周囲の地面からに三つの影が現れる。
先に見た3体の、怪人に似た『兵器人間たち』だ。
人狼の姿をした軍人が口元をゆがめ、片言の日本語で或人に語る。
「『回収』させてもらうぞ、日本人よ……! 我々の戦いの最終勝利の為に!」
黒鉄の軍団が怪人を囲う。




