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日本国魔界府府庁秘匿部秘匿室秘匿一課  作者: 臆病虚弱
第一章・第一節 【兵器人間は人の夢を見るか? Do cyborgs dream of human ?】
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異邦人

     ……………


「アレは……?」


 入ってきた謎の男を見た或人が呟く。その男の魔力は常人のそれのように少ないものだったが或人にはすぐ、その波長の特徴を覚り、先程の『怪人』に近しいものを感じ取った。

 彼の反応に有馬が小声で制止する。


「黙っとけ。あと、魔力を消せ……。『奴』はそこまで感知が強いわけじゃなさそうだが、万が一ってのもある……」


 或人はその言葉を聞き、金剛より教わり、先ほど有馬が『怪人』との戦いで見せた魔力操作の技法・『隠匿法』を試みる。

 魔力は通常、常に放出されている状態となっており、この放出される魔力の波長をその身体で受容するのが感知能力の基本である。

 その魔力の放出を体外に留めて纏うのが魔力操作の最も基本的な操作であるが、『隠匿法』は体外への放出を体内でせき止める操作を指す。これによって身体より放出される魔力が大幅に減少し、他者に魔力を覚られる可能性が大幅に減少するのだ。


 三人は自身から放出される魔力を遮断し息をひそめる。流石の有馬、賀茂は経験と長年の訓練によって的確な魔力抑制を行う。

 対する或人は魔力操作こそ覚束ないものの、自らの一線級に研ぎ澄まされた感知能力によって細かな魔力放出を感じ取って、的確な魔力操作を行う事で何とか二人に迫る『隠匿法』を成し得ていた。


 入ってきた謎の男は特に気づく様子もなくカウンターへと向かい、席に着いて一言。


「コーヒーを一杯頼む」


「はい……」


 マスターがコーヒーを淹れる中、賀茂が懐から手のひら大の機械を取り出す。


 アンテナと画面の付いた通信機トランシーバーのような機械は、ねじ回し式のスイッチを入れると、アンテナから魔力が放射されるが、彼女がやや慌てて幾つかの回転スイッチを調整すると魔力の放射は『巧妙に隠匿された一本の魔術結合』となった。

 彼女の操作が進むにつれその感知しにくい魔術結合は謎の人物の元へと向かい、それがついに背中へ接触する。


 すぐに画面を確認した賀茂は或人達へ顔を上げて言う。


「波形一致、やはり、対象秘匿物品です……。どうします、回収は?」


 カウンターに一人座り、大人しくコーヒーを待っている男をひとしきり見た後、有馬は言う。


「そりゃ、奴が店出るまで『ケン』だろ。状況見ろ」


 そう言って彼は深く座り、ライブ配信視聴を再開する。

 賀茂は『ぐぬぬ』と言いたげに顔をしかめているが反論せずに或人へ指示を出す。


「いつでも動けるようにしておきましょう、いつあの怪人が暴れるか分からないからね」


 或人は頷く。


「はい。――それにしても、あの人、さっきとは体格も様子も全然違いますよね……。無口ながら声にはちょっと面影ありますが……」


 彼は視線の先にあるコーヒーを啜る背中に、穏やかな様子を感じ取り、そう語る。


 どこか悲壮感のあるその背は、先ほどの荒々しい獣の様な戦いからは想像できない姿だが、あの戦いの最後で見せた『正気』――彼への謝意と苦痛をうかがわせる一言と繋がる姿ではあった。


 或人の発言に有馬が返答する。


「さっきの姿……。単なる魔術じゃあねえのは明らかだ。恰好と『篠田重工』の関わりがあるとすれば。旧日本軍の魔術兵器であることは確定的。――そのうえで、何か妙な『組織』がかかわっているワケだ」


 賀茂が有馬の言葉に対して質問を投げる。


「その『組織』というのは、私気絶しててよくわからないですが……。私を撃ってきて、そのあと『怪人』に拘束魔術を仕掛けたんですよね?

 ――いまの様子といい、あの『怪人』、『組織』に操られているというセンはないですかね?」


 或人はそれを聞き、すぐに合点がいく。

 先ほど見せた理性的な様子や戦闘時の正気を失ったとしか思えない様子が一つにつながり、突如現れた『組織』の存在もうまくかみ合う考察だ。


「確かに、それだと説明がつきますね……。あ、でも……」


 或人の気づきに有馬が同調して言う。


「ああ、それだと『組織』の連中が一週間ほど前から活動していることになる、『殺人』がヤツの意思でないとするならな。おかしくねえか?

 あの怪人野郎が弱ったところを『拘束』してまで捕まえようとする『組織』がそんな前から怪人野郎を回収せず泳がせるなんて……。

 とはいえ、この話も、お前の考察も、今はあまりに証拠や明瞭点が少ない『組織』の目的すら不明瞭だからな。今するべきは考察の共有じゃあねえ」


 その会話に、松谷刑事が割り込む。


「その通り、今すべきは『ヤツの動向把握』と『ヤツの手掛かりの共有』そして、俺はまだ後者について情報を持っている。さっき言いそびれた『この店を選んだ理由』だ。アイツに注意しながらでいい、聞いてくれ」


 三人は魔力感知によって店内の『怪人』に注意を向けつつ、話に耳を傾ける。

 そのとき、或人はその卓越した感知能力によって奇妙なことをに気が付いた。


――怪人は無口だけれど……。店主の人はかなり話しかけている……?

 言葉はここからだと聞き取りにくいけど、口の動きで何となく感じ取れる。『また、来てくださったんですね、いつもありがとうございます』……?


 或人がその言葉を感じ取る中で松谷刑事は話し出す。


「君たちが来てくれて、さっきの調査をしてくれて初めて『確定』したことだが、『あの姿のヤツ』はこの店に少なくとも一回は来ている。

 聞き取り調査で分かったんだ。さすがに今、ヤツが来るとは思わなんだが」


 有馬は『そういうことは早く言えよ』という表情で聞いていたが刑事はそれを気にせずに話を続ける。


「――それで、店にヤツが入ってきて、今マスターと話しているのを見て……。マスターに事情を聴いていた時、妙なこと言っていたのを思い出した。

 その時は、大した証言でもないとスルーしていたが、妙に印象深くて頭の隅にこびりついていた言葉が」


――――


「それでは、その顔の見えないフードを被ったカーキ色コートの男性についてもう少し詳しくお話を」


「はあ、そういいましても……。あの人は無口でしたからねぇ……。あ、でも……。いやぁ……」


「どうかされたんですか?」


「いえね、大したことじゃあないんです。ただの老人の勘違いといいますか」


「いやいや、そういう引っかかるような小さなコト、それを私は聴きたいんですよ、マスター。今、大したことがなくてもいつか何かにつながる、そんなことがあるんですよ」


「はぁ、そうですか……。まぁ、その、今話したお客様がですね。ずいぶんと昔に、どこかで会ったような気がするんです。どこか懐かしさを感じるというか……。

 ――変な話でしょう? 顔もほとんど見ていないですし、会話も大してしていないのに……。こう年を取ると妙な感覚を覚えてしまうものなのだなぁと、思いましてね」


「フム……。なるほど、興味深いですな。心当たりは無しですか」


「ええまぁ、さっき言ったように顔もほとんど見れませんでしたから」


「……。わかりました、まぁ別の話をしていれば何かつながる話があるかもしれませんし、その方が来た日について詳しく……」


―――――


「――という話なんだが……。今のマスターの様子を見ても、常連と話している感じとも少し違う、少し上機嫌とも思える様子……。俺の刑事としての所感ではあるが、『彼は何か知っている』。たぶん、忘れているだけなんだ」


 有馬はその話を聞いて、ちらりとカウンターの方に座る『怪人』とマスターを見る。彼の瞳に映る、老齢のマスターはどこか機嫌よく、その客に話しかけていた。客もうなづいたり一言二言ぼそりと相槌を返しており、姿かたちも違うことから、先ほど死闘を演じた『怪人』がその客であるとは到底思えない。


「――それが当たっているかどうか確認する方法は今は無ぇ、とりあえずもう少し証拠がそろってからの話だ……。だが、ヤツをこのままみすみす逃すわけにはいかねえ。俺が尾行する、賀茂、『形代』よこせ」


「あ、はい。『通信』ですね」


 賀茂がそう言って懐から人型に切り取られた和紙の一切れをとりだし有馬に渡す。

 或人は不思議そうな顔をしてそれを見ていた。

 

「それは一体……?」


「ああ、これはね、私の『式神操作術』の術式をあらかじめ刻んだ形代で、視界共有や通信ができるモノなんです。数時間で効果は切れちゃいますけど、これを使えば電波を使わずに遠隔通信できるんで便利ですよ」


「へぇ……。秘匿課は通信機使えないから、こういうのを……」


 だが、彼はその瞬間。

 『直感』――否、優れた『予知能力』によって今、()()()()()()()()を察知した。


「!?ッ」



――店の外から『魔術結合』が……。あの怪人が、暴れる!?


 或人は一瞬、店の外へ視線を送ったが、即座に店内の怪人へ振り向き、立ち上がる。


『ガシャァン!』


「ウグァアッ!!?」


 突然、コーヒーカップを落として割ったコートの『怪人』はうめき声と共に立ち上がり、頭を抱えだす。

 

『メキョメキョメキョ、ブチッ……』


 痛々しい音を立てながらその人物の頭部と胸部が膨らみ、服とフードが破れる。

 そこには鋼鉄の頭部部品とエンジンの如き胸部が現れ、正しくこの人物こそが『先の怪人』であることを示している。

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