彼女は無慈悲な霊の女王
……………
その時、彼女は懐から取り出した札を地面に投げつけ呪文を語る。
「平伏せよ、服従せよ、冥界の将官よ。支配せよ、破壊せよ、指令のままに。死せるものが生けるものに敵うはずはないのだから」
すると札は灰となり焼失。その瞬間多くの『魔術的結合』の紐が現われたように或人には見えた。
――なんだ!? 一瞬、魔術が出て……。消えた。いや、『隠匿』された!?
彼女はニッコリと無邪気に笑って有馬に向け、言う。
「ふっふっふ……。多勢に無勢、イイ感じに弱ってから遊ばしてもらうわ。せいぜい苦しそうにいたぶられてネ♡」
その時。
『ドゴォッ!』
突如、有馬が殴られたかのように後ろに仰け反る。
「っぅはッ……ツァアアッ!」
すかさず地面に足をめり込ませて有馬は踏ん張る。
ほぼ同時に、解放されたというのにピクリとも動かない【怪人】にも、『見えざる攻撃』が及ぶ。
『ドガァアッ!』
「アグアア!」
地面から突き上げられた怪人は空を舞う、そのまま怪人は動き出し、四足獣のような着地。だが、その直後、まるでそこに待ち構えていた【何か】がいたかのように、見えざる攻撃が怪人を襲う。
『ドガガガッッッ!』
「ッ!」
怪人の鋭い感知にすら掛からない見えざる連打。そのまま怪人の装甲を破砕し鋼鉄の破片が辺りに飛散する。
一方、有馬は状況に慣れているのか、すぐさま鎖を周囲に展開するように振り回し始めた。
彼は真上方向に鎖を一本向け、プロペラのように円を描き壁をつくっている。それぞれ左右、背後、正面も同じように鎖を展開、すべて振り回された鎖によって『守られ』ている状態である。
「ネタは割れてんだよボケッ! 一体一体とっ捕まえて『祓って』やるよッ!」
だが、賀茂はせせら笑う。
「フフフ……。やっぱバカね、アタシの『冥道十二神』がそんなガキでも思いつく策で封じれるワケ、無いじゃない」
その瞬間。
『ドガァアッ!』
「ウェグッ!」
突然、有馬は何も無い前方からミゾオチに重い一撃を受け硬直。
案の定、彼の防壁は突破されていたのだ。
だが。
「バカはてめーだ……! 『カンマン・バザラダンカン』……! 」
『グワッ!』
その時、有馬の身体より魔力がほとばしり、呪文とともに魔術結合が彼の正面の空間を捕らえた。その結合は『見えない存在』をゆっくりと魔力で映し出しはじめた。
有馬は笑う。
「ダハハッ! やっぱり攻撃時に『魔力の発現』はするよなぁっ?
どんなに霊体を『情報化』しようとなぁ、一度出た痕跡を捕らえりゃ『魔術結合』は張れんだよボケッ!
何度も魔術知識の超天才と戦っておいて油断したてめーの負けだ、アホの瀬里美よォッ!」
言葉とともに、魔力によって『色付け』されたような存在を勢いよく鎖が叩きつける。
『ドガァアアアッ!』
魔力にかたどられた存在は鎖の直撃により後方へ吹っ飛んでいく。
その姿は、非常にあいまいであるが、或人が感性を研ぎ澄ませて感受するに、ゆったりとした布でできた、平安時代の貴族のような、そう、『狩衣を着た人間』の姿が魔力によって縁どられていたのだ。
それは六領域存在する魔術の属性、そのうちの『霊域』に属する魔術『霊魂操作術』であることが傍から見ている或人にも分かった。
――モノに霊魂を宿して生き物のように動かすことや、霊魂そのものを『式神』や『守護霊』などとして呼び出し使役する術……。
僕が護送されるときに見た『怨霊』のように、霊魂は強力な魔力を帯びて物理的な攻撃や精神的な攻撃を行うことや、魔術自体に付与されて|簡単な論理演算や判断を行うことがあると金剛さんから聞いていた。
先ほどの賀茂さんが操っていたのも『式神』……。霊魂の一種だという。
でも、今のはどうやら『完全に魔力でも追えない状態』と『魔力を放出する状態』を自在に切り替える霊魂……?
そんなものも存在するのか……。
或人は有馬が看破した術式の内容を推察し状況を理解し始める。
一方、有馬のもとではもう一撃、『見えない攻撃』が彼の方へ飛び込んできていた。
『ドガガッ!』
「ぐぉおあっ! ッバカがぁあっ! 『カンマン・バサラダンカン』ッ……!」
血を吐きながらも有馬は呪文を詠唱し『透明な霊』に『魔力で色付け』しては、鎖で殴打。
『色付け』された霊魂はなおも有馬に向かっていくが、ムチのようにしなって周囲を薙ぎはらう五つの鎖を前に距離を詰められずにいる。
有馬を襲うのはまだ色付けされていない霊魂たちによる渾身の一撃。
その一撃一撃は、怪人で見たように鋼鉄を叩き割る威力。
さすがの有馬の肉体も無数の痣と流血を負っている。
他方、先ほどの有馬の態度が逆鱗に触れた様子の『賀茂らしき女性』は額に血管を浮かべた怒りの表情で掌を有馬の方へ差し向けた。
「クソっ……! あたしのことを、なめやがって……! 死ねっ!」
見えざる敵との戦いを続ける有馬は彼女のもとから飛来する『魔術結合』を見逃さなかった。
「チッ! 防御しろっ!」
鎖が彼の号令よりも早く全身を覆うように巻き付こうと動く。
だが、五つの鎖は同時にピタリと動きを止める。
「!?ッ」
――まだおれを囲んでいる『式神』がッ……! 蹴散らす、時間、無し! 防御不可、死……!
『ドガァアアアアアアアアアアアアン!』
火柱が上がる。
閃光のような輝きは終末を示すような熱波と爆風を上げ、或人の体を揺るがすほどであった。
「あ、有馬さぁああん!!」
さすがの有馬もこれには重症、下手をすれば死は免れないと彼は察する。
或人の感知能力はその火柱の威力が今までの比ではないことを肌で感じさせたのだ。
だが、同時に彼にはなにか、確信めいたものがあった。
それは感知能力と同じ魔術師の感受的能力の一つ『予知能力』が引き起こす感覚。
これから起きる状況を予期した彼は、その予期に当惑していた。
――有馬さんが……。怪人に助けられる?
火柱は消え、焼け焦げた更地が広がる。
或人は自然と目がその更地の端、焦げた木々が倒れる場所に向かう。
そこには、ガスマスクをしたまま気絶した様子の有馬を抱える『怪人』の姿があった。




