間話 証言記録2
……………
「――だからな、こっちは被害者だぞ?
なんだってこんなド深夜に尋問されなきゃあならないんだ」
「いえね。被害にあわれた状況をこちらも知らなければ捜査が進まないものでしてねぇ」
「明日以降にしてくれ。こっちとしても忙しい身でね。予定は詰まっているんだ」
「ほう、ご職業はどのような?」
「フン、そうやってノせるのが仕事か? まったく、これだから日本の警察というのは誘導尋問が取りざたされるわけだな。職業病として染みついているのか?
それともこの部屋での会話はすべて巧妙に鳴子が仕込まれているのか?
全く、油断ならない会話というのは仕事だけで十分だ、辟易してるんだよこっちは……」
「マァマァ……。最低限度のことさえ聞ければすぐ終わりますよ。こっちとしても早く終わらせたいわけですから、協力し合えるはずですよ」
「ハッ! 気に入らんな。全く気に入らない。善良な、税金を支払って犯罪すら犯していない市民にたいして警官が『協力し合える』というのが本当に気に入らない。
なぜ人よりちょいと多く君たちの給与になる財源を支払ってやっている私がこんな拘束を受けなければならないのかということを言っているのに、お前はこともあろうに『こっちにも事情がある』と言いたげな口ぶりだ。なぜこちらがお前たちの事情を知らなければならない?
そちらの事情に合っていなければ私の事情にはお構いなしか?
全くもって度し難いね!
――さあ、もういいだろう。早く解放してくれ」
「……。すみませんね。私の認識がおごっていました。こちらが譲歩するような言い方は間違っておりました」
「ハッ! 見え透いた平謝りだな。ま、いいさ。とにかく早く解放してくれないか」
「ええ、もちろん。ただ、ここで証言をいただけないとなる私も、もう、何度か事情等を伺うために直接訪ねることが増えるかと思われます。その点はご了承ください」
「――お前、私を脅しているのか?」
「いえ、そんなことは全く」
「フン。やはり気に食わん。何もわかっていないでそう言うことを言われるのが一番腹立たしい」
「何か言ってもらわないと何もわからないもんですから」
「そういう態度だッ!
ふざけてるんじゃあないだろうな。そうでなかったとしたらとんでもない尋問だ。市民に向かって」
「いやぁ、自分も人当たりはそこまでよくない方と自覚はしているんですがねぇ。人相も愛想も悪くて申し訳ございません。ですがちょっとでもハナシ、聞ければと思ってのことなんですよ」
「はぁ……。上から話は通っていないのか……? 通っていないのなら今すぐ確認してこい」
「何のことでしょうかねぇ」
「チッ……。どこの場所にも、こういう……。融通が利かない!
全く……。何でもかんでもキチキチしていればいいモノではないというのが……」
「一応証言を聞く場なのでね、あんまり独り言はしない方がいいと思いますよ」
「……チッ……。とにかく状況証拠は明らかのはずだ。私の家に、不審者が侵入した。
不審者は襲ってきた。私は腕に傷。友人は足に傷。不審者は逃亡。ほら、みろ、私の腕の傷を。確かに深い傷ではないが、負傷者だ。血が止まったとはいえ、負傷した被害者の一般市民をこんな夜中に質問攻めして拘束するのは人権というものへの挑戦というべき所業ではないのかね?」
「ただの形式的な質問ですよ。医師の許可もありますし、法もあるわけで、それに妙な『しこり』を被害者であるアナタに残したくはないんですよ。捜査が停止する原因になるわけですから」
「ハッ、そうか。まぁいい、疑うのが仕事というやつなのだろう。これだから現場は……。いや、言う。いうよ。これ以上粘られる方が面倒だ。
私は篠田圭吾、友人は楠田清三。我々は家族ぐるみの仲だ。
いつものように酒を飲んで談笑しているところに突如窓を割って入ってきた不審者に襲われた。不審者の特徴はカーキ色のコートにフルフェイスヘルメット。妙な刃物を持っていた。
でかい声や音を出していたから近所も不審者の目撃やらはあるんじゃあないのか?
それで私の疑いは無くなると思うがね」
「ええ、ええ、もちろん。これだけでも調書は十分に書けますよ」
「全く……。私は帰るぞ」
「ああ、ちょいとお待ちをまだ」
「何をまた……」
『ガチャッ』
「松谷、もうやめろ、事情聴取は終わりだ。
――篠田さん、どうも失礼いたしました。すぐにお帰りいただけます。楠田さんもお待ちです」
「ああ、君の方から彼に言っておいてくれ。
――けが人を質問攻めにするのはただの拷問であり、マトモな証言など取れるはずないとな」
「はい、本当に申し訳ございませんでした。どうぞ、こちらへ……」
…………
「チッ……。証言が足りねぇじゃねえか、これじゃ何も分からん……。署長まで出張って、証言拒否する奴にあンな態度……。カネか……?」




