間話 冒頭歌
……………
こんな、夢を見た。
夏だ。
夏だってのに涼しくて、コメの収穫が心配されるような夏だった。
俺は妹と街の喫茶店で話していた。
妹はいつも俺が帰ってくると、家を離れて、その喫茶店に行こうとせがむ。
俺は喫茶なんてガラじゃなかったが、いつの間にかそこに、妹が居なくとも足を運ぶようになった。
店長の息子がたまにじゃれてくる、あの喫茶店に、俺は居る。
「……もう、死ぬよ」
隣に座っている妹が、そう言った。
俺はよく呑み込めないまま話した。
「死ぬって……? そりゃいけないよ」
「悲しい? 私が死んだら」
妹はこちらを見ずにそう言った。
俺は妹の方を向いているのに、あいつの顔は見えない。
「悲しいよ。だってお前、大切な家族だもの。妹だもの」
俺は今、十六の時の俺だ。妹は今、十三の時の妹だ。
「家族……それで、それだから。……死ぬよ」
妹の顔は見えない。ずっと話は呑み込めない。
「どうしたって死ぬんだい。そんなに悲しいのかい?」
「悲しい……悲しい? わからない。わからないよ。なにが悪いのか。でももう私、悪いから」
顔が見えなくても、俺には頬に涙がつたっているのがわかった。雲中模索してようやっとそれがわかった。
妹の顔は闇の布が掛ったみたいに暗がりの中にある。
この喫茶店は今、すごく暗い。
「君がわからないんじゃ。俺だってわからないよ」
そう俺が言ったとき。妹の顔は何故か一瞬はっきり見えて。
ああ、その顔。
その顔はあの時に見た。
あの時、君が死ぬときに見た。驚いたように見つめて、悲し気な。俺に失望した顔。
俺を呪う、その顔――




