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【黄金の教示】たち

     ……………


 2022年2月2日21:12(イスラエル時間 JST+6)

 エルサレム神殿跡地下、閉ざされた会議室にて。


 部屋の水晶で作られた壁が突如として光を灯す床の照明に照らされる。

 深淵の闇に包まれていた部屋は明かりに照らされ、円卓を中央に置く円形の会議室には10人の幻影が出現する。円卓の座席に座る人影の多くは訝しげな表情である一人、『勝利ネツァク』と銘打たれたネームプレートを示す座席へ視線を注いでいた。


 円卓には11の座席が存在している。すべての座席にネームプレートとして非常に古めかしい装飾が施された金細工の板が付いており、12時の方角から時計回りにそれぞれ

 『王冠ケテル

 『智慧コクマー

 『秘匿されし知識(ダ・アト)

 『理解ビナー

 『慈悲ケセド

 『峻厳ゲヴラー

 『ティファレト

 『勝利ネツァク

 『栄光ホド

 『基礎イェソド

 『王国マルクト』と古代ヘブライ文字の銘が打たれている。


 中でも奇妙な座席は二つ。


 一つは末席『王国マルクト』の座席。

 そこには椅子の代わりに水晶の柱が置かれており、その中に20代と思しき女性が古めかしく簡素な衣服をまとった状態で眠りについている。

 もう一つは席次無し『秘匿されし知識(ダ・アト)』の席にて椅子に座る漆黒の人影。

 顔も瞳も姿形も不明な存在として、そこに誰かがいることだけが分かる『ヴィジョン』がそこに映っている。


 奇妙な男女が円卓を囲み、『勝利ネツァク』に座る男性に睨みを利かせつつ沈黙が続く中、主席『王冠ケテル』に座っていた紳士が立ち上がり、全員の視線を自らへと移させた。


 彼は『王冠ケテルのヨトゥム』、『黄金の教示』主席にして長。

 白髪交じりのオールバックに片眼鏡モノクル、よく手入れされた口髭顎髭と純白のアスコット・タイにダブルの黒スーツ、相当な老齢に思われるその皺の刻まれた顔に対して身体は腰も曲がらずダブルスーツが似合う恵まれた体格と筋肉を有する男。


 彼が口を開き重厚な声を響かせる。


「『黄金の教示』緊急会議をここに開始する。

 司会は例によって私が担うが、議題については招集者から提示していただく。今回は『勝利ネツァクのカリオストロ』」


 彼のその言葉に反応して、今まで熱視線を集めていた男。孔雀扇で口元を隠しながら第七席『勝利ネツァク』に座る白スーツの『カリオストロ』が立ち上がる。


 扇を畳み、よく手入れされた細い口髭と顎髭が印象的な西欧フランク的顔立ちの男は、微笑しながら悠々と語る。


「はい、早速議題を申し上げましょう……。

 皆さまご存じ、本日の『特異指定存在級魔力共鳴騒ぎ』は我々『黄金の教示』三名と協力団体十余名による大連合作戦を緊急で打ち出したものの、惜しくも失敗に終わりました。

 その原因となった青年、『鳥羽或人』のことについて、わたくしはある重大な事実を掴んだのです……。

――偉大なる『至高の三無』に関わる事実を」


「「何っ!?」」


 王冠のヨトゥム、基礎のカイが同時に驚愕する。

 そしてヨトゥムは抑えるような声色で睨むような視線をカリオストロに向けながら言う。


「何を言うかと思えば……。カリオストロよ、『至高の三無』の聖名を口にするということはその事実とやらが命を担保としてなお確信できるということなのだろうな……!」


 基礎のカイも同調する。


「然り……。貴様は飽くまでも新参。

 此度の緊急作戦立案によって司令官の職を一時的に得たと言って無礼が許されるようになったわけでは無いぞ……!」


 他の面々の一部も口には出さずとも威圧的な雰囲気をカリオストロに向けていた、だが当の本人はほくそ笑むような微笑みを絶やさずに飄々と語りを続ける。


「当然!

 事実関係の確認等々は既に完了しております。先ずはこの度の事件における原因『鳥羽或人』の発した魔術の強度観測結果をご覧ください」


 部屋の中央、天井が開き大きな水晶玉がふわりと浮遊してせり下がってくる、そのまま水晶は円卓の中心に鎮座し波動曲線やグラフ、数値を示す。


 【実際観測魔術強度:100Mt(TNT換算メガトン) 推定放出魔力量:6.3GM(ギガ・マギア) 推定潜在量:5.9742YM(ヨタ・マギア)


 全員にどよめきが走る。基礎のカイがカリオストロに訊く。


「確かなのか……!? あの青年が、推定とは言えこの潜在魔力量を!? 実際観測値も、潜在量も人間が扱うのとはケタが違う!

 ――ヨタはギガの10の何乗倍だったか……」


「ギガは10の9乗、ヨタは10の24乗なので10の15乗倍ですかね。

 術者の魔力効率を考えない単純計算でも総強度は約6Pt(ペタトン)、電力量にして約160京kWh(キロワット時)……。世俗世界の一年間総電力消費量27.2兆kWhの十万倍以上です。

――さぁ、この神にも匹敵する莫大な潜在魔力量。これは『至高の三無』出現の先触れたる『鍵』と見ていいでしょう!

 実際、【大いなる神々ら】の干渉があったわけですからね。

 これが、第一の証拠です」


 王冠のヨトゥムは冷静さを取り戻しカリオストロに伺う。


「魔力量云々は確かに『南極卿』や『外神』関連事件であることは疑いようもない……。

 だが『鍵』であるかは確証と言うにはまだ足りん。第二の証拠にはそれを頷かせるものがあるというのだな?」


「もちろん。その確証とはそちらの『慈悲ケセドのゲドゥラー師』による予言です」


「……!? ゲドゥラー師。本当か?」


 ヨトゥムは第四席に坐す、ぼろ布を纏った老人にそのように問う。


 その老人は椅子に胡坐をかくように座っている身長150センチ程度と思しき男で、髑髏に皮が付いただけの肉のほとんど削がれたような姿をしていた。

 身体と顔に刻まれるミイラのように乾燥した無数の皺をよく見ても完全に静止し死んでいるようにも思える。


 だが彼は、突然瞳をぎょろりと見開き、皺が重々しく動く。

 そして擦れかけた声で答える。


「如何にも……。先刻、『鳥羽或人』の共鳴時に【天啓】が降りた……。

 内容は『至高の三無の聖名において、外なる宇宙への【鍵】がこの瞬間に現れた。

 ――その名は鳥羽或人。

 日本国の北海道に現れた【鍵】を速やかに回収せよ。さすれば宇宙の智慧は我々に注ぐ』

 とのことだ」


 その天啓の内容を聞きとどけたヨトゥムは片眉を吊り上げいぶかしむような表情を見せながら語る。


「フム……。つかぬことを訊くが、その言語は?」


「――ラテン語だ」


 一同にどよめきが走る。ヨトゥムはそれを制止するようにゲドゥラーへの質問を語る。


「今まで、天啓に利用される言語は多岐にわたったが……。

 最も多いのがルイェ語――この天啓は意味の判別が不可能な部分が多い。

 次いで多いのが中世ドイツ語……。

 そしてラテン語は今まで例のない言語。

 我々の宿敵である魔界……。【南極卿】が操る言語に近しいものだ……」


 カリオストロは扇で口元を隠しながらもすかさず反論を述べる。


「それが偉大なる【至高の三無】と世界最高峰の予知能力者・ゲドゥラー師を疑う免罪符となると?」


 基礎のカイは怒りを露わにして机を拳で叩く。


「ヨトゥム氏が【至高の三無】を疑うはずがなかろう!

 疑うべきは貴様の奸計だ、カリオストロ……!

 突如現れた貴様による連続的な功績、外交的成功や外部団体との協約締結の裏には黒い噂もある。

 そうやっていつまでもかわせると思うなよ……!」


 カリオストロは鼻で笑いながら語る。


ワタクシの事が疑わしいということは私を推薦した議会、そして現在『天啓』を語られたゲドゥラー師も併せて疑うということになりますな」


「貴様、それは最初に――」


 ヨトゥムは怒り心頭といったカイに対して諫めるように手を差し向ける。


「カイ、もうよい。――確かにカリオストロには黒い噂もあるがあくまで噂。それを表立って指摘するには確証が必要……。奴が提示したようにな。

 そしてカリオストロよ。この緊急招集にて『鳥羽或人』が【鍵】であることを確認したことで何を目論んでいるのか……。目的を教えてもらおうか」


 待っていましたとばかりにカリオストロは扇を振り、仰々しく語る。


「目的はただ一つ。

 【至高の三無】の名の下に【鍵】を追跡する我ら黄金の教示を含む『隠者の薔薇大連合』共同作戦の立案……!」


 ヨトゥムは確認するように訊く。


「それは、我々が現在予定している『全面戦争』と並行する想定をしての発言だろうな?」


「ええ。ですので『戦争』の主導をされる軍務総監・基礎のカイ氏と作戦統合指揮官である王冠のヨトゥム氏、副官である智慧のヨセフ氏、情報部総監・理解のヴィクトリア氏は飽くまで諮問者(オブザーバー)として参加していただきます。

 本作戦実行に関わる当組織の主要機関及び人員は、美のミハイル氏率いる諜報部【カニス】、慈悲のゲドゥラー師率いる【神秘局】、栄光のジュン氏、そして私の【私兵団アヴァンチュリエ】。

 作戦責任者はゲドゥラー師、作戦参謀は僭越せんえつながらこの私が担当いたします。

 作戦名は【|鍵の簒奪者《le usurpateur de clés》】と言ったところですかな」


 ヨトゥムはカリオストロの狙いを見定め、しかし否定せずに頷く。


「議会と……。元老院の承認が必要だ」


「議会の承認は先ほど取りつけました。元老院については……。秘匿されし知識(ダ・アト)の御方に訊きましょうか」


 全員の視線は『秘匿されし知識(ダ・アト)』の座席に座る真っ黒な影へと注がれる。その存在は機械音声で語り始める。


『元老院への作戦認可要求は1時間前、ゲドゥラー師の記名ある概要書類が提出され、緊急招集と共に先程承認された。

 本来であれば黄金の教示による会議とヨトゥム氏を介するこの手続きは【至高の三無】による天啓という特例事項によってゲドゥラー師の裁量で一部手続き順序を変更された。以上だ』


 ヨトゥムはそう語る影を少々睨みつけながら思考を逡巡させていたが、すぐに目を離し、会議を総括する。


「了解した。では、私としてはこの作戦を承認する。他に賛同する者は拍手を」


 全員が一瞬当惑するも、ゆっくりと拍手が鳴っていく。

 その中でカリオストロは一人、ほくそ笑んでヨトゥムを見ていた。

 王冠のヨトゥムは険しい表情でそのカリオストロを睨み続けながら、苦々しく語る。


「では、本作戦を『黄金の教示』としても承認する。会議は以上だ」


 その言葉と共に、水晶内に眠る末席【王国マルクトたるCRC】を除いた【黄金の教示】全員の姿がフツと消失し、円卓を灯していた床の光も消え去る。

 会議室は再び、深淵の闇によって覆い隠されるのだった

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