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日本国魔界府府庁秘匿部秘匿室秘匿一課  作者: 臆病虚弱
序章 死を継ぐ者 Inherit The Wind of Death
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王たちは歓待して

     ……………


 突然の爆発に為す術なく、森と有馬は吹き飛ぶ。

 光球は爆発後も増殖し、封印されたミハイルの周囲と有馬、森を爆破。情け容赦のない破壊が続いた。


『ズガガガガガァアアアアン!』


 鎖によって巻き取られていた或人はその衝撃に振り落とされ、再び上空から自由落下を始める。


「うわっ、えっ、嘘!? うわぁああああああ!」


 離れてゆく上空の景色、いつの間にか護送車も見えないその場所では、ミハイルが輝きを取り戻して天空を太陽の如く照らし、態勢を立て直そうと煙を吹きながらも姿勢を制御している森と有馬をさらなる爆発で包み込んだ。


『ズガァアアン!』


 そして、爆発の閃光は或人の視界より消える。彼は雲の中へと陥ったのだ。

 雨風烈しい雲海の中は、しかし別の戦いが繰り広げられていた。


『ガシィッ!』


 或人は突如として右足首を掴まれる。彼はすぐに首をもたげてその掴みあげてきた人物を見遣る。


 そこにいたのは黄金色と黒鋼色に輝く精巧な紋章を刻まれた甲冑を身に着け、腰に広刃刀(カッツバルゲル)を差し、長大な斧槍(ヘルムバルテ)を片手に持ち円套マントを翻す『黒騎士』。

 その騎士は甲冑の黒兜の中から想像通りの低い声が響いて来る。


「これは僥倖。

 敵を足止めするだけの役かと思えば、『鍵』自らこちらに来るとは。

 ――このように不躾ブシツケな格好で挨拶することになってすまないな。吾輩は『隠者の薔薇・黄金の教示』が第九席『基礎イェソドのカイ』。以後お見知りおきを」


 或人の脚を掴みながらうやうやしくもう片腕を添えながら頭を下げて几帳面にお辞儀するカイであったが、或人はその背後に賀茂が操る式神『仁王』の姿が迫ってきていることを認識していた。

 その仁王は身体に幾つかの深い傷を受けていながらも、鋭い槍を振り上げ、全力を以て騎士に振り下ろす。


『ヒュワッ!』


 瞬間、黒騎士は二メートル近い長さを誇る『斧槍ヘルムバルテ』を素早く振り、手首の絶妙なコントロールによって真後ろにいた仁王を袈裟斬りに断つ。

 仁王は音もなく姿を霧散させ消失。

 違法魔術師の傭兵たちを軽く押しのけあしらっていた仁王は傷を受けていたとはいえ、いともたやすく倒されてしまった。


 直後、騎士は周囲を見回して言う。


()()()()()()()……。吾輩(術者)を叩こうにも勝ち目がないことは分かっているだろうに……。――だが、そこにこそ戦の誉があるものよ」


 そう語る騎士の身体に強力なエネルギー、魔力が迸るのを或人は感じ取る。その魔力は騎士自身のものだけでなく、武器防具、装飾類がそれぞれに禍々しい力や温かな雰囲気を帯びていた。


 或人は、その感性が研ぎ澄まされていることによってか、ここに迫りくる課長や賀茂の位置を感じ取り、そちらに目を向ける。


 遥か先より、切り傷を身体に受けた課長とやや軽傷な賀茂が飛んで来る。

 金剛杵を持つもう片方の仁王も共に飛んできているのが見て取れたが、或人にはその更に背後、いや、それだけではない。或人を取り囲むように、その()()()()()()()は浮遊していた。

 或人は思わず、その()()()姿()に声を漏らす。


「なっ……!?」


 それは四つの翼、四つの顔を持ち、その全てが無数の瞳によって構成されていた。人知を超えた姿を持ち光を放つ存在。

 純白の翼は飛ぶために羽ばたくことはなく、ただ光りを発する身体を守るように動かされ、無数の瞳は全てのものを見定めるかのように絶え間なく動いていた。

 名状しがたい恐怖を覚えさせるその姿は雲間より合計8体現れる。その何体かは獣に引き裂かれたような痛々しい傷を受けたり、多くの火傷を負っている。


 課長と賀茂はそれらの出現に気負うことなく、一心にカイへと向かって行く。


 先鋒として真っ先に飛び込むのは課長。

 カイは兜の内部から笑い声を響かせる。


「課長自らが一番槍とは! やはり『南極卿』の子飼いは良い! 良い騎士道精神だッ!!」


 課長はカイへ魔力を充填した両腕を振る。

 或人はその攻撃を間近で見た事により、課長の両腕が一瞬、鋭く硬質な白い爪を現したような残像を帯びるということを知った。


『ガキィイイイイン!』


「効かぬわっ!」


 巨大な斧槍の刃で斬撃を受け止めるカイは、そう口走りながら或人を持つ左手を離す。

 或人は思わず声を漏らした。


「えあっ――」


『ザバッ!』


 その瞬間、カイの左腕は目にも留まらぬ速度で腰に差した両刃刀カッツバルゲルの白刃を走らせる。課長はその一瞬で魔力を込めた腕で防御を図るが黒革のコートに包まれるその腕は切り傷を鮮血を示した。


「次ッ!」


『ドガァアアアアッ!』


 課長を足蹴にして後方へ飛ばすと、カイは落ちかけた或人を軽々掴みあげる。

 手玉のように扱われながらも或人は次に来る仁王の姿を見てやや焦る。


――マズい、あの仁王は確か電撃を……! 僕が邪魔になる!


 だが、黒騎士はそのことを察してか、再び或人を手放す。今度は上方に勢いをつけて投げ上げた。

 或人の視界は雲海のみをぐるぐると映し、何が起きたか全くわからなかった。彼はその浮遊感と困惑すべき状況にたまらず声を上げる。


「う、うぁああああ!」


 カイは投げ上げた或人にいちべつもくれず賀茂に向けて構えをとって語る。


公平フェアではないからな。彼には悪いが……。全力で来い!」


 賀茂はそれを見て、即座に呪文を用意する。同時に仁王が魔力を手に持つ金剛杵に籠め、雷を放つ。


『ズドガァアアアン!』


 黒鋼の甲冑に真っ直ぐと向かう雷撃。煙を吹きながらカイは声を響かせる。その声質はどこかノイズが走ったようである。


「強度はやや弱いな……。ククク。その速度では向かってくるのにまだ時間がかかるなァ?」


 そう語ったカイは右手に持つ斧槍を勢いよく投げ飛ばす。


『ギュルルルルルルルル! ザバァアッ!』


 仁王はその高速回転する斧槍に為す術なく胴体を二分され消失。斧槍は勢いを失うことなく賀茂を狙うかのように飛び込んでくる。


「北斗、南斗、朱雀の尾羽、ドーマンセーマン」


『ガキィイイイン!』


 賀茂の呪文に呼応し、右手にあった五芒星の印が描かれた霊符が炎の剣となる。その剣を振り下ろし、賀茂は飛来した斧槍を何とか打ち払う。斧槍は雲海へと落ち去った。

 だが、一難去った賀茂にはさらなる困難が待ち構える。


「!?」


 両刃刀を抜いた黒騎士はその隙に一気に距離を詰め賀茂を切り上げる。


『ガキィイイイイン! ギリッギリッ……!』


 双方の刃は鍔迫り合いの形となり、黒騎士が押していく。


「魔力潜在量は悪くないが……。出力に難があるなァ? 怖気づいたか?」


 せせら笑うようなその声に賀茂は黒騎士を押しのけようと力を加える。


『ヒュッ!』


 賀茂の顔にマントがかぶさる。そのまま彼女は勢いそのまま前に倒れ込む。

 黒騎士が鍔迫り合いを止め、後ろに回ったのだ。一瞬のうちに彼女の背中を切り下ろす。


『ザバァアアッ!』


「あああっ!」


「他愛もない」


 その頃、遥か上空から落下を続ける或人は、やや離れた位置で切り捨てられた賀茂のもとへ、課長が飛んできているのを見る。

 賀茂もそれに応じてかすぐに空中で態勢を回復させ共に基礎のカイへと炎の剣を向ける。


 だが、遠くからそれを見る或人には二人の攻撃は相手に予期されていることが理解できた。

 なぜならば周囲を取り囲む『八体の羽が生えたバケモノ』達が一斉にすべての瞳を二人の位置へ向け、動きを同期し始めたのだ。


 基礎のカイは剣を鞘に納め、その右手に、落下した斧槍を『呼び戻した』。ひとりでに斧槍は飛来し、彼の甲冑に覆われる手の中に納められたのだ。

 そのまま彼はマントを翻し、両腕を広げて足下から迫る賀茂と課長を見下ろして語る。


「終わりにしようか。

 ――煙は部屋を満たした《die Wolke erfüllte den inneren Vorhof.》」


 彼の呪文詠唱の直後、言葉の紐が掌より現れ、それは炎の刃として回転しながら賀茂たちへ飛んで行く。

 だが、それは同時に、8体の翼あるバケモノたちからも発された。


「吾輩と智天使ケルビムたちより発される9発もの【回転する炎の剣】! この必殺呪法にて倒れるがいい!!」


 賀茂と課長は迫りくる炎の刃たちに自らの炎の剣や斬撃を向けて対抗する。


『ギャリリリリリリリリリリリリリィィイッ!! ザバババッ!』


「ウッぐぁアアアアアア!」


 9つの炎の刃が回転と共に彼女らを襲う。少しの間しのぎを削って守っていた二人も数秒の後には押し負け、炎に包まれながら斬撃をその身に受けて墜落していく。


 或人は自分よりもずっと勢いよく墜落する二人の姿を見ながら、落下する自分を回収しようと向かってくる黒騎士の姿に絶望を覚える。


 しかし、同時に彼の脳裏には奇妙な感覚がこびりついていた。

 どこか遠くより、非常に強い力、それも自分が今まで感じた事のない存在が二つ、高速で迫ってきている様な。


 そしてその感覚は自分のはるか頭上で一時止まり、確信と共にこちらに迫る。

 

 その時、基礎のカイが或人の更に上空へ兜を向け、何かを察して叫ぶ。


「ミハイル!?」


 言葉の直後、或人の真上、雲海内部へ一つの影が落ちてくる。

 それは『気絶した美のミハイル』の身体であった。


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