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婚約者が平民の女に熱を上げて関係を白紙にしてきたので正当な報酬を要求してみたら呆気なく散る愛のなにがしかは容易く壊れると愛してくれる人に手を差し出されて涙をこぼす

作者: リーシャ

婚約者というものはバカなのではないかと、疑惑が確定になった。


叫ばなかったことを褒められたい。


「はあ?あなた、何言ってるの?」


子爵令嬢であるリュミナは、婚約者である騎士爵の嫡男、エンリックの言葉に思わず素っ頓狂な声を上げた。


豪華な応接室には、二人の他にリュミナの母とエンリックの母が同席している。


婚約破棄という穏やかではない話にも関わらず、エンリックの表情はどこか浮ついている。


こいつ。


「だから、リュミナとの婚約を破棄したいんだ。他に好きな女性ができた」


信じられない言葉に、リュミナは目の前の男をまじまじと見つめた。整った顔立ちは相変わらずだが、その奥にあるはずの誠実さはどこにも見当たらない。


ああ、こいつ、本当に馬鹿なんだな。


って。


前世の記憶があるリュミナにとって、エンリックの言動は漫画みたいに滑稽だった。


(昔は、ごく普通の会社員。まさかこんな魔法のある世界に転生して、おまけに婚約破棄されるなんて、ドラマみたい。しかも理由が浮気って……ベタすぎる。婚約しているこいつはバカ)


リュミナの母が悲鳴のような声を上げる隣で、エンリックの母はどこか申し訳なさそうに目を伏せている。


「その、お相手というのは?」


リュミナが冷静に問いかけると、エンリックは得意げに胸を張った。


剣を突き刺したのなら、綺麗に入りそう。


「平民の娘だ。だが、リュミナ、彼女は君とは違う魅力を持っているんだ!」


いや、こいつに好かれたいわけじゃない。


(はいはい、きたきた。テンプレ台詞。平民の娘にうつつを抜かす貴族の息子ね。しかもそれを婚約者に堂々と言うなんて、頭の中身は空っぽなの?)


リュミナは心の中で盛大にため息をついた。


怒りよりも呆れが勝る。


経験から言って、こういう男はろくなことをしない。


その浮気相手もまた、浅はかな女に違いない。


「そう。わかりました。婚約破棄、承知いたします」


リュミナのあっさりとした返事に、エンリックは拍子抜けしたような顔をした。


なんだ、その顔は。


まさか、こんなに簡単に受け入れられるとは思っていなかったのだろう。


縋りつかれるとでも?


「しかし、わたしにも条件がございます」


リュミナはにっこりと微笑んだ。


その笑顔は、同席している母親たちにはどこか恐ろしく見えた。


「この婚約破棄の理由、そしてエンリック様が平民の女性に心を奪われたという事実。これを公に発表していただきたいのです。もちろん、その女性のお名前と、二人がどのような関係であるのかも詳細に」


エンリックは顔色を変えた。


「そ、それは……」


「当然ですよね?わたしは子爵家の令嬢。一方的に婚約を破棄されたとなれば、世間体というものがございます。きちんとした理由を皆様に知っていただく必要があります。私の名誉を守るために」


リュミナの言葉は淀みなく、有無を言わせぬ迫力があった。


エンリックは完全にリュミナのペースに飲まれている。


「それに、わたしは婚約期間中、エンリック様のために様々な準備をしてまいりました。その損害賠償も請求させていただきます。無駄な時間を過ごさせてもらった分を」


リュミナはさらに畳み掛けた。


エンリックは青ざめ、母親に助けを求めるように視線を送ったが、母親は困ったように目を逸らす。


こうして、リュミナはエンリックの浮気と、その相手である平民の娘の存在を大々的に公表することに成功した。


はは、と笑う。


SNSのないこの世界でも、噂が広まるのはあっという間。


特に、格式高い子爵令嬢を捨てて平民の娘を選んだというエンリックの愚行は、人々の格好のゴシップの的となった。


「バカな男」


エンリックと浮気相手の娘は、世間の厳しい目に晒され、どこへ行っても白い目で見られるようになったのだ。


まさに、ざまぁみろ状態。


特に、貴族社会での信用を失ったエンリック。


「お願いします!お願いします!」


「帰りな。お前がいると同類と思われるだろ」


まともな職に就くことも難しくなり、自業自得とはいえ、惨めな生活を送ることになる。


「ふふ。楽しみねぇ」


浮気相手の娘。


後ろ盾のない平民だったため、世間の風当たりは一層厳しい。


「エンリック」


「話しかけないでくれ。疲れてるんだ」


「そ、そんなっ」


一方、リュミナは婚約破棄という不幸に見舞われたものの。


その毅然とした態度と、元婚約者の愚かさが広く知れ渡ったことで、むしろ同情と好意を集めることになった。


「リュミナ様、うちにいらして?」


「ありがとうございます」


そんな中、リュミナは社交界で、とびきり魅力的な男性と出会う。


「チオシ様!いかがなされました?」


「お慰めしたく」


「ふふ。ありがたいことです」


その男性は、リュミナの元婚約者であるエンリックよりもさらに格式の高い、侯爵家の次男、チオシ。


「あのような、なにもない女に狂わされるとは。情けない」


チオシは、リュミナの聡明さと、困難に立ち向かう強さに惹かれた。


「リュミナ嬢の方が絶対に賢いのに」


「お上手ですこと」


彼は、エンリックの愚行を心底から軽蔑しており、リュミナに心からの同情と敬意を抱いていたのだ。


「リュミナ嬢、あなたのような美しい魂を持つ女性が、あのような男に弄ばれたなど、信じられません。あなたはすごい人だ。もしよろしければ、私と人生を共にしませんか?」


チオシの優しくも熱い眼差しに、リュミナの心は不覚にも惹かれてく。


彼の知性とユーモア、そして何よりもリュミナを大切に想う気持ちが、彼女の過去の傷を癒していく。


「公式にどうか」


「チオシ様……は、はい」


二人はデートを重ねるうちに、互いの存在がかけがえのないものとなる。


「リュミナ様のためにお抱えの香水を作る錬金術師に、作らせました」


チオシは、リュミナの過去を気にすることなく、彼女のありのままを受け入れ、深い愛情を注ぐ。


「いい香りですね。好きな香りです」


そしてある夜、チオシはリュミナにプロポーズした。


「リュミナ嬢、どうか私と夫婦になってください。あなたを生涯、大切にすると誓います。絶対に」


リュミナの目には、喜びと感動の涙が溢れる。


(エンリックはバカだったけど将来を考えていた。けど、裏切った)


過去の苦い経験があったからこそ、今の幸せがより一層輝いて感じられた。


「喜んで」


リュミナはチオシの差し出した手に、そっと自分の手を重ねた。


「必ず幸せにしますから」


遠い空の下では、未だに世間の非難に晒されながら、惨めな生活を送るエンリックと、後悔の日々を送る浮気相手の姿が。


「エンリック、エンリックったら!」


「うるさいぞ!」


「私も辛いのに」


「お前のせいだろ!」


「責任転嫁しないでよ!」


「責任転嫁って言葉知ってたんだな?」


「なっ、ひどい!出ていく!」


「勝手にしろ!」


リュミナは、彼らのことを思い出すことすらなかったけれど。

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