ルート邑28
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ランプの光のゆらぎが兵士たちの鎧に淡く屈折し、静謐の幕が再び降りる。
トニーは片手を軽く上げ、踵を返す。
革靴が石床に打つ乾いた音は徐々に遠ざかり、そのたびに埃が舞い、煤の甘い苦味が鼻腔を満たした。
鎖がわずかに揺れる金属音と、焚き木の弾ける音だけが残響し、暗がりの奥で子守唄のように反復する。
「じゃあ、頼んだぞ」
最後の一声が闇を縫い、冷えて眠る少年の閉ざされた瞼をわずかに震わせた。
彼の細い胸が微かに上下し、首輪の鎖が静かにきしむ。
遠い地上からは、いつ果てるとも知れない風のうなりが伝わり、兵士らの重い空気がさらに冷たく締めつける。
指揮官は拳を固め、兵士たちは再び槍を構え直した。
槍の先端で光る赤色の光は粘るように揺らぎながら、これから始まるであろう過酷な夜を、赤黒い予兆として映し出していた。
焦げた金属と乾ききった血の鉄臭さが混じり合う宵闇の戦場で、男は呼気すら震わせるほどの大声を張り上げ、散在する部下たちに号令を叩き込んだ。
砕けた瓦礫が靴底で軋む乾いた音が、彼の言葉に不気味な拍子を添える。
「——というわけで、私らが到着した。もう心配はいらん。肩の力を抜き、背中を預けろ。負傷者は後列の救護班へ向かえ。今だけは休息を取って構わない。さぁ、今は休みたまえ‼️」
砕けた声が夜気に吸われた瞬間、緊張に突っ張っていた兵たちの膝が一斉に折れ、砂混じりの地面へ雪崩のように倒れ込む。
鎧と武具がぶつかり合う鈍い金属音と、安堵の吐息が交差し、土埃がふっと舞い上がった。
闘気の抜けた彼らの頬には泥と血が乾いた斑点を描き、微かに震える指先が戦闘の余熱を物語る。
勇敢に戦い、疲弊し切っているであろう男もまた、身体の芯から燃え尽きたような虚脱感に膝を折ろうとした。
——その瞬間、荒々しい掌が男の前腕を鷲掴みにした。
筋張った指が骨ごと圧迫する感覚が走り、疲労で霞んだ視界が一瞬で焦点を取り戻す。
「っと。お前はまだ終わってないぞ? これからが本題だ」
掴まれた男は、喉の奥で乾いた笑いを噛み殺しながら顔をしかめた。
頬を伝う汗が硝煙の粒子を含んでざらつき、瞳の奥で赤い焔のような疲労が揺れる。
「なんだよ……見りゃ分かるだろう。俺だってくたくたなんだ」
しかし掴む手は緩まない。
戦靴が砂利を踏み締める硬質な音が、二人の間に執拗な静寂を刻む。
「そんなことはどうでもいい」
「そ、そんなことってなぁ⁉︎」
「そんなことより——こいつをどうするか…だ」
男の視線が指し示す先では、影のように横たわった少年はまるで存在が消え掛かっているかのように輪郭だけを晒している。
焦土の熱気と夜風の冷気が交互に擦れ合い、暗闇はなお深く、決断の刃先のように鋭い緊張が二人を切り裂いていた。
— μετά—
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