ルート邑27
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トニーは濃紺の外套の裾を払いながら前へ進み出た。
ゆったりと数歩を刻み、磔け台車に架けられた少年に視線を向けた。
「先ほどこの男が示したように、一見ただの少年に見える……しかしこいつは並外れて危険だ。しかも、どんな死の契機を与えても蘇る——不死身だとわかっている。この鎖を解き、野に放ったとしたら……どうなると思う?」
男が部下へ口を開きかけたその刹那、トニーは掌を軽く掲げ、語気をそのまま奪った。
油芯の火花がパチリと跳ね、石床に白熱の点を描いて消える。
「お前たち精鋭が束になっても敵わなかった。もしこいつが感情のまま突き進めば、この先に待つのはなんだと思う。それはこの先の村々を蹂躙し、死体の山を築きながらやがて首都センフィールドに到達する。
そこには、お前たちの故郷や家族、兄弟、妻、まだ幼い子供たちが暮らしている。多くの国民が標的になるのだ」
どこかで誰かが息をのむ音がした。
緊張に乾き切った喉が、ごくりと上下するくぐもった音が列のあちこちから重なり合う。
松明の炎が甲冑に反射し、揺らめく金色が兵士たちの瞳の荒い震えを浮き彫りにした。
トニーはゆっくりと呼吸を整え、再び重い言葉を下ろす。
「体を吹き飛ばしても、核を潰しても死なないことがわかった——その事実を踏まえたうえで、野放しにしておくよりも自分と部下の命と、この先に待ち受ける、最悪の事態とすべての国民を天秤にかけ、立ち向かうことを決断したこと。また、兵士であることの自覚を持ち、その強さを信じ、危険を顧みず、逃げることもせず兵士であり続けたこの男は称賛に値すると私は思うのだが…。諸君はどうだね?」
兵士たちは一瞬、互いの顔を見合わせ——やがて誰からともなく背筋を伸ばす。
鎧金具が擦れる硬質な音が静寂を切り裂き、次の瞬間、敬礼の乾いた衝撃音が一斉に鳴り響いた。
彼らの視線は透明な刃となって男へ注がれ、暗い灯火の中で新たな忠誠の光を宿した。
男は微かに肩を上下させ、胸の奥の熱をやり過ごすように息を吐いた。
ランプの炎が額の汗を淡く照らし、褐色の髪がわずかに揺れる。
「トニー……お前……?」
トニーは遠慮のない笑みを浮かべ、指で襟元の塵を払った。
「何のことだかわからんが、アイオーンのランチとディナー、きっちり二食分頼んでだからな!」
「おい! なんで二つも——」
トニーは肩越しに振り返り、わざと大げさに肩を竦めた。
「お前の立場と威厳、部下たちの忠誠心——全部まとめて救ってやったんだ。これでもまだ釣りが来るだろうさ。違うか?」
男は言葉を探したが、乾いた喉からは何もこぼれなかった。
— μετά—
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