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ルート邑26

なろう作品らしい表現でふわっと投稿するなろう特有の少年の一人称視点的作品が見たい人はこちらもどうぞ。

     → 恢攘のフォクシィ https://ncode.syosetu.com/n3085kf/

*現在投稿休止中

「——これは、子供……か」


 トニーは朗々と響く声を押し殺し、磔け台車に架けられた少年の顔へと視線を上げた。

 薄紫の神秘的な光を放つランプが揺れ、蝋の甘い匂いと錆びた鉄の臭気が重なり合って鼻腔を刺す。

 少年の睫毛は濡れ、細い首に噛み込む黒鉄の隷属首輪が汗に光り、鎖のこすれる高い響きが微かに伝わってくる。


「そうだ。こいつがどこからともなく急に現れて、俺の部隊を蹂躙したんだ」


 男はわずかに首を振り、塩辛い血の味を帯びた唾を嚥込んだ。

 背後で鳴る兵士たちの鎧金具が、怒りと緊張を映すように不規則に鳴る。


「そうか……よく無事だったな」


 トニーは言葉を選ぶように呟く。

 かすれた声の余韻が、空間をゆっくりと震わせた。


 男はじっと相手の顔色を探り、呼気の揺らぎさえ読み取ろうとする。

 だがトニーの眼差しには驚きも嘲りも浮かばない。

 その沈着さに、男は何か疑惑の目を向けた。


「おいおい。お前、驚かないのか? 俺はてっきり“ガキ相手にやられるとは落ちたもんだな”とでも言われると思ってたが」

「私のことをなんだと思ってる? 同期の仲だぞ」

「同期…ね」


 男は唇を歪め、灯火に映る影を踏みつけるように言い放つ。


「突発的な命令を押しつけ、多くの部下を犠牲にした張本人を仲間とは…少なくとも俺は呼べないな」


 トニーの眉間が僅かに寄る。


「おいおい、そんなこと私が望んだとでも言うのか? 変な言いがかりはよせよ」


 彼の声色は一見穏やかに映ったが、その冷静さの奥底に焦燥の響きが微かに滲み、混ざり合った湿った息が白く散った。


「私だって、悔しい。──こんな結末、想像もしなかった。今回は……すまなかったなぁ」


 トニーは拳を胸に当て、低く祈りの言葉を紡ぐ。石床の冷たさが膝から伝わり、脈打つような痛みになって背骨を遡る。


「逝きし者に啓示たらしめよ」


 その声音は震えず、しかし血色を削いだ真摯さを帯びていた。

 焚き木が爆ぜる乾いた破裂音が、祈りの静寂を一瞬だけ切り裂く。


 やがてトニーが立ち上がった瞬間、男は囁くように小さく投げた。


「……まさかだとは思うが、お前…もしやあれを見て——」


 言葉の刃は届かない。


「ボス!!」


 焦げつくような叫びが横から差し込む。

 部下の1人が血走った目で男に縋った。


「んぁ。今度はなんだ⁉︎」

「ボス! 逃げないでください。納得できる理由を話してください!」


 青年の声には鉄のような切迫があり、奥歯を噛みしめる音が聞こえた。

 男は喉奥でため息を溶かし、黒革の指先を額に当てる。


「ああ……そうだったな。理由は三つある、そう言ったな。まず第一に——」


 しかし言及しかけた舌を、再び粗い声が叩き落とした。

 焚き火が崩れ、火花が飛び散る。

 兵たちの動揺が鎧の隙間でこだまし、冷えた空気に緊迫の匂いが濃くなる。


「——それは、私から説明しよう」





— μετά—

ふわっと現れ、ふわっと投稿。良きかな良きかな…


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