ルート邑25
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「なるほど。理由は大きく三つある。まず一つ目は──」
だが男の説明は途中で断ち切られた。
「ほぅ?3つね?なら、そのすべてを聞かせてもらおうじゃないか」
後方から投げ込まれた薄笑い混じりの声が、温度を奪った刃物のように一同の背筋を撫でた。
男は舌打ちを飲み込みつつ、ぎしりと軍靴を鳴らして振り返る。
そこに立っていたのは部下ではない。
鋭利な眼光を携え、月白の外套をまとった別の男——トニー元老院議員だ。
兵たちは反射的に敬礼し、鎧金具のぶつかる澄んだ音が周囲に連鎖した。
「なぁ?」
トニーは口角を引き、足を止めずに言葉を被せる。
「その “理由”とやら、聞かせてもらおうか」
「お……お前、なんでここに……」
男の顔から一瞬で色が抜け、驚愕に開いた唇が言葉を探したまま凍りつく。
トニーは余裕たっぷりに肩をすくめた。
「お前らの帰りが遅いから心配して見に来てやったんだ。精鋭部隊と聞いていたが、この体たらくとは。私はがっかりしたよ」
「それはどうも。お気遣いありがとうございます、トニー元老院議員“殿” ……ってか?」
男は辛辣な笑みを刻み、声量を抑えながらも言葉尻に毒を混ぜた。
「元をたどれば、お前が命令した強襲だろ?お前の指示で俺たちは地獄を見たんだぞ。部下は、お前の命令に従ったがゆえに焼き払われた。再度聞くが、この作戦は本当に必要だったのか?」
問いかけの最中、トニーはわざと視線を宙へ泳がせ、くぐもった笑い声を漏らす。
「ああ、もちろん。だからこそ援軍を連れてきたんだ」
そう言って親指を背後へ突き刺す。
昏い回廊の奥、鎖帷子が擦れ合う金属音が連なり、三、四十人規模の増援部隊が列を成して近づいてくるのが見えた。
砂砾を踏む足音が、地面の震えとなって伝わり、灯火がその振動で揺らいだ。
「内密な任務のために大規模な動員は避けたが、これだけいれば十分だろう?」
「お前なぁ……」
男が反論しかけた瞬間、トニーは人差し指を立てて制し、再び言葉を奪う。
「で?その縛られてる“あれ”はなんだ?」
「ったく……あれはな。お前の指示で向かった村の最奥、ルート邑に現れた厄介な代物——全ての元凶だ」
男の吐き捨てるような説明を聞き流すように、トニーは台車に近づいた。
錆びた車輪がきしむ音が湿った床に伸び、仄暗い燐光が少年の閉じた瞳をなぞる。
苛烈な緊張が、兵士たちの肩から肩へと稲妻のように走り、冷たい汗が鎧を伝った。
鎖の金属音、兵の息遣い、遠ざかる足音──すべてが厚い静寂の布に縫い止められ、刹那の均衡を保ったまま、灼けた鉄の匂いを孕んで揺れていた。
「——これは、子供……か?」
— μετά—
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