ルート邑24
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「あの……ボス。こんなこと聞くのは野暮かもしれないんすけど……」
「なんだ? 言ってみろ」
「はい……あの、こいつをわざわざ連れてくる必要ってあるんですか? それも殺さず生け捕りなんて……ボス!!
これは俺らの同胞を皆殺しにしたやつなんですよ? いいんすか? 少なくとも俺は嫌っすよ……こんなの……あんまりっすよ……」
若い兵の声は震え、剥き出しの感情が刃のように鋭く突き出た。
声に同調するように他の兵も槍を床に打ちつけつつ立ち上がり、炎に照らされた顔を男へ向ける。
その眼光は、少年の死を切望する血色の炎だった。
「お前ら……」
男は深く息を吸い、肺を満たす冷えた空気に舌先が痺れるのを感じながら、わざとらしく重い溜息を漏らした。
湿った吐息が白く漂う。
「ここにいる者の大半は、その場にいなかった者ばかりだ。だからまず伝えておくが──この少年は一度……いや、正確には二度殺してる」
男の指が、鎖に縛られた少年の胸元を静かに指し示す。
「一度目は体を吹き飛ばし、二度目は心臓の核に直接、隷属の槍をブッ刺した。だからこの場合、二度殺したと言っていいだろう。だが……だ。こいつは死ななかった。どれだけ上半身を吹き飛ばそうが、心臓を潰そうがだ」
言葉が落ちるたび、兵士たちの喉がごくりと鳴る。
鎧の下で走る冷たい汗が布を濡らし、金属の匂いと混じって焦げ臭い空気をより強くした。
男の声は静かだったが、その奥底で鈍い雷鳴のような激情が蠢いているのを誰もが感じ取った。
それを聞いた部下らは、火が消えかけた蝋燭のように表情を凍らせ、視線を少年へ投げつける。
誰一人として言葉を継げず、ただ松明の弾ける音と自らの心臓の鼓動だけが、狭い空間に残響した。
沈黙は、まるで凍てついた幕が降りたかのように長く重かった。
兵たちは唇を噛み、誰もが己の怒りと恐怖を呑み込みながら、再び槍の切先を少年へ向ける。
その刹那、遠くで鳴った風のうなりが、彼らの神経をさらに張り詰めさせた。
滴り落ちる汗が石床に落下する微かな音でさえ、今は雷鳴のように鮮烈だった。
「じゃあ──そいつは、なぜ生きてるんすか?」
沈着を装った若い兵士の問いは、石壁に澱んだ反響を残して消えた。
淡い松明の火が揺れるたび、乾いた蝋の匂いと煤の粒が空気に舞い、緊張でこわばった喉をひりつかせる。
男は片眉をわずかに動かし、黒革の手袋越しに顎をなぞった。
「俺にもわからない。こいつは突如として現れ、見たことのない武器ととてつもない力で我々の部隊を壊滅させた。どんな急所を穿こうと、なぜか死ななかった」
重い声が低く震え、隙間風が巻き上げる砂埃の音と混じり合う。
そのまま男はゆっくりと兵士の方へ視線を移し、首を傾け、眉を持ち上げて念押しする。
「さて──“なぜこの少年をここへ連れて来たか”だったな?」
黄色味がかった灯火が男の頬の傷を照らし、くぐもった血のような影を浮かべた。
「そうっす。納得できる理由を知りたいっす」
兵士の唇は乾き、剣帯がわずかに軋む。
「なるほど。理由は大きく三つある。まず一つ目は──」
— μετά—
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