ルート邑22
なろう作品らしい表現でふわっと投稿するなろう特有の少年の一人称視点的作品が見たい人はこちらもどうぞ。
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濃い霧が辺り一体を飲み込み、人々の視界を奪う。
湿り気を帯びた冷気が肌にまとわりつき、吐く息は白い糸となってすぐに闇へ溶けた。
どこまでも果てしなく続く霧はより一層不安を掻き立て、胸の奥で脈打つ鼓動を自分の耳で聞かされているかのようだった。
遠くの方から霧の中をしきりに進む幾人かの足音が近づいてくる。
水気を含んだ泥が潰れる鈍い音が、まるで地面の悲鳴のように低く響いた。
重い足取りで、ゆっくりと一歩ずつ確実に近づいてきていた。
歩幅はばらばらで、時折つんのめるような呼吸が混ざる。
それはまるで戦争帰りの兵士のようにボロボロで、憔悴しきっていた。
破れた外套から覗く肌は青白く、乾かぬ血が斑点となっている。
中隊規模にしては若干人数が少ない程度の男らは、その疲れきった重い体をただひたすらに前へと運んでいた。
背嚢は泥で膨れ、装備の金属音はか細く震える。
長い列をなし、その中央では聖架にかけられ、見せしめのようにされた少年を運んでいた。
細い首は垂れ、結び目で擦れた手首から血が滴る。
「ボス。一旦休養が必要っすよ。こいつらはみんな疲弊しきってます。
この先まだ何があるかわからない中、これ以上無駄に消耗するようなことは愚策になる可能性が…」
部下の1人が口火を切った。
湿った声は霧にすぐ呑まれ、頼りなげに消えた。
するとその他の者も同じことをすがるかのような希望に満ちた目で男の顔を覗き込んだ。
眼窩の奥に光るのは、焦燥とわずかな生への執着である。
「…」
男は口を閉ざし、ただひたすらに前を見つめ歩み続けていた。
肩甲に積もった霧露が滑り落ち、背を伝って冷たく染みる。
「ボス!!!」
「…ぁあ、全く。しょうがない奴らだな。じゃここで休養、、、な?!」
かすれた笑い交じりの言葉が、ようやく隊列に許しをもたらした。
それまで止むことのなかった無数の足音がぴたりと止まった。
静けさが波のように広がり、霧が耳鳴りを伴って鼓膜を圧迫する。
あたりは相変わらずの濃い霧に覆われ、視界が完全に遮られていた。
鳥肌が止まず喉が凍てつくほどに寒気が空間を支配していた。
視界を奪われ、辺りは音も通さず、その状況が不安を、恐怖をより一層掻き立てる。まるで世界そのものが呼吸を潜め、彼らを見下ろしているかのようだ。
ほとんどの兵士は待ち侘びていたかのようにすぐに休息をとっていた。
泥を払い、固いパンを噛みしめる者、呆然とその場にうずくまる者、中には仮眠を取る者まで多種多様であった。
だが、男はすぐに列の中央へ向かって歩き出した。
濡れた地面が靴底に絡みつき、抜けるたびに不快な音を立てる。
男の向かったその先には聖架に架けられた少年がいた。
— μετά—
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