ルート邑21
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「おい、何人死んじまった?」
息を切らしながら男は詰め寄る。
足元には誰のものともつかぬ顔の一部が転がり、砂利を踏む音が自分の心臓の鼓動のように響いていた。
「えっと…それが…」
部下は数を数えながら、声を震わせた。
「ここにいる全部隊56名中、死者37名…重症者8名…であります」
「ガキ、1人にこれかよ…」
男の声には嗚咽が混じり、鉄を噛むような怒りと深い絶望がうねりを上げていた。
鼓膜を震わせるほどの呻きは、まるで自らの心臓を握りつぶされた衝撃を胸いっぱいに響かせ、冷え切った空気が肺の奥までしみ込む。
指先にまで痛みが走り、全身がこわばるのを感じる。淀んだ血の匂いと焼け焦げた草のかすかな煙が鼻腔を刺し、焦土と化した集落を覆う死の気配を鋭く告げていた。
遠くで、部下たちの動揺した声がこだまする。
足元の地面はまだ温かく、先刻まで燃え盛っていた炎が落とした灰がざらりと靴裏をくすぐった。
「ボス!!まずいっすよ。あと数刻で夜が明けちまいます。奴らが察知する前にここから撤退すべきです」
その声には切迫感と震えが混じり、言葉の端がほのかに震えている。
東の空にわずかに残る暗闇は、やがて朱色に染まり、夜明けを告げる。
肌を掠める冷気は心細さを増長し、刻々と迫る危機を肌で感じさせる。
「そっか。それはまずいな。猶予はどのくらいだ?」
「持って一盃…ってとこっす」
言葉は短いが、その背景には死地から逃れねばならぬ焦燥がにじむ。
足元には無残な死体が転がり、泥と血が混ざった冷たい感触が地面に広がっている。
「クソが。こいつらを置いていく? そんなこと、できるわけないだろ…」
男の声が割れる。
深い溜め息が静寂を裂き、吐く息が白く凍りついた。
血で染まった手を、無言の亡骸の胸にそっと置くと、指先が僅かに跳ね返されるような感触があった。
「すまない…ほんとに…すまねぇ….」
男は手先や声を震わせ、涙を流し詫びをいた。
「お前ら。すまねぇ…どうやらここまでのようだ……守ってやれなくてすまない」
声は震え、かすれた哀切を帯びている。
その響きは灰色の空に吸い込まれるように消え、残された部下たちの胸にも重苦しい静寂が広がった。
遠く、崩れ落ちた瓦礫の隙間から小さな水たまりが揺れ、鈴虫の断末魔のような鳴き声がかき消すように響いた。
「よし、お前ら。こいつらのプレートを回収しろ。そのあと即時撤退する。いいな?」
「了解、ボス!」
部下の元気な返事が、かすかに希望の光を灯す。
無機質な声が耳に心地よく、絶望の淵にあっても秩序はまだ残っていることを示していた。
「急げ!!」
男は荒涼とした大地を見渡し、焼けた大地が奏でる乾いた軋みを感じ取ると、ゆっくりと息を整えた。
地面に染みた血の冷たさが、靴底から伝わってくる。
焦げた木片や陶片が足に当たり、カランと心細い音を立てる中、彼は重い足取りで歩みを進める。
まだ意識を取り戻さぬ少年の肩をしっかりと掴み、その体温の頼りなさを掌に感じながら、燃え尽きた建物の影を抜けてゆっくりと移動する。
背後には刻々と空が明るみ、火の残り香と湿った土の匂いが混じり合い、まるでこの地が永遠に拒絶するかのように不協和音を奏でている──だが、彼らにはもう後戻りできる時間は残されていないのだ。
— μετά—
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