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ルート邑19

なろう作品らしい表現でふわっと投稿するなろう特有の少年の一人称視点的作品が見たい人はこちらもどうぞ。

     → 恢攘のフォクシィ https://ncode.syosetu.com/n3085kf/

*現在投稿休止中

 ため息交じりに同意し、血塗れの剣を腰から抜く。

 冷たい鉄の切っ先が月光を切り裂き、ほの白い光を帯びる。


 男は膝をつき、まだ鼓動を続けるはずの胸郭へと剣先を押し込んだ。

 固い骨を砕く感触と同時に、肘に伝わる嫌な衝撃。

 次の瞬間、オレンジ色に近い血液が噴き出し、まるで古代の祭儀で使う聖水のように飛沫を撒き散らす。


「うわっ……口ん中入った。ってかこれ、血か?」


 男は口をゆすぐように軽く唾を吐き出し、舌先に残る異物感と鉄の味に顔を歪めた。

 だが、彼の行為に終止符を打つかのように、剣は次第に粒子となって崩れ、かすかな砂塵が舞い上がった。


「ふぅ……これで死んだだろ……?」


 僅かな安堵を噛み締める間もなく、胸元の裂け目はまるで時間を巻き戻したかのように、跡形もなく癒えていった。

 皮膚は滑らかに再生し、血管の痕跡さえ残さない。

 再生の熱と冷気が同時に肌を満たし、男の背筋を凍らせる。


 白球の中の少女は無傷で、淡い光に包まれて静かに立っていた。

 その瞳には、再生の奇跡を見守る意思と、解放を待つ覚悟が宿っているようだった。


 ──だが、誰もその白い結界に踏み込むことはできず、夜の静謐だけが、焦土の大地に重く、凍えるように留まっていた。


 男は呆然としたまま、焼け焦げた大木を背にしたまま立ち尽くしていた。

 鼻孔を突く硝煙の匂い──生々しい血の匂いが混じり合い、喉の奥が熱く、乾いた。


「まさか…こんな…こんなことがあっていいはずが…ないだろ?死なないなんて」


 声は震え、唇にはわずかな血潮の味さえ感じられた。

 震える手で握りしめた刀の柄は、錆びついた鉄の冷たさすら感じさせず、ただ虚しく冷えているだけだった。


「どうしますか、ボス?」


 隣に詰め寄った部下の問いに、男は視線を彷徨わせる。

 朝陽が斜めに差し込むとはいえ、集落跡に残るのは灰色の風景だけ。

 焦げた木柱が崩れ、地面は赤黒い土と血の水たまりでぬかるんでいた。

 湿った土の感触が足裏から伝わる。男はかすれた声で言葉を吐き出した。


「とりあえず、あの大木に縛りつけとけ」


 絞り出すように命じる声は、大木の枝に残る焦げ跡すら揺らすほどだった。


 部下は震える声で頷き、少年を麻縄でがっしりと縛りつける。

 肌に食い込む縄の痛み、衣擦れのかすかな音が戦場の静寂を一層際立たせた。

 少年の頬には乾いた涙の筋──それとも血液の残滓か判別できない痕。

 呼吸は浅く、瞳は虚ろに揺れている。

 部下は…


「ガキが動いたらすぐに知らせます」


 と、声をかけた。





— μετά—

ふわっと現れ、ふわっと投稿。良きかな良きかな…


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