ルート邑19
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ため息交じりに同意し、血塗れの剣を腰から抜く。
冷たい鉄の切っ先が月光を切り裂き、ほの白い光を帯びる。
男は膝をつき、まだ鼓動を続けるはずの胸郭へと剣先を押し込んだ。
固い骨を砕く感触と同時に、肘に伝わる嫌な衝撃。
次の瞬間、オレンジ色に近い血液が噴き出し、まるで古代の祭儀で使う聖水のように飛沫を撒き散らす。
「うわっ……口ん中入った。ってかこれ、血か?」
男は口をゆすぐように軽く唾を吐き出し、舌先に残る異物感と鉄の味に顔を歪めた。
だが、彼の行為に終止符を打つかのように、剣は次第に粒子となって崩れ、かすかな砂塵が舞い上がった。
「ふぅ……これで死んだだろ……?」
僅かな安堵を噛み締める間もなく、胸元の裂け目はまるで時間を巻き戻したかのように、跡形もなく癒えていった。
皮膚は滑らかに再生し、血管の痕跡さえ残さない。
再生の熱と冷気が同時に肌を満たし、男の背筋を凍らせる。
白球の中の少女は無傷で、淡い光に包まれて静かに立っていた。
その瞳には、再生の奇跡を見守る意思と、解放を待つ覚悟が宿っているようだった。
──だが、誰もその白い結界に踏み込むことはできず、夜の静謐だけが、焦土の大地に重く、凍えるように留まっていた。
男は呆然としたまま、焼け焦げた大木を背にしたまま立ち尽くしていた。
鼻孔を突く硝煙の匂い──生々しい血の匂いが混じり合い、喉の奥が熱く、乾いた。
「まさか…こんな…こんなことがあっていいはずが…ないだろ?死なないなんて」
声は震え、唇にはわずかな血潮の味さえ感じられた。
震える手で握りしめた刀の柄は、錆びついた鉄の冷たさすら感じさせず、ただ虚しく冷えているだけだった。
「どうしますか、ボス?」
隣に詰め寄った部下の問いに、男は視線を彷徨わせる。
朝陽が斜めに差し込むとはいえ、集落跡に残るのは灰色の風景だけ。
焦げた木柱が崩れ、地面は赤黒い土と血の水たまりでぬかるんでいた。
湿った土の感触が足裏から伝わる。男はかすれた声で言葉を吐き出した。
「とりあえず、あの大木に縛りつけとけ」
絞り出すように命じる声は、大木の枝に残る焦げ跡すら揺らすほどだった。
部下は震える声で頷き、少年を麻縄でがっしりと縛りつける。
肌に食い込む縄の痛み、衣擦れのかすかな音が戦場の静寂を一層際立たせた。
少年の頬には乾いた涙の筋──それとも血液の残滓か判別できない痕。
呼吸は浅く、瞳は虚ろに揺れている。
部下は…
「ガキが動いたらすぐに知らせます」
と、声をかけた。
— μετά—
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