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ルート邑18

なろう作品らしい表現でふわっと投稿するなろう特有の少年の一人称視点的作品が見たい人はこちらもどうぞ。

     → 恢攘のフォクシィ https://ncode.syosetu.com/n3085kf/

*現在投稿休止中

「馬鹿やろぅ。お前らも死ぬぞ!」


 男は叫ぶが、声は瞬時に遠ざかる雷鳴のような暴風にかき消されてしまう。


「ボスが死ぬよりはマシですから」


 盾を構えながら踏ん張る仲間のひとりが、咄嗟に返す。

 その目には覚悟と祈りが混ざり合い、凍えるほどの真剣さが宿っていた。


 しかし、盾越しに見える彼らの足元は次々と風に煽られ、身体ごと空中に蹴り上げられては地面へと叩きつけられていく。

 土煙と砂利の破片が幾度も舌をかすめ、唇に小さな痛みを残した。


 男は歯を食いしばり、必死に決心を固める。


 ──ここで引けば、全員が死ぬ。


 胸骨が軋むほどの重圧と、鼓動が頭蓋骨を震わせるほどの恐怖を感じながらも、彼は鍛え抜かれた筋肉に勇気を借りた。


「お前らぁ‼︎ 盾を貸せ‼︎」


 だが、荒れ狂う風は叫びを奪い、仲間の耳には届かなかった。

 そこで男は、すぐ後ろで必死に耐えている者の盾を腕力だけでねじ取り、自ら大鎧の前に構え直した。

 冷たい鉄の重みが掌から腕に伝わり、欠けた塗装と微かな血のぬめりが、まるで生と死が交錯する確かな証のように感じられた。


「くそ……もう腕が半分も再生されやがる。目と鼻の先なのに、手が届かねぇなんて……」


 足元の砂が唇をかすめ、髪に絡む埃のざらつきが顔を撫でる。

 歯ぎしりするたび、金属質の苦みが口内に広がった。


 そのとき、不意に足元から湧き上がる異様な感覚。

 まるで地面が彼の意思を読み取り、釘付けにされたかのように、暴風にも風圧にもびくともしない。


「何だ⁉︎ 急に力が……!」


 土が靴底に吸い付き、背後の仲間の姿さえまるで遙か遠くに見える錯覚に襲われる。

 火事場の馬鹿力とはまさにこのことか──男は無意識に呼吸を整え、全神経を隷属の首輪へと一点集中させた。


「これで……静まれ‼︎」


 震える指先で金属の輪を強く握り込み、乱反射する青と赤の閃光を引き裂くように、首に向かって滑り込ませる。

 刃物で切られたように鋭い「カチッ」という音が、やけに大きく夜の闇を裂いた。

 続いて電子機械的な「ジリジリジリ——」という細かな振動が全身を駆け巡り、肌の毛穴のひとつひとつが震える。


 瞬間、あたりの暴走エネルギーは音もなく消え去り、世界は嘘のように静寂に包まれた。

 風が止み、木のざわめきも消え、ただ自分の荒い胸音だけが鼓膜に響く。


 だが、少女を取り囲んでいた白い球体──それだけは、未だに溶けるように空気中に留まり続けていた。

 月光を透かし、かすかに波打つ表面に映る景色は、まるで異界の水面を覗き込むかのように不気味だった。


「ボス…念の為、剣で心臓潰した方がいいんじゃないっすか?」


 背後からかすかな声。

 男は振り返り、仲間の顔を曇らせた薄明かりの下で捉えた。


「あぁ。そうだな」





  — μετά—

ふわっと現れ、ふわっと投稿。良きかな良きかな…


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