ルート邑18
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「馬鹿やろぅ。お前らも死ぬぞ!」
男は叫ぶが、声は瞬時に遠ざかる雷鳴のような暴風にかき消されてしまう。
「ボスが死ぬよりはマシですから」
盾を構えながら踏ん張る仲間のひとりが、咄嗟に返す。
その目には覚悟と祈りが混ざり合い、凍えるほどの真剣さが宿っていた。
しかし、盾越しに見える彼らの足元は次々と風に煽られ、身体ごと空中に蹴り上げられては地面へと叩きつけられていく。
土煙と砂利の破片が幾度も舌をかすめ、唇に小さな痛みを残した。
男は歯を食いしばり、必死に決心を固める。
──ここで引けば、全員が死ぬ。
胸骨が軋むほどの重圧と、鼓動が頭蓋骨を震わせるほどの恐怖を感じながらも、彼は鍛え抜かれた筋肉に勇気を借りた。
「お前らぁ‼︎ 盾を貸せ‼︎」
だが、荒れ狂う風は叫びを奪い、仲間の耳には届かなかった。
そこで男は、すぐ後ろで必死に耐えている者の盾を腕力だけでねじ取り、自ら大鎧の前に構え直した。
冷たい鉄の重みが掌から腕に伝わり、欠けた塗装と微かな血のぬめりが、まるで生と死が交錯する確かな証のように感じられた。
「くそ……もう腕が半分も再生されやがる。目と鼻の先なのに、手が届かねぇなんて……」
足元の砂が唇をかすめ、髪に絡む埃のざらつきが顔を撫でる。
歯ぎしりするたび、金属質の苦みが口内に広がった。
そのとき、不意に足元から湧き上がる異様な感覚。
まるで地面が彼の意思を読み取り、釘付けにされたかのように、暴風にも風圧にもびくともしない。
「何だ⁉︎ 急に力が……!」
土が靴底に吸い付き、背後の仲間の姿さえまるで遙か遠くに見える錯覚に襲われる。
火事場の馬鹿力とはまさにこのことか──男は無意識に呼吸を整え、全神経を隷属の首輪へと一点集中させた。
「これで……静まれ‼︎」
震える指先で金属の輪を強く握り込み、乱反射する青と赤の閃光を引き裂くように、首に向かって滑り込ませる。
刃物で切られたように鋭い「カチッ」という音が、やけに大きく夜の闇を裂いた。
続いて電子機械的な「ジリジリジリ——」という細かな振動が全身を駆け巡り、肌の毛穴のひとつひとつが震える。
瞬間、あたりの暴走エネルギーは音もなく消え去り、世界は嘘のように静寂に包まれた。
風が止み、木のざわめきも消え、ただ自分の荒い胸音だけが鼓膜に響く。
だが、少女を取り囲んでいた白い球体──それだけは、未だに溶けるように空気中に留まり続けていた。
月光を透かし、かすかに波打つ表面に映る景色は、まるで異界の水面を覗き込むかのように不気味だった。
「ボス…念の為、剣で心臓潰した方がいいんじゃないっすか?」
背後からかすかな声。
男は振り返り、仲間の顔を曇らせた薄明かりの下で捉えた。
「あぁ。そうだな」
— μετά—
ふわっと現れ、ふわっと投稿。良きかな良きかな…
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