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ルート邑12

なろう作品らしい表現でふわっと投稿するなろう特有の少年の一人称視点的作品が見たい人はこちらもどうぞ。

     → 恢攘のフォクシィ https://ncode.syosetu.com/n3085kf/

*現在投稿休止中

 すべての感覚が研ぎ澄まされたかのようなその一瞬に、少年の右手から発現した純白の槍と、そこから流れ出す謎めいたエネルギー体は、神話の英雄が宿命に抗い己の意志を解き放つかのように、壮絶な叙事詩の一幕を記録するかのようであった。


 白い棒状の残像が揺らめくその瞬間、言葉を紡ごうとした少年の声は、まるで氷結したかのように震えとともに止まった。

 四本の白い柱は動きを止め、まるで意志を宿した腕のように俯いたまま大地に突き刺さる。重苦しい沈黙が辺りを支配し、遠くで呻くような風の音だけが耳を打つ。


 少年は微かに震える唇の端を引き裂きながら、ゆっくりと右手を前方へと振り上げた。

 筋肉の流れが浮き彫りになるほど強く握りしめられた拳からは、瞬時に隆起した静脈を伝って鮮血が滴り落ちる。

 鉄臭い匂いが濃く空気を満たし、肌がざらつくような生暖かさが胸を刺す。


 一瞬の沈黙が、まるで無限を孕んだ闇の海のように深く、重く胸にのしかかっていた。

 湿った大地は微かな振動を耳に送り、張り詰めた大気は小さな囁きを交わす。

 空気に混じる土の匂いと、遠くで燃えたような焦げた匂いが交錯し、彼の鼓動はまるで太古の地脈を揺るがす震動のごとく、鼓膜を震わせた。

 まるでこの世界そのものが、彼の存在に呼応しているかのようだった。


 少年は身体の芯から震えを感じ、頸筋をそっと撫でる冷たい空気に肌を刺された。

 まどろむ意識の奥底に、低く淡い声が響き渡る。


 ——ツィアを守れ

 ——全ての障害を排除せよ

 ——駆除をせよ


 胸腔の奥で絡まり合う思考が、鋭利な刃物のように切り裂かれた。

 少年の瞳──視界は血を帯びた紅に染まり、身体の細胞一つ一つが獰猛な渇きを帯び始めた。

 かすかな金属の味が口内に広がり、乾いた土のザラつきが舌に感じられる。

 少年自身がどこから──何によってこの衝動を得たのか、思考は霧のように消え去っていた。


 言葉は鼓動と共鳴し、重苦しい沈黙を引き裂いて空間を震わせる。

 声の震えが波紋となって、見えない手が空気を掻き回すように周囲の気流を乱した。

 突如として“声”が反響して耳に直接届いた。


 ハールの(いざな)いの(もと)に——


「……一体、なんの声だ?」


 隣にいた仲間の声が、震える吐息とともに彼の耳に届く。


「わ、わかりません……」


 冷たい声。戸惑いと恐怖が混じっている。


 少年はもう自我を保つことはできなかった。

 全身の血管が大地の震動と呼応し、皮膚の下を熱い血液が猛り立つ。

 まるで刃を抱えた亡霊がその胸でうごめくかのように、彼の内部から鈍い殺気がじわりと滲み出し、空間に冷たい霧のように広がった。

 暗闇に吸い込まれるかの如く、周囲の色彩は濁り、音は遠ざかり、ただ彼の鼓動と、血腥き気配を微かに漂わせ殺気を空間に撒き散らせた。





  — μετά—

ふわっと現れ、ふわっと投稿。良きかな良きかな…



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