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ルート邑7

なろう作品らしい表現でふわっと投稿するなろう特有の少年の一人称視点的作品が見たい人はこちらもどうぞ。

     → 恢攘のフォクシィ https://ncode.syosetu.com/n3085kf/

「あぁ? 何を言ってるか、聞こえねぇんだよ…」


 その吐き捨てるような怒声は、闇に沈む石畳の路地にこだまし、ひび割れた壁からは煤の匂いが立ちこめていた。

 次の瞬間、床に転がるツィアの細い身体を無造作に蹴り上げる音が、まるで荒れたドラムの一撃のように鳴り響く。

 軽快にも思えるその一撃には、少年女の長い黒髪が宙を舞い、空気を切り裂くかすかな「シュッ」という音とともに、甘やかな匂いを含んだ髪の毛が漂った。


 蹴りが繰り返されるたびに、ツィアの額に浮かぶ細かな汗と血の粒が、かすかな灯火に反射して瞬く。

 皮膚が裂けるような痛みに、かすれた喘ぎ声が漏れ、夜風に混ざって遠くの火の粉の匂いが鼻腔をついた。

 少年の目に映るのは、妹の怯えきった瞳と、床に染み込む鮮血の深紅。

 心臓の鼓動は耳をつんざくほど高鳴り、血管を打つその振動が“ズキズキ”と少年の鼓膜を叩いた。


 少年は、自分の身体が鉛のように重く感じられるのを覚えた。

 怒りという冷たい鉄の塊が胸を締め付け、同時に妹を守るという熱い決意が全身に迸る。

 視界の端に映る部下の男——ツィアを蹴り飛ばした暴漢——へ向けられた黒い憎悪が、まるで刃のように少年を突き動かした。

 呼吸は荒く、喉に張り付く砂のような乾きが渇きを呼び、わずかな唾さえ血の味を帯びる。


 ——妹を守らなきゃ。あの日、誓ったはずだ…


 ——妹を…ツィアを…


 その言葉は、少年の胸の奥底で生まれた閃光のように鋭く、意識の闇を切り裂いた。

 あたかも燻り続けた錆びた鎖が一瞬にしてほどけるかのように、内側に秘められた力がざわめき、少年の右手を包む空気が振動し始める。

 掌に伝わるひんやりとした感触は、金属の冷たさを思わせながらも、自らの意志を宿したかのような温もりを帯びていた。


 ——ツィアを…離せ!!


 その絶叫が闇夜の底を突き抜けると同時に、周囲の空気が炸裂音とともに震えた。

 目を見開くと、少年の右手には純白の槍が顕現している。

 刃先は漆黒の夜を切り裂くほどに鋭く、穢れなき光を放っていた。

 その光は、暗がりに浮かぶ瓦礫や血痕を淡く照らし、まるで天に延びる白銀の稲妻のように路地を明るく照射した。


 槍を振りかざすと、冷気を帯びた風が頬を撫で、遠くで揺れる炎の熱気と微妙な対比を成した。

 振動が地面に伝わり、小石や灰が舞い上がり、足元の泥と血の匂いが鼻孔をくすぐる。

 少年の視界に映るのは、恐怖に凍りついた暴漢たちの顔と、次第に押し寄せる光の奔流——己の中に眠る力が解放された証だった。


 路地を満たす轟音と共に、錆びついた過去の重荷が吹き飛び、少年はひたむきに槍を振るう。

 刹那、銀色の光芒が暴漢の列を斬り裂き、鋳鉄のように固まった敵の刃も砕け散る。

 その瞬間、空気の振動が収まり、夜の静寂と共に妹を守る者の誓いが、凛とした余韻を残して闇に消えていった。





— μετά—

ふわっと現れ、ふわっと投稿。良きかな良きかな…


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