ルート邑7
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「あぁ? 何を言ってるか、聞こえねぇんだよ…」
その吐き捨てるような怒声は、闇に沈む石畳の路地にこだまし、ひび割れた壁からは煤の匂いが立ちこめていた。
次の瞬間、床に転がるツィアの細い身体を無造作に蹴り上げる音が、まるで荒れたドラムの一撃のように鳴り響く。
軽快にも思えるその一撃には、少年女の長い黒髪が宙を舞い、空気を切り裂くかすかな「シュッ」という音とともに、甘やかな匂いを含んだ髪の毛が漂った。
蹴りが繰り返されるたびに、ツィアの額に浮かぶ細かな汗と血の粒が、かすかな灯火に反射して瞬く。
皮膚が裂けるような痛みに、かすれた喘ぎ声が漏れ、夜風に混ざって遠くの火の粉の匂いが鼻腔をついた。
少年の目に映るのは、妹の怯えきった瞳と、床に染み込む鮮血の深紅。
心臓の鼓動は耳をつんざくほど高鳴り、血管を打つその振動が“ズキズキ”と少年の鼓膜を叩いた。
少年は、自分の身体が鉛のように重く感じられるのを覚えた。
怒りという冷たい鉄の塊が胸を締め付け、同時に妹を守るという熱い決意が全身に迸る。
視界の端に映る部下の男——ツィアを蹴り飛ばした暴漢——へ向けられた黒い憎悪が、まるで刃のように少年を突き動かした。
呼吸は荒く、喉に張り付く砂のような乾きが渇きを呼び、わずかな唾さえ血の味を帯びる。
——妹を守らなきゃ。あの日、誓ったはずだ…
——妹を…ツィアを…
その言葉は、少年の胸の奥底で生まれた閃光のように鋭く、意識の闇を切り裂いた。
あたかも燻り続けた錆びた鎖が一瞬にしてほどけるかのように、内側に秘められた力がざわめき、少年の右手を包む空気が振動し始める。
掌に伝わるひんやりとした感触は、金属の冷たさを思わせながらも、自らの意志を宿したかのような温もりを帯びていた。
——ツィアを…離せ!!
その絶叫が闇夜の底を突き抜けると同時に、周囲の空気が炸裂音とともに震えた。
目を見開くと、少年の右手には純白の槍が顕現している。
刃先は漆黒の夜を切り裂くほどに鋭く、穢れなき光を放っていた。
その光は、暗がりに浮かぶ瓦礫や血痕を淡く照らし、まるで天に延びる白銀の稲妻のように路地を明るく照射した。
槍を振りかざすと、冷気を帯びた風が頬を撫で、遠くで揺れる炎の熱気と微妙な対比を成した。
振動が地面に伝わり、小石や灰が舞い上がり、足元の泥と血の匂いが鼻孔をくすぐる。
少年の視界に映るのは、恐怖に凍りついた暴漢たちの顔と、次第に押し寄せる光の奔流——己の中に眠る力が解放された証だった。
路地を満たす轟音と共に、錆びついた過去の重荷が吹き飛び、少年はひたむきに槍を振るう。
刹那、銀色の光芒が暴漢の列を斬り裂き、鋳鉄のように固まった敵の刃も砕け散る。
その瞬間、空気の振動が収まり、夜の静寂と共に妹を守る者の誓いが、凛とした余韻を残して闇に消えていった。
— μετά—
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