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地下都市2

なろう作品らしい表現でふわっと投稿するなろう特有の少年の一人称視点的作品が見たい人はこちらもどうぞ。

     → 恢攘のフォクシィ https://ncode.syosetu.com/n3085kf/

「荷物はそこに置いて」


 彼女はそう言いながら、玄関近くの床を指差した。

 そこには、まるで植物の葉を乾燥させたような香りのする、板状のマットが敷かれている。


 少年は言われるがまま、肩にかけていた荷物をそっとそこへ置いた。


「さて、まず私はヘルン。君たちの名前は何と言うの?」


 彼女は一拍の間を置き、問いかける。しかし、自身に名乗るべき名前はない。

 記憶を失った今、自分が何者であったのかすらわからないのだから。


「僕は……名前はまだありません」


 そう答えると、彼女は無言のまま僕を見つめた。


「そう。じゃあお嬢ちゃんは?」


 少女は相変わらず押し黙っている。その沈黙があまりに長いので、少年は彼女の代わりに口を開いた。


「この子も、僕と同じです」


 少女が何も言わないのを見て、彼女は一瞬困ったように眉を寄せた。

 しかし、すぐに納得したかのように静かに頷く。


「なるほど。二人とも名前がないというわけね。じゃあ、新しい名前を与える必要があるわね」


 彼女はそう言いながら、言葉を続ける。


「それと、君たちには会ってもらわなければならない人たちがいるの」


 そう言い残し、再び螺旋階段へと足を向けた。


 今度は上へ向かうようだった。


 階段を登りながら、「何か質問は?」と彼女がふいに問いかけてきた。


 少年は迷わず、行き先について尋ねる。


「えっと……これからどこに行くんですか?」


 彼女は足を止めることなく、ちらりと振り向きながら、人差し指を天に向けた。


「そこよ」


 それは浮島のことを指していた。

 それから、ずっと気になっていた疑問を口にする。


「あの……浮いている島って、どうやって浮かんでいるんですか?」


 この場所に足を踏み入れたときから、ずっと気になっていたことだ。


 彼女は微かに口角を上げ、曖昧な笑みを浮かべる。


「その答えは、今から行く場所で直接聞くといいわ。私よりも、もっと詳しい人がいるから」


 そして、さらにこう続けた。


「それから、これは私が恩師から受け継いだ言葉なんだけどね…

 ——人は生き方を自分の選択によって決めなければならない。たとえそれが過ちだったとしても、後悔や悲嘆で終わらせてはならない。すべての取捨選択には責任が伴い、その責任から逃れることは許されない——これは必ず覚えておきなさい」


 それは、ただの名言のようにも聞こえたが、どこかしら重みがあった。


 今の少年には、その言葉の真意を理解するには至らないかもしれない。

 けれど、その響きは静かに心の奥に沈み込んでいった。





  — μετά—

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