地下都市2
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「荷物はそこに置いて」
彼女はそう言いながら、玄関近くの床を指差した。
そこには、まるで植物の葉を乾燥させたような香りのする、板状のマットが敷かれている。
少年は言われるがまま、肩にかけていた荷物をそっとそこへ置いた。
「さて、まず私はヘルン。君たちの名前は何と言うの?」
彼女は一拍の間を置き、問いかける。しかし、自身に名乗るべき名前はない。
記憶を失った今、自分が何者であったのかすらわからないのだから。
「僕は……名前はまだありません」
そう答えると、彼女は無言のまま僕を見つめた。
「そう。じゃあお嬢ちゃんは?」
少女は相変わらず押し黙っている。その沈黙があまりに長いので、少年は彼女の代わりに口を開いた。
「この子も、僕と同じです」
少女が何も言わないのを見て、彼女は一瞬困ったように眉を寄せた。
しかし、すぐに納得したかのように静かに頷く。
「なるほど。二人とも名前がないというわけね。じゃあ、新しい名前を与える必要があるわね」
彼女はそう言いながら、言葉を続ける。
「それと、君たちには会ってもらわなければならない人たちがいるの」
そう言い残し、再び螺旋階段へと足を向けた。
今度は上へ向かうようだった。
階段を登りながら、「何か質問は?」と彼女がふいに問いかけてきた。
少年は迷わず、行き先について尋ねる。
「えっと……これからどこに行くんですか?」
彼女は足を止めることなく、ちらりと振り向きながら、人差し指を天に向けた。
「そこよ」
それは浮島のことを指していた。
それから、ずっと気になっていた疑問を口にする。
「あの……浮いている島って、どうやって浮かんでいるんですか?」
この場所に足を踏み入れたときから、ずっと気になっていたことだ。
彼女は微かに口角を上げ、曖昧な笑みを浮かべる。
「その答えは、今から行く場所で直接聞くといいわ。私よりも、もっと詳しい人がいるから」
そして、さらにこう続けた。
「それから、これは私が恩師から受け継いだ言葉なんだけどね…
——人は生き方を自分の選択によって決めなければならない。たとえそれが過ちだったとしても、後悔や悲嘆で終わらせてはならない。すべての取捨選択には責任が伴い、その責任から逃れることは許されない——これは必ず覚えておきなさい」
それは、ただの名言のようにも聞こえたが、どこかしら重みがあった。
今の少年には、その言葉の真意を理解するには至らないかもしれない。
けれど、その響きは静かに心の奥に沈み込んでいった。
— μετά—
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