——ニュー・ハリス:中央都市・センフィールド——Ⅵ
なろう作品らしい表現でふわっと投稿するなろう特有の少年の一人称視点的作品が見たい人はこちらもどうぞ。
→ 恢攘のフォクシィ https://ncode.syosetu.com/n3085kf/
室内には、四方に散らばる歴史の重みと、戦場で刻まれた記憶の残響が漂い、彼らの声は互いに重なり合って未来への警鐘を鳴らしていた。
廊下の窓から差し込む柔らかな陽光は、いささかの安らぎをもたらす一方で、外の世界に忍び寄る不穏な風の音や、遠くでかすかに聞こえる爆発の轟音を予感させ、静謐な空間に緊張感を走らせていた。
こうして、互いに異なる感情と確固たる信念を胸に、変わりゆく世界の行方を見つめながら、次なる戦いに向けて内心で静かなる決意を新たにしていた。
その心には、過ぎ去った日々の記憶と、これから迫り来る未来の悲哀と希望が、複雑に絡み合いながら、確かな存在感を持っていたのである。
鐘の音が静かに鳴り終わり、街を包んでいた光と熱が、ゆるやかに引いていく。
空は燃えるような茜色から、やがて群青色へと染まり、ひとつの一日が確かに終わりを迎えようとしていた。
西の空には、まるで誰かの記憶を焼き付けるように、深紅の残照が横たわっている。
その光が、中央都市センフィールドの石畳の通りや建物の窓ガラスに反射して、街全体をやわらかく照らしていた。
風は心地よい初夏の香りを運び、どこか甘く、少し埃っぽい。
それがまた、この街の生活の匂いだった。
街の中心を貫くように走る、どこまでも真っ直ぐに伸びる大通り。
その中央には、複数の車両が連なったトラムが、ゆっくりと金属音を立てながら走っていた。
鉄の車輪が軋むたび、線路と地面が震え、小さな振動が足元に伝わってくる。
二車線に分かれた線路の両脇には、広々とした歩道が設けられ、そこには市民たちの穏やかな日常が満ちていた。
学生らしき若者たちが笑いながら友人と歩き、家族連れが子どもの手を引きながら賑やかに語らう声が響く。
革靴の音、ヒールの音、自転車のベル、小さく聴こえる音楽……それらがすべて混ざり合い、まるでこの街そのものが一つの生き物のように呼吸しているようだった。
道沿いには、大衆向けの居酒屋やバーが立ち並び、仕事終わりの人々が、安い酒と肴を求めて続々と吸い込まれていく。
中からはグラスがぶつかる音や、笑い声が漏れ、カウンター越しに響く店主の威勢のいい声が、夕暮れの喧騒に彩りを添えていた。
一方、その反対側には洒落たオープンテラスのカフェが並び、そこでは恋人同士が手を取り合って座り、未来の話を小声でささやいていた。
光るグラスの中に注がれた赤ワインが、夕陽を反射して宝石のように煌めく。
老夫婦が穏やかな笑みを浮かべながら紅茶を啜る姿もある。
その静かな瞬間が、長く続いた人生のご褒美のように、確かにそこにあった。
街は、まさに幸福という名の温度で満ちあふれていた。
だが、通りの終わりを越えた先、その線路は次第にその景色を変えていく。
建物の高さは次第に低くなり、人の姿もまばらになっていく。
舗装された歩道が途切れ、雑草の匂いが鼻先に届く頃には、街の鼓動もすっかり聞こえなくなっていた。
線路はなおもまっすぐに伸び、やがて建物の影が消え、ただ広大な荒野が広がる世界へと足を踏み入れる。
そこには風しかない。
乾いた土の香りと、遠くから舞い上がってくる砂埃の気配。音はなく、ただ草むらの揺れる擦過音が耳をかすめるばかりだった。
果てしなく続くその線路は、まるでどこかに導かれるように、どこまでも真っ直ぐだった。
目を凝らせば、地平線のかなたへと吸い込まれるように細くなり、やがて視界からも消えていく。
しかし不思議と、その先に何かがあるという確信だけは拭えない。
何も語らぬその鉄の軌道…けれどそれは確実に“意志”を持っていた。
人々の営みと願いと、あるいは血と涙とをすべて運んできた、歴史そのもののような存在だった。
トラムが走るたび、どこか懐かしい音を残して通り過ぎる。
それは、過去から現在、そして未来へと繋がる音。
けれど誰も、その線路が一体どこへ続いているのか、何を運んでいるのかを知らない。
いや——誰も知ることができないのかもしれない。
夕暮れの空がやがて完全な夜の帳に変わるとき、街に残された幸福の残響と、その彼方に潜む“なにか”の気配が、静かに、確実に、交差しようとしていた。
— μετά—
ふわっと現れ、ふわっと投稿。良きかな良きかな…




