地下都市53
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遠くの方から、かすかな呼び声が風に乗って届く。
「兄さん…」
その声は、深い暗闇の中にぽつんと浮かぶ、かすかで切実な叫びのようで、まるで何か必死に訴えかける魂の声が虚空を彷徨っているかのようだった。
耳に届くその声は、微かに震え、どこか温かい記憶をも呼び覚ます。
「大丈夫ですか…兄さん」
どこかで聞いたことのある、優しくも懇願するような声が、遠くから何度も響く。
混沌とした暗黒の中で、かすかな音の波が体の奥底にまで伝わり、まるで失われかけた意識をそっと呼び戻すかのようだった。
「起きてください。兄さん」
その声に導かれるように、ぼんやりと漂っていた意識が、ようやく少しずつ戻り始めた。
瞼が重い感覚とともに、やっとの思いで開かれると、上方に見覚えのある顔が浮かび上がった。
薄暗い空間の中、ほのかに光を帯びたその顔は、やわらかな表情で彼を見つめ返していた。
「ツィア…か?」
「兄さん…久しぶりです」
約二年ぶりに再会するツィアは、以前の痩せ細り、軟弱な腕とはまるで違い、細くはあるものの、日々の訓練に耐え抜いて磨き上げたかのように、しっかりとした筋肉と逞しさを身にまとっていた。
その眼差しは大人びた決意を宿し、かつての幼さを残しながらも、今や一人の戦士としての風格を漂わせていた。
朦朧とした意識の中で、少年は震える声で問いかける。
「ここは…?」
ツィアはわずかに戸惑いを隠せず、しかしどこか慌てた様子もなく、静かに答えた。
「私もわからない…です。気がついたら、ここに…いたから」
その口調は、まだ慣れぬ状況に戸惑いを隠せない様子を物語っていたが、どこか幼い無邪気さも感じさせた。
だが、かすかに成長した体躯と、強い眼差しが、彼女の内に秘めた強靭な意志を物語っていた。
「そうか。だが、何よりも元気そうで良かった」
そう言うと、少年はツィアに向かって力強く、しかし温かい抱擁を交わした。
抱きしめられると、互いの体温が伝わり、暗闇の中にもかすかな安堵と懐かしさが広がる。
「なんか、ツィア、背も大きくなったな。この二年で」
「お兄さんこそ。とても大きい…です」
彼らの声は、かすかな笑いとともに、久々の再会の喜びを映し出していた。
少年は、肩越しに見えるツィアの瞳に、自分たちがかつて共有した日々と、新たに刻まれた成長の証を重ね合わせるように感じた。
「あはは。ありがとう。あと、敬語はしなくていいよ。兄弟なんだし」
そう言いながら、少年は立ち上がり、周囲を見渡した。
目の前に広がるのは、薄暗い洞窟のような空間であった。
天井は不気味に高く、無数の石柱や粗い岩肌が、風化の年月を感じさせる。
洞窟内は、どこか生の気配もなく、ただ無機質な暗がりと、時折水滴が落ちるかすかな音だけが、孤独に響いている。
足元には、湿り気を帯びた冷たい石の感触が伝わり、鼻をかすめるのは土や藻のかすかな匂い。
ここがどこの洞窟なのか、誰がこの場所を作り、どのように過ごしていたのか、全くの謎に包まれていた。
— μετά—
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