Lyftland
──霧が次第に晴れ、夜の闇と朝の光が交錯する時間帯。
水平線の彼方から、薄紅色の太陽がゆっくりとその姿を現し、夜の帳を静かに押し上げていく。
朝と夜が入り混じる、あの一瞬の狭間。
世界がまるで夢とうつつの境を漂うかのように、ぼんやりとした光が広がる。
僕らはようやく山の山頂付近へと辿り着いていた。
長い道のりを必死に登りきり、荒くなった呼吸を整えながら視線を上げると、遠くに”村”らしきものが見える。
……あれ、なのか。すごい場所だな──
だが、そこに広がっていた光景は、常識を根底から覆すほど奇妙なものだった。
確かに遠くの方には建物が連なり、村や街のようにも見える。だが、それだけではない。
手前には大地には巨大な穴が開き、その上空には、地盤ごと宙に浮かぶ島々がいくつも漂っていた。
その奥にはなにやらとてつもなく大きい二足歩行の影が動いてるのが見える。
空には大小様々な光り輝く球体がいくつも見え、前方には球体になりかけている物が大きく一つ見える。
まるで作られている途中のような人工物が雲の向こう側に手のひらよりも若干の大きいくらいで漂っているのが見える。
まるで、天地の理そのものを拒むかのような光景。
空中に浮かぶ島々の下には、影が滲むように広がっている。
そこに張り巡らされた橋やロープが、まるで地上と空を繋ぐ蜘蛛の糸のように絡まり、複雑な立体構造を形成していた。
……どうやって、あの浮島は宙に浮いているんだ?──
目の錯覚か、それとも何か特殊な技術が使われているのか——想像をはるかに超えたその光景に、胸が高鳴ると同時に、一抹の不安がよぎる。
僕らが踏み入れた場所は、確実に”普通の世界”とは違う何かに支配されているのかもしれない。
山を下りきると、そこは一面の砂漠だった。
先ほどまでの冷涼な山頂の気候とは打って変わり、焼けつくような太陽が容赦なく照りつける。
地面からはむっとする熱気が立ち上り、触れた瞬間、肌を焼くような感覚に襲われた。
僕は少女に羽織らせていた上着を脱がせて手に持つ。
「それにしても、暑いな……」
そう呟きながら振り返ると、少女は無表情のまま、静かに歩を進めていた。彼女の表情からは何も読み取れないが、この過酷な暑さにも動じることなく進む姿に、意外なほどの体力を感じる。
やがて、砂の大地に変化が訪れる。
足元にちらほらと緑の草が顔を覗かせ、空気がゆるやかに変化するのを感じた。
まるで見えない境界線を越えたかのように、先ほどまでの灼熱は嘘だったかのように消え失せ、涼やかな風が頬を撫でる。
なんなんだ、ここは……?──
ふと見上げると、先ほど遠目に見えた浮島が、今や頭上に広がり、その縁から降り注ぐ柔らかな光が、緑に覆われた地を照らしていた。
まるで異世界に足を踏み入れたような錯覚に陥る。
地面を見渡すと、小さな羽を持つ生き物たちがくるくると舞い、遠くでは自分と同じ年頃の子どもたちが楽しげに駆け回っていた。
……すごい、こんな場所があるんだな──
思わず息をのむ。まるで夢のような光景だった。
だが、その幻想のような時間を切り裂くように、不意に背後から冷たい声音が響いた。
「何をしに来た?」
振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。
— μετά—