地下都市40
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しかし、彼の視線の先に映っていたのは、汗と埃にまみれ、荒い息をつきながらも必死に戦うフレイの姿であった。
普段は厳格で、冷静そのもののフレイが、今はまるで風雨に打たれた枯れ木のように、極限の状況に晒され、額から滴る汗が、彼の内面の激しい戦いを物語っていた。
「それより……ジジィこそ、大丈夫か? 咳がひどいが」
少年の問いかけは、どこか心配と軽い皮肉が入り混じったもので、言葉の裏に隠された温かい思いが滲み出ていた。
フレイは、一瞬だけ目を細め、深い思索の色を浮かべながらも、すぐに厳しい表情を取り戻し、静かに答えた。
「お主が心配するほどのことではない」
その声は、普段の凛々しさを保ちながらも、微かにかすれ、今まさに戦いの余韻が残るかのようだった。しかし、彼は決して自らの弱さを露呈することなく、少年に向き直った。
そして、厳かに問いかけるように、次の言葉を発した。
「それで、お主は……何を見た?」
少年はしばし沈黙を守った後、先ほど体験した奇妙な出来事を、脳裏の万華鏡のように鮮明に思い出す。
黒く塗りつぶされた世界、まるで幻のように浮かび上がる顔のない白い影、そして耳元で重々しく響いた少女の声。
理解しがたいその言葉たちが、まるで遠い昔の記憶の断片のように、彼の心を支配していた。
ゆっくりと、しかし力強く息を整えながら、少年は慎重に言葉を紡いだ。
「……わからない。見たことのない街のような景色が、次々と眼前に広がっていた。
煌めく街灯の下、人々のざわめく声が、まるで遠い夢の中のように聞こえた。
そして、一番印象に残ったのは……顔のない少女の姿をした、あの白い影だった」
フレイはその言葉に、重々しい頷きを返した。
「そうか。それは……実に興味深いな」
その一言には、彼自身が深い謎に直面しているかのような、内面的な闇と覚悟が滲んでいた。
だが、彼はこれ以上多くを語ることなく、ただ静かに、しかし意味深に続けた。
「だが、それが決して悪い兆しではない。
お主は確実に成長し、己の心を研ぎ澄ますことで、この世のあらゆる流れを感じ取る力を徐々に取り戻しつつある。
今の体験も、その一歩に過ぎぬのだ」
少年は、フレイの言葉の重みを噛み締めながら、ゆっくりと頷いた。
心の奥で、未知なる世界への扉が静かに開かれ始めるのを感じながら、彼は一つの名前を口にした。
「……そういえば、ツィアはどうしているんですか?」
— μετά—
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