地下都市38
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少年が足を進めるごとに、地面には赤い痕跡が滲み出し、まるで誰かがその場に立ち止まり、情熱と痛みの残像を残したかのように、血のような色が広がり始めた。
その赤は、暗闇の中でひっそりと、しかし確実に拡がっていき、見る者に何か不吉な予感を抱かせる。
少年は一瞬足を止める暇もなく、赤い影を横目に、必死に白い影を追い続けた。
やがて、遠くの地平線の向こうに、わずかに高く盛り上がった地形が見えてきた。
一見、高台のようにも見えたが、実際は急な坂道であった。
白い影はその坂を駆け上がると、ふいに動きを止め、振り返った。
少年はその瞬間、目と目が合う感覚を覚えた。
たとえ顔が存在しないはずのその影であっても、どこか生命の宿る瞳を感じるかのような、不思議な視線が交差した。
影はしばらくの静寂の後、低く、しかし重みのある声で囁いた。
「あと少しだね」
その一言は、少年の心に深く突き刺さる。何を意味するのか、全く理解できぬまま、影はさらに続けた。
「もう少しで、会えるね」
言葉の背後に潜む謎と、予感される運命の重み。
少年は胸中に様々な感情が渦巻くのを感じた。
希望、恐怖、そしてどこか懐かしさすら混じったその響きは、彼自身の内面に封じ込められた記憶や未完の約束を呼び覚ますかのようだった。
歩みを止めることなく、少年は坂を駆け上がりながら、次第に耳に届く風のざわめきや、足元でざらつく岩肌の感触、そして遠くでこだまするかすかな戦いのような音に気づいた。
どこかで、過ぎ去りし時の断片や、激しい戦闘の余韻が、彼の五感を刺激していた。
暗闇の中に咲く奇妙な光景——儚い白い影、そして赤く染まる足跡。
すべてが、少年にとっては自らの帰還と、忘れ去られた記憶への扉を開く鍵であるかのように感じられた。
少年は、言葉を失い、息を呑んだ。
耳に残るのは、意味を測り知れぬその言葉だけだった。何を伝えようとしているのか、どんな意図が秘められているのか、理解することはできなかった。
ただ、ひとつだけ確かなのは、この影が何か深淵な真実を握っているということ。
そして、その謎が、まさに自分自身に関わるものだと、痛烈なまでに感じ取られていた。
その瞬間、少年の内面は、薄氷のように脆く、そして同時に鋭く研ぎ澄まされた感覚に満ちていた。
目の前の景色は、依然として黒い影の中にあったが、その中に点在する微かな光や、耳元で囁かれる不思議な声、そして何よりも、身体の奥底で鼓動する謎のリズムが、彼の五感すべてに強烈に訴えかけていた。
しかし、次の瞬間、彼の意識は激しい現実へと引き戻された。
— μετά—
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