地下都市36
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疑問と不安が入り混じったまま、少年は静かに視線を下へ向ける。
すると、自らの胴体より下の部分が、黒い影に飲み込まれていることに気がついた。
その境界線は曖昧で、まるで身体が闇の中へ溶解しているかのようにも見える。
しかも、その消えかけた下半身にはまったく感覚がなかった。
痛みはもちろん、冷たさや温かさ、重ささえも感じられない。
ただ見た目だけは、かろうじて足があるように見えるものの、実際はそこに存在しているのかどうかすらわからないのだ。
少年は、自らの身体が現実から乖離しているという、まさに夢幻のような錯覚に襲われながらも、静かに歩みを進めようとした。
しかし奇妙なことに、そんな状態でも歩くことはできそうな気がする。
まるで半分だけ別の次元に移行しているかのようだ。
実体が曖昧なまま、少年は一歩踏み出そうとして、恐怖に身をすくませた。
もし、ここで動いた瞬間に自分の身体が完全に消えてしまったら、どうなるのか。
そんな想像が頭をよぎる。
ふと、先ほどまで耳を塞いでいた闇の静寂の奥から、微かな振動が伝わってきた。
微弱な波紋のようなものが足下から立ち上がり、少年の背筋を撫でる。
だが、その波紋が音なのか、あるいは声なき声なのかは判然としない。
耳を澄ましても、そこには明確な言葉は存在しない。ただ、空気の揺らぎが不安を煽るだけだ。
何も見えない。何も聞こえない。なのに、不思議と「何かがいる」という確信めいた感覚があった。
漆黒の闇の向こうに、形容しがたい存在の視線を感じる。
はたしてそれが味方なのか、あるいは敵なのか。少年には判断する術がない。
ただ、胸の奥に押し寄せる底知れぬ恐れと、ほんのわずかな好奇心が渦を巻いていた。
——このまま、進んでいいのだろうか
少年は一瞬、手を伸ばして闇の淵を確かめようとするが、指先が闇に近づくにつれ、形が歪み始めているようにさえ感じられた。
その異様な光景に、少年の心はさらにざわめく。
だが、ここで踏み止まれば、自分自身が再びあの悲痛な声の渦に巻き込まれてしまうのではないか、という恐れもあった。
そう思うと、足を止めることができなくなる。薄闇の奥へ進むか、立ち止まるか。
彼の決断は、まるで運命の分かれ道であるかのように思えた。
静寂の支配する闇の中、少年は小さく息を呑む。空気はどこまでも冷ややかで、それでもなお、その冷たさすら十分に感じとれないほどに感覚が鈍っている。かろうじて自分の心臓の鼓動だけが、今でも鼓膜を震わせていた。
辺り一面、何も映らない漆黒の空間に、遠くかすかに揺れる一筋の光が目に留まる。
それは、白く淡い輝きを放ち、まるで幽玄な舞踏を踊るかのように、ゆったりと漂っていた。
少年の心は、言い知れぬ好奇心と不安に包まれ、直感的にその光に向かう衝動に駆られた。
「一体、あれは……?」
— μετά—
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