地下都市35
なろう作品らしい表現でふわっと投稿するなろう特有の少年の一人称視点的作品が見たい人はこちらもどうぞ。
→ 恢攘のフォクシィ https://ncode.syosetu.com/n3085kf/
声が、幾重にも折り重なりながら波のように押し寄せる。
それは、ひとつの声ではなかった。
無数の魂が、寄り添い、絡み合うように響く声。
——助けて…
——見つけて…
——ここにいる…
それは、哀切のにじんだ震える声。
それは、絶望に満ちた、か細い囁き。
それは、遠い過去の影が交錯し、絡み合うような響き。
幾重にも重なった声が、暗闇の底から押し寄せるようにして少年の耳を満たしていく。
何を言っているのか正確にはわからない。けれど、それらの声は間違いなく何かを訴えていた。
それは深い悲しみを宿した震える叫びであり、尽きることなき絶望を帯びたか弱い囁きであり、寄り添うように幾千もの魂が絡み合う嘆きのようでもあった。
その声の重なりに呑まれてしまいそうになる少年を、フレイの言葉が制止する。
まるで結界でも張るかのような厳かな響きを伴って、フレイは言い放つ。
「力に……取り込まれてはならぬ。決して……力に呑まれてはならぬ……」
まさに何かを封印しようとするかのような、その低く通る声が、少年の揺れ動く心をぎりぎりのところで引き留める。
そして、その言葉が空気に溶け込んだ直後だった。
まばゆいはずの光が一瞬にして消え去り、代わりに少年の視界に広がったのは、今まで見たこともない景色だった。
——今度はなんだ……
そこは漆黒の闇が、終わりなく続いているかのような世界だった。
眼を凝らしても、目印になるような光は見えない。周囲に漂う空気は静止し、風すら存在しない。
ただただ、沈黙と暗黒が支配していた。
耳を澄ませば、自分の鼓動だけがかすかに響き、まるで耳鳴りのように頭蓋の奥で反響している。
その重苦しい無音は、どこまでも深い水底に沈んでいるかのようで、肌に触れる空気は冷たいとも温かいとも判別できないほど無機質だった。
少年は緊張からか、唇を一度噛んで呼吸を整えようとする。
だが、空気を吸い込んだはずなのに、その感触は希薄で、まるで幻想を吸っているような心許なさを覚える。
吐き出した息も、その暗黒の世界に散り散りに溶けていくかのようで、まったく手応えがない。
鼻腔には、土の匂いも草の匂いも、何一つ香らない。まるで嗅覚までもが奪われてしまったようだった。
——ここは……どこだ?
— μετά—
アドバイスや感想を是非気軽に書いてください!




