地下都市24
なろう作品らしい表現でふわっと投稿するなろう特有の少年の一人称視点的作品が見たい人はこちらもどうぞ。
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——65階層
冷気が支配していて、ただ寒いだけではなかった。
肌を刺すような冷たさは骨の髄まで浸透し、精神を締めつける。
呼吸すらも重くなり、まるで肺の奥まで凍りつくかのようだった。
ここに足を踏み入れた者は、否応なくその環境と対峙することを余儀なくされる。
少年の身体からは、白い蒸気のようなものが絶え間なく立ち昇っていた。
熱を帯びた肉体が、この異常な冷気と拮抗し、その境界で目に見える形の揺らぎとなって放たれている。
肌はじっとりと汗に濡れ、その滴が氷点下の床へと落ちると、微かな音を立てながら薄い氷膜へと変化した。
この環境に耐えながら、彼は必死に集中しようとしていた。
しかし、指先に力が入りすぎている。
肩に不要な緊張が生まれ、呼吸は浅く、心は乱れていた。
「そうではない。何度言えば理解するのじゃ?」
突き刺すような声が、氷の張り詰めた空間を切り裂いた。
まるで、冷気そのものが言葉となって襲いかかるかのような響きだった。
声の主はフレイ——老練な師であり、少年にこの試練を課す張本人だった。
彼は、厳しい眼差しで少年の動作を見つめ、細かな欠点を一つひとつ指摘する。
「力を込めれば良いというものではないと、何度教えたらわかるのじゃ。
お主が為すべきは、心を静めること。
静寂こそが導きであり、恐怖を抱いてはならぬ。空気の流れを、肌ではなく心で感じるのじゃ」
フレイの言葉は、まるで冬の霜が葉を覆い尽くすかのように、冷たく少年の意識へと絡みついた。
少年は荒れた呼吸を整えようとした。
だが、うまくいかない。
全身に疲労が張り付き、筋肉のこわばりが思考を鈍らせる。
それでも、意地で足を組み直し、慎重に指を組み合わせる。
フィンガースティープル——精神を落ち着かせ、集中を促す動作だ。
その瞬間、少年は自分の体温が再び上昇するのを感じた。
だが、それを察したフレイの表情が鋭く変わる。
「おい、またか。何度言わせるつもりじゃ」
低く、それでいてはっきりとした語調。
空間全体を震わせるような威圧感を持って、フレイは少年の行動を遮る。
「力を入れるなと、さっきから何度も言うとるのじゃ。力むことが解決策ではない。むしろ、その考えが根本的に誤っておるのじゃ」
フレイは一歩踏み出した。
その足音は、氷の床に細かな亀裂を生じさせるかのように響く。
彼の視線は少年を貫き、決して逃がさぬように縛りつけた。
「心を穏やかにし、清らかな精神を持ち、万物の理を感じ取るのじゃ。
それこそが、お主が目指すべき境地であり、そこに至らぬ限り、この力を操ることなど到底叶わぬ」
少年は歯を食いしばった。口元がわずかに引きつる。反発心が沸き上がる。
「お主の心はまだまだ濁りきっておる。そして、精神が未熟なのじゃ。この腰抜けめ」
瞬間、少年の表情が歪む。内側から煮えたぎるような怒りが喉元にまでせり上がった。そして——。
「あ? うるせぇな、ジジィがよ」
吐き捨てるような声が冷気を裂く。その言葉には、確かな棘があった。
— μετά—
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