地下都市13
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黎明の光すら届かぬ静寂の中、都市は未だ眠りの胎内にあった。
幾重にも折り重なる沈黙の層を切り裂くことなく、少年は意識を取り戻す。
寝具の温もりを剥がし、ゆるやかに身体を起こすと、淡い夢の残滓が意識の端を霞のように漂っていた。
しかし、それも束の間、現実の冷たい空気が肌を刺していた。
ゆっくりと洗面台へ向かい、手を伸ばす。
蛇口を捻ると、低温の水が勢いよく飛び出し、掌の窪みに収まる。
それを顔に打ち付けると、ひんやりとした刺激が眠気を駆逐し、意識が鮮明に研ぎ澄まされる。
水滴が皮膚を滑り落ち、陶器の洗面台に響く規則正しい滴下音が、無音の空間にささやかな律動をもたらしていた。
夜の残り香が漂う薄闇の中、静謐な時間が流れていた。
「イテッ」
不意に走る疼痛。
薬指と小指に微細な違和感が生じる。
昨日の移動による負傷か、それとも別の要因かは判然としない。
特段問題のある痛みではないものの、わずかに指の可動域が制限される。
試みに伸ばそうとすると、僅かな痙攣が指先を走った。
骨の軋むような感触が、単なる疲労の産物なのか、あるいはそれ以上の何かを示唆するものなのか、考えがめぐる。
思索を巡らせていると、背後から規則的な足音が接近する気配があった。
「おはよう。兄さん」
ツィアが、半ば眠たげな瞳を擦りながら、柔らかな声音で少年に挨拶を投げかける。その顔にはまだ幼さが残るが、その双眸の奥には確固たる意志が宿っている。
彼女は小さな身体を精一杯伸ばし、まるで何かを確かめるようにこちらを見つめていた。
「おはよう。今日は折角だから、この都市の様子を朝から見て回ろうと思うんだけど、一緒に行くか?」
「行く」
迷いのない即答。
少年らは、部屋の隅に無造作に積まれた荷物を横目に、手元に残った僅かな貨幣を握りしめる。食糧の備蓄が尽きているため、外で朝食を取ることに決めた。
家を出ると、都市は依然として眠りの裡にあった。
昼間の喧騒とは異なり、人の気配は希薄で、張り詰めた空気が周囲を支配している。
しかし、空間を包む翡翠色の輝きが、沈黙に満ちた世界を柔らかく照らしていた。
無数の微光が、霧のように宙を漂い、冷たい石造りの壁や地面に淡い輝きを投じている。
この階層に密集する住居群は、白や灰色の石材を用いて精緻に造られており、新築のような清潔感を漂わせていた。
しかし、それに紛れるようにして、年季の入った木造の建物が点在し、それらが都市の歴史の深さを象徴しているかのようだった。
──この都市には、一体いつから人が住み始めたのだろうか
— μετά—
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