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地下都市13

なろう作品らしい表現でふわっと投稿するなろう特有の少年の一人称視点的作品が見たい人はこちらもどうぞ。

     → 恢攘のフォクシィ https://ncode.syosetu.com/n3085kf/

 黎明の光すら届かぬ静寂の中、都市は未だ眠りの胎内にあった。


 幾重にも折り重なる沈黙の層を切り裂くことなく、少年は意識を取り戻す。

 寝具の温もりを剥がし、ゆるやかに身体を起こすと、淡い夢の残滓が意識の端を霞のように漂っていた。

 しかし、それも束の間、現実の冷たい空気が肌を刺していた。


 ゆっくりと洗面台へ向かい、手を伸ばす。


 蛇口を捻ると、低温の水が勢いよく飛び出し、掌の窪みに収まる。

 それを顔に打ち付けると、ひんやりとした刺激が眠気を駆逐し、意識が鮮明に研ぎ澄まされる。

 水滴が皮膚を滑り落ち、陶器の洗面台に響く規則正しい滴下音が、無音の空間にささやかな律動をもたらしていた。

 夜の残り香が漂う薄闇の中、静謐な時間が流れていた。


「イテッ」


 不意に走る疼痛。

 薬指と小指に微細な違和感が生じる。

 昨日の移動による負傷か、それとも別の要因かは判然としない。

 特段問題のある痛みではないものの、わずかに指の可動域が制限される。

 試みに伸ばそうとすると、僅かな痙攣が指先を走った。

 骨の軋むような感触が、単なる疲労の産物なのか、あるいはそれ以上の何かを示唆するものなのか、考えがめぐる。


 思索を巡らせていると、背後から規則的な足音が接近する気配があった。


「おはよう。兄さん」


 ツィアが、半ば眠たげな瞳を擦りながら、柔らかな声音で少年に挨拶を投げかける。その顔にはまだ幼さが残るが、その双眸の奥には確固たる意志が宿っている。

 彼女は小さな身体を精一杯伸ばし、まるで何かを確かめるようにこちらを見つめていた。


「おはよう。今日は折角だから、この都市の様子を朝から見て回ろうと思うんだけど、一緒に行くか?」


「行く」


 迷いのない即答。

 少年らは、部屋の隅に無造作に積まれた荷物を横目に、手元に残った僅かな貨幣を握りしめる。食糧の備蓄が尽きているため、外で朝食を取ることに決めた。


 家を出ると、都市は依然として眠りの裡にあった。

 昼間の喧騒とは異なり、人の気配は希薄で、張り詰めた空気が周囲を支配している。

 しかし、空間を包む翡翠色の輝きが、沈黙に満ちた世界を柔らかく照らしていた。

 無数の微光が、霧のように宙を漂い、冷たい石造りの壁や地面に淡い輝きを投じている。

 この階層に密集する住居群は、白や灰色の石材を用いて精緻に造られており、新築のような清潔感を漂わせていた。

 しかし、それに紛れるようにして、年季の入った木造の建物が点在し、それらが都市の歴史の深さを象徴しているかのようだった。


 ──この都市には、一体いつから人が住み始めたのだろうか





  — μετά—

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